アルバイトにいこう 要塞の鴉野 兄貴
「でぃの5」
「はい」
鴉野は要塞のような建物で配線作業をやっていた。NTTの電話回線はこの要塞の中に存在する。電話番号の契約変更があるたびにアルバイトが回線をつなげなおす。
なお、Dは「ディー」だが「でい」と呼ぶのは聞き取り間違いを避けるためだ。このアルバイトは普通の給料だが結構おいしい。契約社員なので更新式だが、八時間形式だし残業代もある。出張もあるがそれなりにいただける。例によって配線ミスが多いといわれる鴉野だったが。
ごはんも持ち込める。仮眠所があるので泊りも可能らしい。ソフトバンクなどの他の会社の回線もここにあるらしい。貸出らしいが詳しいことは忘れた。
寒いしベテランの人は怖いし、良い印象はないがおじさん方は優しかったと記憶している。
こういったアルバイト、旧公社系はかなり条件が良い。
有給があったり、ちゃんと残業代が出たり、出張手当をくれたりする。
不当な罰金がなかったりするのもありがたい。
拘束時間が長いが、その分期間中はがっぽり稼げる。休憩もあるし。
大学の学費が高くなった現在、苦学生が自分で稼ぎながら学費を出すことは事実上不可能になってしまった。
今では京大生でも居酒屋で膝ついて接客だ。いろいろと世知辛い。
学費は払えなくても無駄な出費を抑えるために、可能ならば公社系や運転免許の学校、地方の市役所、ゆうメイト、歯科の事務員などの相応の仕事があればそちらを選ぶと良いかもしれない。
お金は社会人になってからなんとか稼げるが経験はそうはいかない。
鴉野的にあの要塞内部に入る鍵を一時預かれたのは結構いい経験だったと思っている。




