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無笑 ~正月から自称ヤクザが怒鳴り込んでくる程度にはどこにでもある日常編~  作者: 鴉野 兄貴


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鴉野と乙女の哀願

 街中をあてもなく歩く男に若い娘が彼に助けを呼ぶ。

 そして彼女の店を狙う街の害虫を男が退治して事件は解決。

 冒険者とか時代劇とかハードボイルドならよくある話である。


 しかしそんな実体験が普通ありうるわけはなく。


 ああ。困った女性(それも好みドストライクの美女)を華麗に助けて身体、もとい彼女だか恋人だかを手に入れられんか云々というのは健全な男性、特に妄想著しい若人なら一度は考えたかもしれない案件である。


「お願いします助けてください」


 道を歩けば暴漢に遭う。


 街を歩けばリストカッターとその彼氏の喧嘩に巻き込まれる。

 職場を出れば襲撃者が待ち構え、閉店間際のDQN相手に臨死する。


 何がすごいかって病院送りにされても『あの人はいつものこと』で済むのに、勉強サボってキャラの掛け合い割烹をかけば『遂に勉強が忙しくて壊れた』と心配される。そんな男がいる。


 店番をしているだけでミゼットが『支払いに来た』といって玄関先に突っ込んで来たり、軒先で車が方向転換のために『毎日』入ってくる程度には特殊な運勢の持ち主の男。


 その男に彼女は哀願する。


「お店に出る……」


 悪党を倒して云々をするにはモヤシなのがその男の問題点である。

 一応、趣味は筋トレであるが、好きと特技は一致しない。


「ゴキブリを退治できますか」

「はい?」


 もちろん、その男とは筆者。すなわち鴉野である。


「ごきぶり?」


 相手はどう見ても飲食業である。

 ヤクザと殴り合いはさすがに鴉野では役にたたない。


「ゴキブリです。虫が苦手で。特にゴキブリは」


 目の前には閉店作業中の飲食店。


 その制服を着た若い娘さんは何を考えているのか鴉野に自らの店のゴキブリ退治を依頼しており。鴉野は仕事明けに飲食店を探して街を歩いていたわけで。


 うん。普通の厨房である。

 うん。美味しそうに程よく汚い。


 そして食べ物の匂いが食欲を増す。


 ゴキブリさえいなければ。


 ちなみに鴉野はゴキブリごときは素手で捕縛できる。


「そ、その下にいます! いるんです。おねがいたすけて」


 えっと。飲食業ですよね。職業意識はどこに。

 まぁ店を置いて敵前逃亡しなかったことだけは認めざるを得ないが。


 すいません。ゴキブリさん。らせていただきます。恨まないでください。

 ちなみにゴキブリと白アリ族は復讐のためのホルモンとかを出すらしい。

 その黒くて光って時々飛ぶイケメンな奴をブッチリと踏みつけた鴉野。

 どちらかというと娘さんの心象のためである。


「えと。何処に捨てれば」

「あああっ?! はい」


 娘さんの差し出した袋の中には美味しそうな食べ物が。


 飲食業が閉店作業をするということは当然それまでの作り置きは廃棄物になる。


 うげえ。食い物がもったいない! 嫌だ! この中にゴキブリを入れたくない!

 ゴキブリを倒すことより食い物を粗末にすることに葛藤を覚える鴉野。


 そもそも食い物を求めて飲食店街をうろついていたのである。


「ああ。その。封をするのは辛いだろ。やっとく」

「ありがとうございます! なんとお礼をしていいのか」


 うーん。これは新手の逆ナンパなのか。

 街を行く男に『ゴキブリを倒してください』これは流行る。

 わけがないよね。


「えっと。あそこの店の店員だから、今度利用してくれたらいいよ」

「本当に本当にありがとうございます。喜んで利用します」


 こうして鴉野は帰宅した。

 え。飲食店に寄ったのかって?


 寄るわけないじゃないか。


「ただいま。なんか若い娘さんの依頼で黒い魔物を倒してきた」

「?」

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