1000万円の行方
『知り合いの息子さんが四〇になったのに結婚相手がいない。年収は一〇〇〇〇〇〇〇はある筈なんだけどなぁ。
近所の○○ちゃんなんてどうかしら。良縁だと思うんだけど』
ゆっこさんがしょうもない相談をしてきた。なんか男でいいから嫁にこいとか鴉野なら言いだしそうだと読者様は思われるであろうが、さすがにそんな趣味はない。鴉野の年齢では性格が合うかどうかのほうが重要だ。
○○嬢は鴉野もよく知っている。
鴉野の知っている彼女は美女ではない。
プライド高めでちょっとぶっきらぼうで態度がよろしくない。
学歴、教養は申し分ない。金持ちではないが毛色も良い。
音楽講師としての能力が高く、自立している。
年齢は相手と二歳差でちょうど良い感じだ。普通なら。
『無理』
鴉野は断言した。
「その歳で結婚していないってことは二次元が友達かロリコン、遊びの女のほうが都合が良いヤツだ。
自分はまだまだ十代二十代にモテると思っているから結婚相手は見つからない。金があるならなおさらとっかえひっかえで金目的の女が寄ってくる。よって○○ちゃんは無理」
というか、○○ちゃん的に絶対幸せになれない相手だと思う。
「知り合いはとっても難しい人だから息子さんのお嫁さんは良い人でないとダメなのよね」
お前が原因か親父ッ!?
原因は息子より親のほうにありそうだ。○○ちゃんに高齢出産させる気かよ。
それは若い娘でなければだめだ。最低30代前半。それだって旦那の種が古いから失敗する可能性が高い。自分だって高齢出産のストレス知っているだろうがっ?! ゆっこさん!
子供は授かりものだ。授かりものということはできないときは本当にできないってことだ。毎晩ガンガンやらなければ出来ねえよっ?!
仕事仕事の四十男なんてできたらとうの昔に嫁もらっているか、若い愛人こさえて嫁などには興味ないよッ?!
真面目に言う。
本気でモテないヤツは結婚詐欺師すら寄ってこない。
寄ってくるだけ資産価値があると見て良い。
加齢は本人が思っている以上に自分の資産価値を下げている。
中国の人は結婚相手が金持ちならさほど気にしないらしいが限度がある。
若い娘の相手を毎晩は辛いし、相手もいろいろ気を使う。
健康と寿命は金で買えない。
生活するには金が必要だ。
趣味をするには余裕がなければいけない。
行動を起こすには教育がなければ発想すらできない。
余裕がなければ金も健康も寿命も有効活用できない。
健康と寿命は金では買えないが、節制はできる。
健康は金では買えないが、歯科に通ったりジムで運動能力は高められる。
運動能力が高ければ行動範囲が広がる。結果的に時間も節約できる。
時間がなければ何もできない。
鴉野は去年ロボット掃除機を、今年は携帯電話を買った。
高い出費だがちゃんと帰ってきた。
鴉野は漫画やゲームを処分し、アニメも見なくなってラノベもやめた。なろう一本に趣味は絞っている。
将来の得っていうのはケチでしみったれていて、倍近くの損をして捨てていかねば手に入らない。今年は自転車資格と学業その他でなろう活動そのものがピンチである。
得の反対は損じゃない。『何もしないこと』だ。
まぁ鴉野が一番好きな行為は『何もせず寝ている』ことであるのだが。
正直、鴉野のような人格に問題のあるワープアに嫁に来たいという奴はいないが、鴉野の知り合いを総当たりすればもっと若くてもっと適切な女性を紹介できると思う。両親との折り合いは何とか自分たちでしろ。
『元暴走族とか、腕の良い泥棒を紹介できる人とか、IT企業の社長とか、高校生とか、トラックドライバーとか、作家とか、編集者とか、新聞記者とか、ホモとかレズとか、たこ焼き屋の店主とその常連とか、風俗嬢や半分ニートのワナビとかとその知り合いなら紹介できる』
「そんなのダメに決まっているじゃない!」
母は否定的なことを述べたが、その案件だと彼に有利な条件は『年収』だけであり、鴉野が協力できる案件になってしまう。家族にも問題あるようだし。
鴉野には友人といえる男はSしかいないが意外と顔は広い。そのSだって頻繁に付き合っていたのは学生の時分だけで、年に一回遊びに行くか『たまに娘の写真を送れ』とメールする程度の付き合いである。
逆を言えば思い出を語り合うだけの友人より腕のいい泥棒でも紹介しろといわれたら話をつなげる程度のゆるく広いつながりのほうが実利がある。
そのためにはリスクが必要だ。『こいつは絶対裏切る』というのもある種の信用といえなくはない。ゆえに広く浅くしか付き合えない。遊び合うなら可能だが深入りなどできるはずがない。やはりSのような友人は貴重である。
それでもたったひとつ一つわかることがある。
鴉野の資産価値は。うんこ以下である。
うんこうんこ~~!




