Review(レヴュー)! 零(でろ) 第五話 輝きを疑うな
連続投稿二回目
「だから、日本人の悪行を某国の皆のために私は伝えないとダメなんですよ」
還暦の大工のおっちゃんは鴉野と非常に馬が会うのだが、悪い癖があった。
帰りの電車が一緒なので、その異国籍の皆と仲の良いと言うおっちゃんと鴉野は同じ電車で帰っていた。
「大工でこの辺で困ったのは商習慣だったなぁ」
「???」
「年末でないと請求できないんです。そうしないと常識はずれと言われる」
「は、はぁ」
「そして年末になると社長どもは逃亡する」
「……ダメやん」
とりあえず。よく喋る。そして。戦前日本悪玉説の人だった。今では逆に珍しいタイプだ。
「鴉野君! いいかね! モテたいなら一人二人と言うなッ 五人は同時に作れッ そうすればもめないッ」
「一人で良いんですけど……」
困ったおっちゃんである。
曰く、コソコソ隠そうとするより五人一斉に養う甲斐性を男は持つべきで、そうでないなら浮気はするなっと言うことらしい。
「一人分けろというがトンでもないことですよ。二人三人なんて絶対もめます」
うーん。鴉野は呆れるしかない。
当時の鴉野は。
『ホラー仕立てで走って行く話と見せかけて深夜にのみ開くラーメン屋の行列争い』
『基督教の葬式にて恩師をなくした悲しみを見当はずれの怒りとして周囲にぶつける』
かようなどうでもいいものを書いていた。
彼もまた、帝国時代の日本の悪行を告発する小説を書いて毎回発表していたが、ある日彼は何を思ったのか、幼少期に丁稚として旅立つ彼自身の物語を書いてきた。
絶賛したのは鴉野だった。
他の皆がどういう反応をしたのかは覚えていない。
ただ、鴉野が彼と話した日本の過去についての話は今でも覚えている。
『若き将軍の朝鮮戦争』の一節からの話題だ。
「日本人は当時禿山だった朝鮮の山に植林の素晴らしさを告げにワザワザ来ていた。悪いだけではない。人は未来を目指して、民族を問わずにキラキラした思いを持って生きていく」
「日本が敗戦し、『日本はこれで終わりだ』と名将軍。白将軍は思ったが彼の妻はそれを否定する。『彼らは明日船に乗って日本に帰るのに、仲間の日本人のために畑を耕している』あんな民族は滅びない」
憎しみを伝える事も大事である。
だが、キラキラ光る思いは。それを抱いた人々の記録もまた。絶やしてはいけないのだ。
その後、彼は自伝を元にした作品を卒業まで描くようになる。
彼の語る『日本の真実』と違い、幼き丁稚少年からみた戦後の日本はキラキラと輝き、美しく見えるものだった。
もし生きていたらあのおっちゃんはトンでもない歳(と言ったら叱られるが)になっているだろう。
そして今でもきっと彼は若き日の輝きを描いている。
鴉野はそう信じている。
そして、我々が酒の肴にしながら熱く語った瞳の輝きは。『青春』の光に他ならかかったのだ。