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無笑 ~正月から自称ヤクザが怒鳴り込んでくる程度にはどこにでもある日常編~  作者: 鴉野 兄貴


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襲撃 襲撃 また襲撃 ~肩が抜けても殴り続け、腰が抜けてもおねえちゃんに軽口を放つ日常~ 無敵の人

 無敵の人という表現の仕方がある。

別に喧嘩が強いとかそういう人間ではない。


社会と精神的に断絶され、友人がおらず、他人に愛情を抱かない。収入は低く社会的地位もなく、死んでも誰も悲しまないし自分自身も何とも思うことができない。

結果的にいつ死んでもいいというか自分自身への自己愛が完全に欠落しているためいつ犯罪を起こしても何の痛痒も感じない人種らしい。

 黒子のバスケ連続脅迫事件の犯人が述べている最終意見陳述が切ない。どちらかというと鴉野もこちらのほうだと思う。


 母であるゆっこさんは長生きして人生を楽しまねばというが、鴉野には子供も妻もいないし別に長生きしたところで楽しむことなんて全くない。

そもそも鴉野の一族は短命で、遺産相続人が母や兄弟と甥っ子姪っ子しかいないのに何のために安月給を削って貯金までしているのか意味不明である。

実際一族の中には貯金どころか『金はあったら使う。なければ持ってる身内にたかる』という考えの輩もいた。金がほしい時だけ電話してくるのはやめてほしい。鴉野が貯金をするのは面倒な一族の輩を反面教師にしたというより単純にああいう輩になりたくないという反抗心でしかない。生命保険として貯金しても恐らく使うことはなく死ぬだろうし。


 母は小遣いをこまめにためて山のぼりを楽しんでいるが鴉野としてはどうでもよく、金と体力使って山登ってもうれしくもなんともない。本人が楽しんでいるみたいだから応援はするが興味はない。


朝早く起きて夜遅く帰宅する生活なので別段あえて新聞などを見る必要はない。なぜかというと社会的地位が上がる見込みは全くなく、月収が20万を超えたことなどないからだ。漫画とかゲームとかアニメとか見れば楽しいかもしれないがまとめてみることができるわけでもないのでやっぱり興味がわかない。そもそもそんなもの見たところで生活が変わるわけでもないのだし。趣味は小説を書くことであるが、別段書かなくても良い。むしろ書かなくて済む。書かずとも多額の生活費が入るならそれに越したことはないと思っているが。


 鴉野が今の会社を選んだのは以前の会社が床下系のちょっとアレな会社であり、収入は多いがいろいろな意味で困った会社であり、報酬は良いから家に近くて自由な時間をくれてなおかつ保険関係がしっかりしていたから今の会社を選んだのである。今はちょっと朝から深夜でどうかと思うが理由の多くは通勤時間が長い、および二時間しか入らないのに通勤時間が二時間以上だったりするからである。


『収入は増えないけどそれでもいい?』


 鴉野が就職するとき社長はそういったが鴉野はそれで問題ないと思った。

 好きな遊びができる。創作に専念できる。有給はあるし自分でシフトも組める。ある種創作をするにはうってつけの仕事である。繁盛記は過酷だがそうでないときは繁盛記に向けて予備の事務をやっておけば繁盛記の過酷さも回避できるし。


 しかし、それはよろしくない。


 好きなことを好きなだけできる。そのうえで収入もあって好きなことを維持できる。それはとてもいいことに見えるがそうではない。


 一時の悦楽を求めるうえでは構わないがそれでは人間進歩がない。

 進歩がないというか、進歩できない。そもそも収入がない、昇給の見込みがないということは将来は同じ暮らしをし続けるということである。

 人間は収入と余暇をもとに己の行動を決める。一番わかりやすくて無難な意思決定は『昨日と同じ一日を過ごす』である。要するに恋人を作ったり家庭を作る必要がなくなる。

 一時の悦楽を求めている。同じ人生を過ごすというが、人間に老化がある限り同じ人生では絶対にありえない。年とともに同じ人生を生きているつもりでもその人生は明らかに劣化している。


 そもそも安月給でずっと過ごせるということは安月給で働ける若い人間と差し替えることが可能ということでもある。突出することも求められないし、無難に一日を過ごせればいい。一時の快楽を求めていればそれでいい。


 それはそれで結構な暮らしと言えるが、そんな状態で生きていても楽しいものでもないので、ただ空しいだけである。

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