Review(レヴュー)! 零(でろ) 第四話 プロット? 人称? 小説家になる? なにそれ?
このメンバーで文章を書いて飯を食う人間と言えばスポーツ新聞記者の男しかいない。あとはド素人集団と言って過言ではない。一応、哲学屋はいるが、彼を小説家志望と言っていいものか。
オンボロビルの上の小さな教室のパイプ椅子に身を寄せ合い、鴉野たちは早くも精力的に次週までに何か書いてくる面子とそうでない面子の差が出ているのを感じていた。
要するに、書かなくても許されるのである。許されるのだッ?!
『いいんか。それで』
というか、小説の書き方なんて聞いた事もないぞ?!
鴉野にとってプロットが必要だの、人称定義だのそういう知識は『ネトゲ実況板ラノベ部』の人々や、『小説家になろう!』の他作を読みながら、マイナースレの皆にお叱りを受けながら習得したのである。要するに、このころはその概念すらない。
「ああ。俺の若い頃は『貴様の小説には革命精神が足りない』といって殴りあいもしばしば」
チューターはトンでもないことを平気で口走った。なんですかそのマジキチ集団。
「いやぁ。当時はまだ日本が負けたばかりでねぇ」
いつから生きてるんですか。あんた若いでしょう。
「だから、自由に書いていいんだ。芸術ってのはねえ。規制していいもんじゃないよ」
は、はぁ……。
こうして風呂場に放り込まれたノラ猫軍団のような小説家の卵? どもの生活は始まった。
上は還暦過ぎから下は鴉野のような二十代。ギリギリ戦前世代もいるし主婦もいる。無職(?)もいれば社会人もいるし、とにかく怪しい人物(失礼!)もいた。
誰かが覚醒剤(当時はヒロポンという名前で薬局にて販売されていたらしい)について、「アレは確かにヤバいね」とか色々言ってた気もするがここでは触れない。怖いし。
あまりにもリアルな発言に周囲ドン引きだったのは覚えているが。
鴉野たちはお互いの書いたものに意見を交わしあい、熱く語ったあとは酒の肴にして悪口は水に流す。
『小説家になろう!』それはウソだ。
皆自分の生活が大事で、それを守りたい。
同時に、『自分たちの物語』を残したい思いは共通している。
「あ。私明日早いので申し訳ありません。お先に」
深夜、終電を逃さないように程ほどで切り上げ、ほろ酔いで帰る作業服姿の若き鴉野の頭上を、輝くオリオン座が見守っていた。




