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空土 海

空想作り


 ――男は剣を得た。選ばれし者が持てば闇を切り裂き、光の下に世界の危機を救う剣。はるか昔の伝説で出てくるそれは世界救う、しかし現れることは世界の危機が起きる前触れだ……


「というプロローグのような夢を見た」

 電車の中眠そうに眼を擦っている中学生にも見える小柄な少年は夢の話をしていた。

「この間の姫を助ける話はどうなったんだよ」

 少年より背が頭一つ半ほど大きな青年は、数日前の話題を引っ張りだしてきた。

「あれは――」


 姫を助けるため勇者なる者を募集、そこである男は姫を助けるため敵も他の募集で来た男も皆殺し、強く残虐な男は姫を助けるも『あの男は悪魔のようだった』と言われ報酬を受け取り、すぐに男は行方をくらませた。


「という話になった」

 淡々と口にするも、少年からは眠気しか感じられない。

「……そうか、別に姫を助けてハッピーエンドでもいいじゃ――」

「ベタ」

 小声で呟かれた言葉はしっかりと青年の耳にも届いていた。

「いいじゃねえか! ベタでベタなものこそ王道――んぐ」

「うるさい、迷惑だ」

 少年の寝返りを打つように無造作に振るわれた手が青年の顎を突き上げた。青年は顎を擦りながら周囲に目をやる。

「……だからってなーもう少し方法ってのが……」

 悪びれもせず外を見つめる少年に対し諦めたようなため息が漏れる。

『まもなく竹実に到着します』

 車内にはアナウンスが流れる。

「お、やっとか……おい」

「ん? ついたのか?」

 隣の少年はうたた寝をしているので軽いチョップで叩き起こす。少年の再起動には時間がかかるようで動きが鈍い、手を引かれホームへ降りる姿は父と子のようだ。

「おら、起きろ」

「う、うぇ」

 すごい速さで少年は前後に揺すられ、気分が悪くなったようだ。

「おいおい、これから毎朝これなんだぜ? 大丈夫かよ?」

「……お、お兄ちゃんがいるから平気」

 上目使いでもじもじした仕草をし出す少年を目に青年は機能停止に陥る。

「いや……俺は……別に……」

「これだから変態は」

 クネクネとし出す青年を置いてさっさと少年は歩きだす。少ししてから青年が追いついてきた。

「……おまえなー」

「なんですか? ロリコンさん、いい加減僕に発情するのはやめてほしいんですが」

 青年グサリと何かが刺さる音が聞こえてくるかのように胸を押さえる。

「い、いやいや男に――」

「ロリもショタも一緒なのか?」

「なんだと! そんなこと――ぐへ」

 無言で少年の裏拳が頬を打った。

「前に聞いた、長すぎるしもう聞かない」

 青年はまたため息を吐く。二人の向かう先には大学があった。



 入学式を終え、大学の講義の説明を受け解散となる。

「やっと終わったか」

 立ちあがり体を伸ばす先ほどの青年は少年を探していた。

「お、いたいた、爆睡してんなありゃー」

 近づいていくと一人の男が少年に話しかけていた。

「おーい、起きてくれよ――うわ!」

 少年の肩を軽く揺らすと、返事の代わりに拳がとび、ギリギリかわしていた。

「よ、こいつ起こすにはコツがいるんだよ!」

 少年の肩を後ろから持ち思いっきり前後に揺らす。

「う~」

 眼を擦って起きようとする少年を尻目に青年は口を開いた。

「俺は風間(かざま) (ひろ)だ、んでこいつは渡辺(わたなべ) (こう)。こいつの前の番号なのか?」

「あ、はい自分は綿(わた)(ばやし) 一樹(かずき)です。同じ高校の人がいないもので」

 少し焦ったように答える様は風間に脅えているように見える。

「そっか、よろしくな、俺らも他にはいないし――やっとか」

「うるさい」

 眼を擦って渡辺が起動した。



「漫画研究会の説明会?」

「そう、綿林が行くんだってよ行ってみようぜ」

 了承よりも早く渡辺の腕を引っ張り、引きずるように行動していた。

「拒否権はないのか」

 そのやりとりに綿林は乾いた笑みが貼りついている。

「漫画は結構、読むけど絵なんて描いたことないしなー」

「そういう人がほとんどだよ、ほとんどノートの落書きだけだし」

 引きずられている渡辺を尻目に漫画研究会で話がどんどん進んでいく。

「そうかーまあ確かにイラストとか興味はあるけど」

「別に絵を描くだけじゃないと思うよ。小説もやってるみたいだし、漫画の原作者みたいにストーリーやるのもありだと思うよ」

「へー小説か、光にはいいんじゃないのか?」

 引きずるのをやめると猫のように持ち上げられ、立たせる。

「小説には興味がある」

「こいつよく変な夢を見ているからネタには尽きないと思うぜ」

「へーたとえば、どんな夢をみてるの?」

「さっきは――」


 伝説では最後の戦いで剣が折れ勇者の命と引き換えに世界の危機は救われた。と幕を引くがそれは違った。伝説の剣は魔の剣だった。剣は闇を呼び、所有者を蝕み世界を危険にさせるものだった。


「という話になっていた」

「うわーまたそうなるのか」

「でもおもしろそうではあるね」 

 夢の話をしているうちに目的であるサークルの説明会場についていた。



「なんかすげー人がいるんだけど」

「漫画とかだいぶ広がっているからね」

 会場となっている教室は大きくないとはいえ半分以上埋まっていた。

「えーと小説に興味あるんだよね」

 綿林と別れて渡辺と風間は小説の説明を受けていた。

「はい」

「こっち漫研小説組が教えることは、まず基本的な書き方で記号の使い方、文字の位置、表現方法を教える。それから練習として短編や漫画を小説に直すみたいなことをやってるね。まあ絵の描き方についても教わるけど」

「なんで、絵の描き方なんですか?」

 小説と関係ないと思っているのか首を傾げている。

「まあ小説組といっても漫研だから、イラストとかは書いてもらうからね……あとはサークルで本を年に三冊つくるよ、内二冊はコミケにも出すしね」

「へー本になるのか」

「あとはサークル内で作品の批評をし合ったりするし今はネットに上げるなんてこともしてるよ。何か質問あるかな?」

 勢いよく手を上げたのは渡辺だった。

「内容とかはなんでもいいんですか?」

「大学のサークルだし、過度なグロテスクな表現に⑱禁になるようなものは禁止しているよ。他にあるかな? ……じゃ次いこうか」

 説明していた人の不敵な笑み、部長らしき人に眼で合図している。

「じゃ説明も終わったし恒例のにいきたいと思います。では生贄は~」



「俺達、説明会に来ていたんだよな、まだ入るなんて言ってないぜ」

「……そうだね」

 少しオロオロしている綿林、わけがわかっていない風間の二人は長机に座っていた。そして、めんどくさそうにしている渡辺は教壇にいた。

「一年 渡辺光 番号172 趣味寝ること 以上」

「……では質問コーナー」

 渡辺は教壇の上で自己紹介していた。

「はい、身長いくつ?」

「一四○」

「触っていいですか?」

「すでに質問ではないですね」

「SとMどっち?」

「S」

「お兄ちゃんって――」

「だまれ変態」

「ツンデレですか?」

「違う」

 質問責めにあってうんざりした眼をしている。あんな軽くいなせるのは渡辺だからだろう。

 ――おもしろそうだしきっとここに入るんだろうな。あいつは自分の夢を小説に、綿林は書きたい漫画、俺はどんな話……空想を作れるのかな。多少色の濃いのもいるけど一応楽しくやれそうだ。

空想をつくるには「妄想」と「場所」と「機会」が必要だな思って書いてみました。まあサークルの勧誘だったんですけど;

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