修行
アサリとアサミに関しては、特に問題もなく平穏な日々が続いていた。
おそらくチャイルド国ではアサリとアサミの帰還を待っているはずだが、今の所何も動きはなかった。
雄志軍が国境近辺を監視しているが、特に変わった所はない。
少女たちもすっかりアイになついたようで、いつもアイの後ろにくっついていた。
雄志軍の特訓は、今は行っていない。
任務があるからだ。
だから今は屋敷の庭で、アイたちは魔法の修行をしていた。
メンバーはアイとミサ、そしてアサリとアサミである。
「アサリ!アサミ!お前たちのコンビネーションは確かにかなりのものだとは思うが、どうしてアサリが魔術師でアサミが剣士なんだ?」
シャオは疑問に感じていた。
それは2人のクラス(役割)が逆だなのではないかと。
「俺様の見た所、アサリは白を内で使う事に優れている。外でもそこそこやれるとは思うが、やっぱり内だ。それは剣士に向いている。持っている魔力もかなり大きいし、体の強化に使うのが一番ロスが少ない。そしてアサミ。黒を外で使うなら剣より魔法だ。かなり使いこなせてはいるが、本来黒は体のコントロールには向いていない。せめて内で使えれば別だけどな」
アサリもアサミも、シャオの言っている事にあまり納得はできていない様子だった。
しかしアイに「言う通りにやってみなよ」促され、とりあえず試してみる事にした。
するといきなりそれがピタリとはまったようで、自然と扱う魔力が格段に大きくなった。
「すごい‥‥」
アイが呟いた通り、それには誰もが驚いた。
シャオ以外の皆にとっては、見た事のない大きな魔力だった。
実は2人のクラス(役割)は、本人たちが何となく決めたものだった。
いつも元気に動き回っていたアサミは、剣士が向いているものだと勝手に思い込んだ。
おとなしく、そして魔力の大きかったアサリは、やはり魔法使いだと勝手に考えた。
しかし持っている資質は逆だったのだ。
「うわー!凄い!試してみたい!」
アサミは今までに感じた事のない魔力に、それを使ってみたいと訴えた。
「じゃあアイの魔法防御に向かって撃ってみるか?」
シャオの言葉にアサミは大きく頷いた。
アイは魔法防御を展開する。
アイの横には念の為シャオが立っていた。
「よしいいぞ!撃ってみろ!」
その声に、直ぐにでも試したいといった感じのアサミは、勢いよくエネルギーブラストを放った。
その反応は、シャオほどでは無いにしてもかなりのスピードだった。
剣士としての鍛錬が、こちらにも生きているようだった。
黒の魔力は、アイの魔法防御にぶつかった。
それでもその魔力を失わず、そこに留まった。
かなりの威力である。
以前インディア国の人たちが放ったエネルギーブラストよりも、圧倒的に強い魔力。
その威力に、アイの魔力が押され始める。
アイもそれに対して更に魔力を重ねた。
しばらくして、ようやく黒の魔力は消失した。
かなりの成長をしてきたアイでさえも、止めるのにかなり疲れた様子だった。
シャオは驚いていた。
アサミの魔法もだけれど、アイの成長が信じられなかった。
シャオの予想を大きく超えているようだった。
「凄いな‥‥」
皆はアサミの魔法への言葉だと勘違いしていた。
「ホント凄いよアサミちゃん!」
「凄いわアサミ。わたくしの魔法など足元にも及ばないわ」
「でもアイも凄いよねぇ。余裕はなかったけど、あんな魔法を止められたんだから。私だけ取り残されてる感じぃ~」
普段アイと行動を共にしているミサだけは、アイの成長にも驚いていた。
そして自分が取り残されているような気持ちで、少し寂しさも感じていた。
そんなミサにシャオは声をかけた。
「ミサは白を内で使うのが一番合っている。でも剣は全く合っていない。だから白を外で使う白魔術の修行をしているけれど、魔力が大きくないから大した事ができない。それらを考えると、黒の魔術師になるのが本当は一番良いんだ。黒は魔力を補えるからね。少しやってみるか?」
ちょっと躊躇はしたものの、ミサは試してみる事にした。
しばらくシャオは付きっ切りでミサを見ていた。
ああだこうだと指示をだし、ミサはできる限りこたえた。
しかし大改革と言える結果は望めなかった。
それでもミサ自身、今までで一番しっくりくる感覚を持ったようで、しばらく続けてみる決意をした。
この日はみんなやる気で、太陽が沈むまで修行が続いた。