すとっぷ。どりんくおぶどらいびんぐ!(SDD) おまーるえびとホモとヨッパライ
「鴉野さん! 呑みに行きましょう!」
久しぶり登場仮想人格君。良いところに来たな。最近いい店見つけたからそこに行こうぜ。
「特別サービスで一品だけ割引。高級ステーキ300グラム1000円もしくはオマールエビの丸蒸し1600円もしくは大きな焼きカニが980円を選べるんですか」
うん。しかも超美味しい。あと、ほら、スパークリングドリンク団体無料券もらったんだ。
「いいすね! 今すぐミゼット乗って呑みに行きましょう!」
……ん?
いや、駅前だぞ。近いから歩いたほうが良いだろ。
「面倒じゃないですか」
いや、アルコール呑みに行くんだろ。
「ええ。恋破れましたからね! 今日は呑みます」
ちなみに?
「聞いてください。ジュニアアイドルの○○ちゃんに彼氏がいるみたいなんです」
その子、小学生じゃなかったっけ……。いや言うまい。
というか恋ですらないだろ。向うは認知してないだろうし。
「僕の一途な思いを察してくださいよっ?!」
ロリコンはちょっとねぇ。
「だから、今日はガンガン呑みます」
俺、成人前に免許取って以来車運転したことないんだけど。
「へ? 鴉野さん呑まないのですか。というか、他人が運転したとき何かあったら車の所有者の僕の責任になります。やめてください」
ああ。じゃ、運転代行を頼むのか。なるほど。
「もったいないじゃないですか」
「おい」
「はい?」
歩くぞ。歩いたほうがストレス解消になると昔の人も言った。
「いででで?! 鴉野さん耳引っ張らないでくださいよ~!」
「今日は驕ってやるから好きなだけ食え! 酒代は出してもらうがッ?!」
「えっ?! 伊達ありがとう!」
伊達ちゃう。でもまぁ許そう。
さて前置きがクッソ長くなったが大阪のラジオ局は『SDDプロジェクト』と称して飲酒運転撲滅のために音楽番組をやっている。鴉野はどうでもいいと思っているが職場の選局がこれなので聞かざるを得ない。
ちなみに酒を呑むなと言っているわけではない。楽しむのは良いが、酒を呑んだ状態で車を運転するなということである。至極まともな意見と言えよう。
「ちょっとなら良いじゃないですか」
「あのなぁ」
まぁ鴉野とてアルコール度40パーセントのバーボンをコップ三倍呑んで一本歯下駄履いて素振り百回とか普通にやっているし、酒気を帯びているのに軽車両である自転車に乗っていたりしないとは断言しないが。
「酒気って怖いもので、ちょっと寝て気分が良くなっても残っているんだぜ」
自覚はなくても影響はちゃんとある。スポーツ選手には常識だろうけど。
「鴉野さん。このオマールエビマジ美味いっすね」
うん。ここのは本当に美味しい。って何話そうとしてたっけ。
「あ、俺のステーキ少し食うかい?」
「食べます食べます! じゃこっちの脚あげます」
オマールエビの脚なんてなんも入ってないじゃないか?! まぁ良いや。
はむはむと言いながら肉汁いっぱいのステーキを口に運ぶ彼。シュワシュワと音を立てるスパークリングワイン。ステーキの湯気とワインの器の露。熱気と冷気。塩気と甘味。
「うまい! うまい!」
「そりゃよかったね。また金たまったら来ようぜ」
しっかし。はむはむと料理を口に運ぶ彼。物思いにふける鴉野。別に今月の小遣いを皆彼に喰われたからの現実逃避ではない。と思いたい。
「ニンゲンて限定合理性の塊だよなぁ」
「へ?」
こら、食ってからしゃべれ。まったく。
「限定合理性って経済学のアレですよね。『人間は常に合理的判断をして行動をとるわけではない』っていう」
うん。あと、情報の非対称性って言って人間が得られる情報は限度があるので与えられた情報でしか行動できず、情報を得るためには相応の行動が必要ってのもある。
「企業の存在価値はそういった情報の非対称性などを解消するため。でしたっけ」
そうそう。取引費用っていうの。仮想人格の言う通り模索と情報の費用だね。ほかに考証と意思決定の費用、監視と強制の費用を合わせて言うんだけど。
「ホモじゃないって言ってるでしょう?!」
「それはお前の大学の校章だッ?! 俺が言ってるのは考証だって?!」
どうしてこの二人だと高尚な話から遠ざかるんだろう。まぁ実質一人で話しているからだが。
しかしさすが大阪では有名なホモの学校だけのことはあるな。見直した。
「うちの経済大学の校章がホモマークなだけですよっ?! 蒸し返してネタにしないでくださいっ?!」
まぁ、俺は数学ダメダメで、お前さんみたいにゲーム理論とか言われたらからきしなんだけどね。
「まぁ簡単に言うとさ」
「ええ」
「『飲酒運転をしたほうが、人間社会は儲かるから飲酒運転は撲滅できない』と考えたほうがスマートだよな」
「その想定は限定的合理性をそれこそ視野に入れていないうえでの結論になりますけど、そうですね」
SFはたった一つの仮定を基に想像力を用いてありえない未来の物語を作るけど、経済学は数学と統計を辞意的に使って結論を導き出す。
「経済学者がきいたらキレますよ」
「まぁ許してくれ」
本題である『飲酒運転があったほうが社会は儲かる』か否かは本職の経済学者さんのご意見が聴きたいところです。
間違った専門用語や考察を使っても恥をかくのは結局鴉野一人なのである。




