表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法使いシャオ  作者: 秋華(秋山 華道)
世界統一編
27/43

絶対絶命

カンチュウでの勝利は、必ずしも嬉しい勝利では無かった。

アイのサポートがあっても、同盟軍は半数を失っていた。

それに敵を殺さない戦いも、力の差がない中では不可能だった。

そんな中でトキョウの神木が破壊された報告は、皆を更に意気消沈させた。

「あの神木が倒れるとか、無茶苦茶やなぁ」

ムサシだけはあっけらかんとしていた。

「これは神木の魔力を恐れてのものか。或いは移動手段を奪う為か。俺が以前逃げた手を封じる意味もあるのだろう」

シャオの考えも、皆あまり聞いていないようだった。

「しかしこれで、トキョウが急に戦場になる事もなくなった。イニシエの連中がしっかりとやってくれる事も分かった」

シャオはなんとかポジティブな気持ちにしようと話すが、皆はただ頷くだけだった。

シャオがなんと言っても、こちらの戦力がアップしたわけでもないし、状況は決して良くなっているわけではない。

部隊長3人と1000人ほどの戦力を削るのに、こちらは同盟軍5000人を失ったのだ。

それでもやらねばならない。

ただやらねばならないと決意する面々だった。


シャオたちは、しばし休養の日々を送っていた。

10日が過ぎ、皆の気持ちも少しは落ち着いてきていた。

そんな中、ヒサヨシの遣いであるリュウイーが飛んできた。

報告内容は、ローラシアの聖騎士団とエリート部隊が、北のルートの西の町、エベレストに入ったという事だった。

これでエベレストには、第二第六部隊の残存戦力2500人、聖騎士団500人、エリート部隊2500人が集まった事になる。

人数では五分だが、戦力としてはかなり負けていると言っていい。

ローラシア本国には、精鋭部隊が2000人と他5部隊7500人が残る。

トキョウに残るのが雄志軍100人とカンセイ軍が5000人。

そして新撰組が30人程度。

タイナンからの侵攻も完全には排除できない中、トキョウからシャオたちのカンチュウへと援軍を送る余裕は無かった。

もうシャオには、相手を思って手加減する余裕はない。

皆も同じように考えていた。

相手を思う戦いなど、そもそも圧倒的力の差がないとできない事だ。

皆先の戦いで痛感していた。

もしもローランドが、私利私欲の戦争をしている人物でなければ、全てを差し出しても良いという考えもあった。

民を思い、平和を思い、戦いの無い世界をつくろうとする人物であれば、話し合う事もできたであろう。

そんな話し合いの場すら持てない相手だから、皆決意するのに時間はかからなかった。

2日後、再び戦いの火蓋は切られた。


北のルートから、聖騎士団、エリート部隊、そして第二第六部隊が侵攻してきた。

こちらの被害を最小限にする為、シャオは最初から全力で相手に攻撃魔法を浴びせた。

シャオは飛翔を使い上空から攻撃する。

ムサシも上空へ上がり補佐する。

地上では敵味方入り乱れる中で、アサリとアサミが戦う。

後方からはアイが全てをサポート。

それを守る形でシュータが戦っていた。

その戦いを後方から眺めている聖騎士団の団長『レクサス』は、しばらく戦況を分析していた。

「ふむ。敵の戦力はあの6人が中心。シャナクルは我々聖騎士団が抑える。後は頼みますぞ」

レクサスは、横にいたエリート部隊隊長ファルコンに笑顔を向けた。

「ええお任せください。あの程度は僕たちの相手ではありませんな」

その会話を、隣でイーグルとラビットはただ聞いていた。

「あなた方は、僕たちの華麗な戦いぶりを、ここで見ていてください」

ファルコンは少し嫌味な笑顔をイーグルとラビットに向けた。

「分かった」

(くそっ!このガキの言う通りにしないといかんのか)

イーグルは少し苛立っていた。

この場の最高指揮官は、聖騎士団団長のレクサス。

そして次がエリート部隊隊長のファルコンだった。

イーグルは、今までこの地の最高指揮官であった事もあるが、言われる相手が若いファルコンである事も納得いかない所だった。

聖騎士団500人は、レクサスと共に上空へと出た。

目標はシャオただ一人。

シャオと共に上空にいたムサシが、まずは聖騎士団と向かい合う格好になった。

「こいつらメッサ強いんちゃう?それがこの人数。相手にできんのか?」

ムサシは剣を構えたままレクサスを睨みつけた。

「本気でやる。ムサシは地上に降りてみんなを助けてやってくれ。この相手なら1人の方がやりやすい」

「わしは戦力外通告かい!まあせえぜえ死なんように頑張れや」

ムサシはそう言うと、地上で入り乱れて戦っている所へ降りていった。

「シャナクル、久しいのお」

「ああ、あの時の副団長か」

シャオが東の大陸でローラシアに侵攻した際、やられそうになった相手。

あの時の聖騎士団団長はジークフリードだった。

そして副団長がレクサス。

ジークフリードはあの時滅びの結界を使った事によって死んだが、レクサスは生き残ってその後団長となっていた。

「我々があなたの国に敗れブリリアに下った。なのに又あなたと戦う事になるとは、おかしな事もあるもんですな」

「俺は死んだ事になって、全てローランドに奪われたよ」

「しかしそのおかげで、我々にリベンジのチャンスが訪れた。今日は確実に勝たせていただきます」

「俺様は負ける気ないよ」

「それでは、いざ勝負!」

レクサスの言葉を最後にシャオと聖騎士団の面々は魔力を高めた。

500人の聖騎士団はゆっくりと広がりシャオを囲んでいった。


地上ではムサシがファルコン相手に苦戦していた。

1対1なら勝負にもなるが、エリート部隊からの攻撃もあり多対一。

アサリもアサミも同じような状況だった。

アイも同盟軍全てどころか、シュータの補佐に終始するばかりだった。

同盟軍はただその数を減らすしかなかった。

このままでは負ける、そんな状況だった。


シャオはアイスレインで聖騎士団を一斉に攻撃する。

しかし能力の高い聖騎士団の者たちは、それをアッサリと凌いでいた。

「くそっ!1人ずつ殺るしかない!」

「あの頃よりもこちらは強くなっているのです。そんな魔法は通用しない」

レクサスは余裕で聖騎士団を指揮していた。

「テラボルト!」

シャオの魔法は聖騎士団の1人をとらえた。

ようやく1人が地上へと落ちて行った。

「そんな上級魔法を500回続けるつもりですかな」

レクサスの言う通り、上級魔法をそんなにも続けるのは、流石のシャオでも不可能だ。

「これならどうだ!デススペル!」

シャオの言葉と同時に、数人の聖騎士を球状の結界に閉じ込めた。

直ぐにその中で爆発が起こる。

(はぁ‥‥これでも3人か‥‥)

3人の聖騎士が地上へと落ちて行った。

その間も聖騎士たちは、シャオを剣や魔法で攻撃する。

それをかわしながら上級の呪文を放つシャオは流石ではあったが、かなり過酷な戦いだった。

それでも聖騎士の数は徐々に減っていく。

「なかなか粘りますな」

状況は、シャナクル王としてローラシアに攻め入った時と同じような状況になっていた。

しかもあの時よりも聖騎士団の数は倍以上に多い。

おそらくシャナクルだった頃のシャオなら、既にやられていたであろう。

しかしシャオもあの頃と比べるとかなり成長していた。

余裕はないがまだまだ戦えた。

そんな時だった。

地上から一人の悲鳴が聞こえた。

「きゃー」

アイだった。

「アイ殿、大丈夫ですか?!」

「アイ!」

「アイ?」

シャオはその悲鳴の方向に顔を向けた。

シュータとアサリとアサミが、アイを守るようにな形で敵と対峙していた。

「大丈夫か‥‥」

とりあえず大丈夫な様子で、シャオはホッとした。

しかしその隙を逃すレクサスではなかった。

シャオの周りは結界に包まれていた。

(しまった!これは滅びの結界!)

「私の命もこれまでですが、シャナクル、あなたも終わりだ。この世には既に神木は存在しない。よってあの時と同じように大陸間移動魔法で逃げる事も不可能。このまま魔力を全て失って、死んでもらいます。今回の任務はあなたを確実にしとめる事。これで任務完了ですな」

シャオは結界の中で少しずつ魔力を失ってゆく。

飛翔を維持するのも限界だ。

周りは全て強力で脱出不可能な結界。

落ちる事も出来なかった。

「限界だな‥‥」

シャオの耳には、地上から皆の声がかすかに聞こえてくる。

シャオを助けようとしているようだが、それはエリート部隊に阻まれていた。

空が暗くなる。

もう駄目だ。

そう諦めた時、上空から強力な魔力が接近してきた。

それは滅びの結界にぶつかり、それを無力化した。

「助かった?」

シャオはコントロールを取り戻した魔力で再びオーラを纏った。

「なんだ?どうした?うっ!」

そう言ったレクサスは力尽き、そのまま地上へと落ちて行った。

滅びの結界を使った事で、既に魔力は尽きていた。

「クセンシテイルヨウダナ」

上空からブルードラゴンがシャオの横まで降りて来た。

「あの時の、ブルードラゴン?」

そう、それは南の大陸でシャオが倒したブルードラゴンだった。

あの時シャオにやられはしたが、ドラゴンの能力は半端ではない。

自己再生魔法によって復活していた。

「ワシヲタオシタヤツガ、ナニヲヤッテイル?マアイイ、スケダチスルゾ」

ブルードラゴンはそう言うと、聖戦士たちにブレスを吐いた。

更には爪や尾で攻撃し、魔法も使って聖戦士たちを倒してゆく。

「シャナクル様!私も助太刀します!」

ドラゴンの上に乗っていたトムキャットが地上へと降りて行った。

「トムキャット?」


あの神木を全て失った日、トムキャットは中央大陸へ向けて、海上を船で進んでいた。

南の大陸の北を航行している時、ブルードラゴンと出会った。

ブルードラゴンは幻影でシャオの姿を映し出し、その人物のいる所まで案内するようトムキャットに頼んだ。

そして今、共にこの地に来たというわけだ。


トムキャットは地上のファルコンに斬りかかる。

「裏切り者め」

ファルコンはトムキャットに視線を向けた。

「うらぁ!」

その隙を突いてムサシがファルコンを斬った。

「ぐあ‥‥」

ムサシの剣は確実にファルコンをとらえ地面へと叩き付けた。


「とりあえずこいつらを叩く!」

シャオはブルードラゴンの魔法とブレスの魔力を踏み台にして、コールド系最大呪文を放った。

「アイスブリザード!」

シャオの魔力は広範囲を包み、その中を氷の嵐が吹き荒れた。

上空にいた全ての者がその魔力の中にいた。

「ワシマデイッショカ?」

その中でブルードラゴンも暴れた。

ブルードラゴンはコールド系魔法には耐性があり、逆にその力を活性化する。

ブルードラゴンがシャオの魔力を高め、シャオの魔法がブルードラゴンの力を高めた。

「レジストできない!」

「魔力が強すぎる!」

「うあぁー!」

シャオとブルードラゴンのコンビネーションで、聖騎士団の全てが地上へと落ちた。

「はあ、はあ、やったか」

「コレクライハヤッテクレナケレバナ」

ブルードラゴンはシャオを背に乗せた。

「あんなの相手にできるか!引くぞ!」

イーグルは撤退の合図を空へと飛ばした。

ローラシア軍は既に逃げ出していた。

だが追撃できる者もいなかった。

間もなく、戦いは終わっていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ