襲撃 襲撃 また襲撃 ~肩が抜けても殴り続け、腰が抜けてもおねえちゃんに軽口を放つ日常~ チビ助はばーさーかー
昔、鴉野が某店舗の店長業務を行っていた時代、鴉野or大学生の女の子と還暦過ぎの小柄な男性コンビの何れかが閉店作業を行っていた時期があった。
「外に出てきたら襲う」
……。
鴉野は閉店業務後、致し方なく記帳などをやって暇をつぶしていた。
男は酔っぱらっているのだろうか。酔っぱらっているのなら酔いつぶれて寝ていてほしい。路上だけど。
「だから、襲撃予告をしたおっさんが店の前で待ち伏せていてですね」
「見回りしたけどなんともないぞ」
鴉野は電話で何度も警察に救援を要請したがまったく相手にしてもらえなかった。そして鴉野をバカにする警察。埒があかない。
出口に襲撃予告をしておっさんが待ち伏せして、警察を呼んでも相手にしてもらえず、夜中三時になっても帰れないという事態に陥った鴉野。
もう仕事らしい仕事がない。というか眠い。
キレた鴉野は警察に電話を入れ、鴉野をバカにし続ける彼に告げた。
『万一相手が死んでも(助けに来ない)お前の責任だから』
相手はバカにして笑っていたのを今でも覚えている。
しかし鴉野は女性より小柄で細身のチビである。
当たり前だが標準的な体格のおっさんを殺すことなどできるはずがあるまい。
のだが、キレた人間というのは意外な力を発揮するものである。
『こいつをここでぶっ潰しておかねば俺が出勤の日はまだしも女の子が危険に陥る』
思い込んだ鴉野はさっそく絡んできたおっさんを思いっきり殴りつけた。
力強く殴りつけた勢いで肩が抜けるのがわかった。
それでもそのまま腰のスナップでガンガン相手の顔面を痛打。どうせ空手で正拳突きを放つとき、肩の力は入れない。むしろ好都合だろう。腕がよく伸びるじゃないか。
そ う い う 問 題 で は な い 。
手首を持ち上げ、腰を使ってガンガン打ち込む鴉野。痛くないのか? そんな疑問を抱く方がいらっしゃると思う。そもそも肩が抜けているのに人間を殴り続けたという経験がある方がいらっしゃるというお話は鴉野も聞いたことがない。痛いとか感じている間があるわけがない。
相手は夜中三時までひたすら待ち伏せするような輩である。女の子が襲われたら腕が抜けるだけでは済まないだろう。ここで倒しておかねばダメだ。
謎理論だが脳みそが睡眠不足とともにアドレナリンでパーになっている場合こんなものである。そしてブチ切れた人間というものは痛みを忘れるものである。ゆめゆめ忘れることがないようにしていただきたい。
しかし痛みを感じなくなっても腕が動かなくなっていくのはわかる。
戦闘続行不可能になるのを予期した鴉野は致し方なく逃亡を選んだ。
自転車で救急病院まで逃走。
戦闘が去ってアドレナリンが切れた鴉野は重たい塊の腕をマフラーで抑えつつ、通常の三倍の時間をかけて病院に。
そこでは『いやあ。あなたのような美女に心配してもらえて光栄です』社長仕込みの軽口をたたく鴉野がいた。
肩抜けているのに。
『いやあ。襲撃受けて肩抜けました』
『?!! ふゃ?!』
社長一族に電話する鴉野。
深夜四時過ぎに電話してくる社員もアレだが、起きていたというのもすごい。そうこうして社長一族が病院まで迎えに来てくれ、鴉野の長い夜は終わった。
その後、相手がこともあろうに警察に『殴られた』と訴えてくるというコントみたいなことが起きて発覚。警察に事情説明お咎めなし。肩は一年くらい動かなかった。
結論。
人間、キレたら肩が抜けてもその腕でパンチを打ち続ける。
昨今は女性のための護身術とかぬかして芸能人が『あいたたた』とかコントみたいなことをやっている映像があったりなかったりするようだが、キレた人間というものは痛みを忘れるし、腕が抜けても殴り続けるものである。
かつての日本軍は特攻時、童謡を歌いながらスクラムを組み、腕がふっとばされても脚がふっとんでも這いずってきたという話がある。拳より殺傷力のある銃で撃たれてもそうなる。
信念というかキレた人間は立ち向かってくる。
一向一揆のように歴史的な事実として死んでいるはずの人間が攻撃してくるとか結構あったらしい。
『鴉野君。普通の人間は肩が抜けたら人を殴らん。殴れんのや』
『そう思います』
知り合いの警察があきれながらそう告げると鴉野はあっさりそれを認めた。
「でも、今回は助けに来るどころかバカにし続けた警察が悪いっすからね」「うーん」
人体構造を熟知すること、訓練を施すことで軽い力で大柄な男性を転ばせたりすることは不可能ではない。同じように関節技が完全に決まれば痛いし、股間を蹴り上げられたら女性でも悶絶する。
『こうやれば無力化するから~』
身体構造を熟知したうえでの机上の武道理論は医者としては正しい。しかし戦いの中では通用しない。
ましてや女性の腕力でちょっと殴ったくらいでは最初から(主に下半身が)獣状態の暴漢には話にならない。
小柄な鴉野でもバーサーカー状態になればこーなる。標準体格以上の性犯罪者の恐ろしさは普通ではない。間違っても危険なところには近づかないことをお勧めする。
と、いっても『ここを通らなければ家に帰れない』というケースは往々にして多々ある。夜道にはくれぐれもご注意し、初動でブザーなど少しでも安全になるように気を使ってほしい。




