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魔法使いシャオ  作者: 秋華(秋山 華道)
エルフ編
33/43

第二の人エルフ

バトル大会が終了した後、ムサシの元へ毎日のように同じようなニュースが入ってきていた。

そのニュースの内容は、全てが中央大陸の西で、北へ向かった人々の事であった。

北へ向かった人が帰ってこない、小さな村の人々が消えた、更には何人かの人が死んでいたなんて話もあった。

そして今日も、これから事件が起ころうとしていた。

現在中央大陸の最も北西にあるトキョウ所属の町。

半年前に町としての登録があったばかりの小さな町、ラキシス。

人口は1000人そこそこで、夏でも過ごしやすい町である。

その場所は、北に大きな山、南に森、山からは川が流れており、とても住み良い所だ。

今後、北極や南極に残る僅かな黒い霧が全て晴れれば、更に住み良い場所となる事だろう。

そう考えられている場所であるから、人口も順調に増えるであろう期待の大きな町だった。

その町を、町の外西の方から見つめる人々の姿があった。

その姿は、今地球上で生きる人々とは少し違う。

目が赤く、少しとがった形の耳を持っていた。

古き時代、神話の中に出て来た亜人種『エルフ』に似ていた。

細かい事を抜きにすれば、正にそのままと言っても良いほどだった。

神が新たに作り出した人間は、古き人間よりも賢く、魔力にも優れ、そして森を愛する者たちであった。

「また低俗な人間が森を傷つけている」

「速やかに駆除せねばならない」

ラキシスに移り住んだ人々は、家を建てる為など、森の木を多く伐採していた。

それが新しき人間であるエルフには許せなかった。

数十人のエルフの集団は、町へと入っていった。

そして次々と町の人々を魔法で攻撃していった。

それはもう害虫に殺虫剤をかけるように、なんの躊躇もなく行われていった。

此処に来たエルフは、特に魔法能力の高い者が集められた訳ではなかったが、その魔力は強大で、普通の民が相手にできるレベルでは無かった。

当然の話だが、この世界の住人は皆少しは魔法が使える。

でもエルフはそんなレベルではない。

古き人間から見ると、その全てがかなりの使い手レベルであった。

「何故こいつらは、魔力を供給してくれる木々を伐るのだ?バカとしか言えない」

「姿は我々に似ているが、ただの害虫なのだよ」

「それでも我々は、この害虫から言葉を教えられた。そしてこの剣という武器も。面白い話だ」

エルフの中には、剣でラキシスの民を斬って捨てている者もいた。

エルフが神に作り出された時、本能に魔法は刻まれていたが、道具に関しては何もなかった。

しかし頭の良いエルフは、ここ最近の1ヶ月程度の間に古き人間と出合い、捕らえ、色々なモノを学び吸収していた。

歴史を持った古き人間との出会いが、神の予想を超える強力な人間エルフを高速で作り上げていた。

逃げ惑うラキシスの人々。

それを追うエルフ。

その姿は、正に狩猟そのものだった。

そんなエルフの前に1人の男が立ちはだかった。

その男はこの町の長、町の名前そのままのラキシスだった。

「あなたたちは何者ですか?その耳、そして赤い目、人間ではないのですか?」

ラキシスの言葉に、エルフの一部が動きを止めラキシスを見た。

「我々は人間だ。そして我々から見れば貴様らは害虫。尤もそちらから見れば我々はエルフという事になるらしいがな」

「エルフ?そのエルフが何故我々を襲うのですか?」

「何故襲うかだって?森を破壊する害虫を駆除するのは当然だと思うが?」

「我々は別に無暗に森を破壊しているのではありません。必要なだけ木を伐っているだけです」

「我々は森を破壊しなくとも十分に生活できているぞ?ああ、低俗で魔力の少ないお前たちではそれも無理なのかな。だったらやはり駆除せねばなるまい」

そう言うとエルフは町の者たちへの攻撃を再開した。

(話になりません。しかしこの魔力量、私1人ではどうにもできません)

ラキシスは以前、ローラシアの精鋭部隊に所属していた。

つまり人間の中ではかなり上位の能力者である。

そんな彼でさえ、エルフからの攻撃に防戦一方となった。

町の人たちを助ける事もできない。

(悔しいですが、私には何もできません。すみません皆さん。逃げる私をお許しください)

襲い来るエルフの攻撃をかわして逃げるのが精一杯だった。

(この事を王に報告しなければ。大変な事になりそうです)

ラキシスは何とか町を出て、森の中まで逃げる事ができた。

エルフたちが追ってくる様子は無かったが、他に逃げる事ができた人間も見当たらなかった。

ラキシスは何とか早くトキョウへ行こうと、ただ走り続けた。

ラキシスの頬には涙が伝っていた。


1週間後、ラキシスはなんとかトキョウにたどり着いていた。

そしてムサシに面会を求める。

(こんな私に王は会ってくださるだろうか)

ラキシスの着ている衣服はボロボロだった。

道なき道を走ってきたので、体中汚れてもいた。

しかしそれは余計な心配だった。

「えー‥‥わしが王のムサシや。あー‥‥まだなんか慣れてへんねん。悪いけど気軽に話させてもらうで」

ムサシは門の前で待っていたラキシスの前に普通に現れた。

ラキシスはムサシの事を知っていた。

ファインでの戦いの時、剣をあわせていたからだ。

しかしムサシの方は覚えていなかった。

「相変わらずお元気そうで。あの頃と背丈以外は変わりませんね」

「えっと‥‥会った事あったっけ?悪い。わし物覚え悪いねん。で、誰やったっけ?」

ムサシの言葉に、後ろについてきていたアサミが口をはさんだ。

「何言ってるの?ラキシスの長ラキシスさんじゃない!」

アサミはムサシを白い目で見た。

「ああそうか。確か元精鋭部隊やってはった人やね。そうやそうや。で、なんか用か?その恰好みたらただ事やなさそうやけど」

ムサシには王の威厳も何もなかった。

それでもそれなりに対応してるし、人々の信頼もそれなりにあった。

「はい。最近この大陸の西の方で村人が行方不明だったり、謎の死が多発していたりという事件をご存じですか?」

ムサシは予想通りかといった感じで、少し息を吐いた。

「ああ知っとるで。なんかあるやろう思とったけど、やっぱりなんかあったんか」

「はい。1週間ほど前、私の町が襲われました。その結果、おそらくですが逃げる事ができたのは、私だけです‥‥」

ラキシスが1000人規模の町だという事をムサシは知っていた。

その中で逃げる事ができたのはたったの1人と知って、これは本当にとんでもない事になっていると感じた。

ムサシも、更には近くにいたアサミとアサリも、真剣な顔で話の続きを聞いた。

「襲ってきたのは、人‥‥奴らは自分たちの事をエルフと言っていました。そして我々の事を害虫とも。姿は我々にそっくりですが、耳が大きくとがり、目が赤かったです」

「エルフ?魔獣か何かかいな?」

ムサシの疑問に答えたのは、丁度今宮殿に戻って来たシュウカだった。

「エルフというのは、古の時代にあった神話に出てくるデミヒューマンの事だな。本来は実在しない亜人種なんだけどぉ~、実在するとは驚きだねぇ~‥‥あ、ただいまぁ~」

シュウカは相変わらず眠そうな目をして、アサリを見ながら頭をポリポリとかいていた。

「おかえりなさいませ」

「シュウカさんお帰り!」

シュウカの姿に、皆の緊張が少し和らいだ。

「エルフをご存じなのですか?流石に元イニシエの方。で、そのエルフとは何者なんですか?」

「知らないよぉ~‥‥ただ昔の人が想像した通りという話なら、賢くて、魔法が得意で、森を愛する民って所かなぁ~。あくまで神話の中での話であって、少なくとも実在したという話は無いねぇ~」

「それがそのまま実在していたかのようでした」

「えっと‥‥という事ならぁ~‥‥そういう事なんでしょ~‥‥」

少しの間、沈黙の時が流れた。

「つまり!私たち人間が森の木々を生活の中で使う為に伐ったりするから、そのエルフが『害虫だぁ!』って怒って、私たち人間を駆除しようとしているわけね」

沈黙した時間にアサミは、神がおりてきたように全てを悟っていた。

「はい、そう言われればそういう事ではないかと思われます」

ラキシスは少し戸惑っていたが、言われてしっくりきたようだった。

「それで今後、どうすれば良いのかって話になるわけですね」

「わしら人間も別に無暗に木々を伐ってるわけちゃうし、話せばわかってくれるん‥‥くれへんのかな‥‥」

アサリの発言まではスムーズに話が進みそうな気配だったが、ラキシスの表情からムサシの期待は即打ち砕かれた。

「話し合いは、ある程度対等な立場でないと成立しないよう思えます。エルフたちは我々人間よりも魔法に長けているようですし、話し合いをするには力に差があるかもしれません。話し合いができないとなれば、今後人間とエルフの戦争となるやもしれませんね」

皆にとって嫌な言葉が出て来た。

戦争。

それはもう二度と起こさないと誓った。

しかし力に差があれば仕掛けられる事も十分あり得る。

皆少し俯かざるを得なかった。

「エルフとはいえ人間だからなぁ~‥‥できれば戦いたくはないねぇ~‥‥」

シュウカの表情だけは相変わらずで、感情が読めない眠そうな顔だった。

結局、どうすれば良いのか、ムサシたちにはキッチリとした結論は出せなかった。


とりあえず対応としては、新たな犠牲者がでないようにする為、中央大陸の西では北へ向かうのを禁止し、カルディナの警備を強化する事となった。

カルディナは、ラキシスの町と森をはさんで南にある、トキョウ傘下の町だった。

その東西にはそれぞれ独立した国が存在していたが、トキョウとして対応出来る事は、そういった情報を伝えておく事だけであった。

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