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魔法使いシャオ  作者: 秋華(秋山 華道)
エルフ編
34/43

おかえり

此処は、黒海の北にある小さな島が集まる場所。

地球規模で見て南の大陸の真裏にあたるこの場所は、エルフと呼ばれる亜人種が生まれた場所。

全世界がアルマゲドンにより放射能に包まれ、人々が暮らせる場所が地上には存在しなかった頃、神はこの場所だけ人々が暮らせるようにした。

真ん中の島を取り囲むようにある小さな島に、魔界への扉を創り、そこから魔界へ汚染された空気を取り込んだ。

地上の空気は魔界で放射能を除去し、そして南の大陸の門から、魔界の大気と共に戻ってくる。

その大気によって地上も浄化されてゆく。

大気の出入口は小さく、それは時間をかけて行われるものだった。

吐き出された魔界の大気は、黒の霧となって地上を覆った。

黒の霧とは、地上を漂う亡くなった人の魂とも言える魔力を、魔界の大気が可視化させたもの。

それが地上に広がり、島々にある魔界への扉から戻ってゆく。

この頃、黒い霧が存在しないのは、魔界の大気が吸収される島々の内側と、南の大陸にある門の付近だけだった。

その島々の中心にあった島に、神は新しい人であるエルフを創り住まわせた。

それから何百年かの月日が流れた。

地中で生き残っていた人類が地上へ出てくる頃には、黒の霧は一部を除いて赤道付近には存在しなくなっていた。

地中から出て来た者の一人が、魔界の門に気が付くまでにはそれから百年ほどかかった。

何か神聖な感じもするそれが噴き出る場所を、開けてみたくなるのは当然だったかもしれない。

南の大陸の受け継ぐ者は、魔法研究を重ねて開ける事に成功した。

その時閉じる方法も一緒に考えておくのは、毒とセットで解毒薬も用意しておくような思いだった。

当時まだ少し黒の霧が残っていた場所ではあったが、それがきっかけで大気の流れは速くなり、この場所に限って急速に赤道の帯は太くなっていった。

しかし南の大陸の近くは海が荒れ、風も強く、外から人々が入ってこれられない大陸となった。

間もなく魔獣も現れるようになり、南の大陸はアルテミスの者だけが住まう場所となった。

それはナディアが門を閉じるまで続いた。

その時、今度は逆に門を完全に閉めた事で、大気の流れがほぼ完全にストップしてしまった。

魔界の大気が来なくなれば、黒の霧は徐々に減っていく事になる。

エルフたちが住まう島の周りは、黒の霧が濃い場所であったが近年それが晴れてきた。

そうなれば当然、エルフたちは島の外に出始める事になる。

海を渡って一番近い中央大陸に来ることは必然だった。

そこには森を破壊する人間がいた。

それはエルフにとっては敵以外の何ものでもなかった。

次々とエルフたちは海を渡る。

人々の中に、この事を知る者は誰もいなかった。


ムサシからの連絡を受けたヒサヨシは、チューレンとチンロウとサンゲンをカルディナへと送った。

ファインはタァスーシに任せ、ヒサヨシはトキョウへと向かった。

ヒサヨシは今の世界の連絡網を一手に担っている。

だからトキョウにいるのが良いと判断した。

シュウカとアサミとアサリもカルディナへ入った。

後から新撰組も黒海を渡って駆け付ける事となっていた。


その新撰組は今、船で黒海を渡っていた。

遥か遠く視線の先には、中央大陸がわずかに見える。

以前は黒の霧に覆われていた場所だが、今はスッキリと晴れ渡り見通しも良い。

少し前まであった赤道の帯よりも少し北側を航行していた。

「もうすぐだな」

「まさかこんなに早くに中央大陸へ再び来る事になろうとは、思ってなかったな」

「全くシュウカのやろう、人使いが荒いよ」

「いえいえ、今回はムサシ王のお願いですから」

皆なんだかんだと言いながら、顔には笑顔があった。

天気も良いし、気持ちの良い風が吹く船上。

船旅を楽しんでいるといった感じだった。

そんな時、ゆったりと寝転がるサイトーの目に、何やら空飛ぶ人の姿が映った。

「あれ、なんでしょうね。人が飛んでいるように見えるんですが‥‥」

サイトーの指さす方向を一同は見た。

「ああ、人だな」

「飛翔の魔法で飛んでるんだろ」

「大陸に向かっているようですね」

皆、見たままを口にした。

「いえそうではなくて、大陸に向かっているって事は、何処から飛んできたんでしょうね」

「海に釣りにでも行った帰りじゃね?」

「飛翔魔法の練習だろ」

「練習とかそんなレベルじゃないくらい速いですね」

4人は色々と想像しながら、しばらくその空飛ぶ人々を見ていた。

するとなんだか今度は、その空飛ぶ人々が、新選組の乗る船の方へと向かってきているようだった。

「ん?こっちに向かってきている?」

「明らかに向かって来てるだろ」

「なんだか火球も飛んできているように見えるんですが‥‥」

「みなさん!攻撃してきています!守りを!」

サイトーが言い終わると同時に、火球は船に当たった。

船は大破し沈み始める。

「なんじゃこりゃー!」

「俺達に喧嘩売るとは上等!相手してやんぜ!」

「殺す!絶対殺す!」

「ああ、陸が見える辺りで良かった」

新撰組の面々は船を捨て、飛翔で空へと上がった。

それを見た敵らしき者たちは、今度は個々に攻撃をしてきた。

「赤い目?」

「こいつらがエルフとかいう奴か」

「はははー!こいつらの為に僕たちわざわざ呼ばれたんですよね。ますます殺す!」

「とりあえず陸地まで行きましょう。空では戦い辛いです」

サイトーの言葉に、皆は渋々陸地へと向かった。

「逃げてるみたいでいやだな」

「いや、前からも敵が来てるから、むしろ向かって行っているだろ」

「いいねいいね!」

「ちっとも良くないですよ。囲まれてます」

新撰組は既にエルフに囲まれていた。

四方八方から攻撃魔法が飛んでくる。

「うぎゃ!陸地で勝負しろ!」

「条件は相手も同じだ。なんとかしろバカ局長!」

「自分の足じゃなきゃ思うように動けません」

「諦めないでなんとか‥‥うぎゃ!」

新撰組の面々に魔法が直撃した。

飛翔のコントロールを失い、皆海へと落ちて行った。

「くっそ!こうなったらみんな死んだフリだ」

コンドーが小声で指示を出す。

皆は黙って海に浮かび続けた。

「行ったか?」

「いえ、まだです」

エルフたちは上空から新撰組たちを見下ろしていた。

「まだか?」

「しつこい奴らだ」

「死んだフリ死んだフリ」

すると1人、また1人とエルフは大陸の方へと向かって飛び始める。

「あと少し‥‥」

最後の1人が大陸の方を向いた時、1人海に顔をつけて浮かんでいたソーシが、我慢できずに顔を上げた。

「ぐはぁー!苦しい!ああ‥‥空気が美味しいですよ」

満面の笑みで空気を吸うソーシに、エルフたちは気が付いた。

エルフたちは次々に戻って来た。

「何やってんだよぉ」

「最初から上手く行くとは思ってなかったけどな」

「で、どうするんですか?!」

エルフたちは魔力を高めていた。

今度はかなり強力な魔法が予想された。

「海の中でライトニング系なんかくらったら‥‥」

「なんだかそんな感じだぞ。ほら空が‥‥」

「無駄だと思いますが、僕の風の刀でなんとか頑張ってみます!」

強力な雷が落ちて来る。

サイトーは死を覚悟してそれを受け止めようとした。

「さよならみなさん」

サイトーがそう言った時、強力な魔法防御が雷を遮った。

空にはドラゴンが飛んでいた。

「シャオ!」

新撰組の者たちは、ドラゴンの上にいる者の名前を呼んだ。

「お前ら何やってるんだ?泳ぎの練習か?」

「大丈夫ですか?皆さんはとりあえず陸地まで。ここは私たちに任せてください」

ドラゴンの上にはシャオとアイの笑顔があった。

「助かる!」

「誰が泳ぎの練習なんかするかよ!」

「シュウカ殺す!絶対死なす!」

「何故シュウカさんが?とにかく助かりました。後はよろしくお願いしまーっす!」

新撰組の面々は再び飛翔すると、陸地へ向かって飛び去った。

「やはりこの辺りみたいだな」

「そうだね。でも今はエルフたちをなんとかしないと」

こちらに向かって魔法を放つエルフたちに対抗して、シャオは魔法を発動した。

「プリズム!」

それはコールド系魔法で、魔力を持った鋭角な氷の塊を作る。

それは敵の魔力軌道を変える効果を持つ。

シャオはいくつか展開したプリズムで、エルフの放った魔法を術者に返した。

意表を突かれたエルフの何人かは、それをまともにくらっていた。

しかしさほどダメージはなさそうだった。

「なかなか。魔法にかなりの耐性がありそうだな。んじゃまアレを試してみるか」

シャオがそう言うと、ドラゴンはエルフたちの周りを旋回する。

その間もエルフは攻撃を続けていたが、それはシャオのプリズムによって受け流されていた。

「聖なる結界」

ドラゴンが周りを旋回している間に、アイはエルフを結界で包んでいた。

聖なる結界は、滅びの結界ほどの威力は無いが、結界強度は魔の結界に並びドレイン効果があった。

「シャオ!捕らえたよ!」

アイの言葉を受け、シャオは魔法を放った。

「呪縛!そして束縛!!」

呪縛とは相手の魔力を拘束する魔法であり、束縛は相手の体を拘束する魔法である。

大きな魔力を持つものなら容易くレジストできる魔法ではあるが、アイの聖なる結界の中では、それは不可能だった。

全てのエルフの体に、黒い魔力によるロープのようなものが巻き付き自由を奪った。

「アイ!結界を維持しながら陸地まで引っ張っていくぞ!」

「オッケー!」

アイは上手く結界をコントロールし、エルフたちを陸地まで移動させた。

陸地では新撰組がシャオたちを迎えた。

「シャオ殿!久しぶりだの!背も伸びましたな」

「いや流石だな」

「シャオめ!よくも美味しい所を持っていったな!」

「いやいや助かりましたよ。アイさんもお久しぶりです。綺麗になられましたね」

シャオたちを迎える新撰組の面々は、皆笑顔だった。

ドラゴンは地上へ降りるとナイフへと姿を変え、シャオの懐にある小さな鞘へと収まった。

結界に包まれていたエルフたちも、地上へと降ろされた。

シャオの魔法によって縛り付けられているエルフたちは、自由の利かない体を地上に転がした。

「なんだ?こいつら殺らなかったのか?」

「まあね。むやみな殺生はしたくないからね」

シャオはアイを見た。

「この人たちも、人間じゃないかもしれないけれど、人間だからね」

アイはシャオに笑顔を返した。

「だがこいつら俺たち人間を、『駆除する』とかいって殺して回ってるんだぜ?」

「ああ、だから此処に来たんだ。ちゃんと対処できるだけの力をつけてね」

「まあシャオさんがそう言ってるんだから、良いんじゃないでしょうか」

サイトーの言葉に、シャオに意見するものはいなくなった。

「で、こいつらどうすんの?連れて行くにも魔法維持が大変じゃない?」

ソーシのいう事も尤もだった。

魔法は永続魔法でない限り、その効果を持続させるには常に魔力が必要となる。

普通の術者なら、1人の拘束も1日が限界だろう。

しかしシャオは笑ってこたえた。

「だから鍛えたって。俺ならこれくらい1ヶ月でも拘束し続けられるよ。まあそれまでに別の方法に切り替えるけどね」

もう誰も何も懸念するべき事はなかった。

エルフたちは、新選組の者たちが連れて歩き、一同カルディナへと向かった。

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