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魔法使いシャオ  作者: 秋華(秋山 華道)
世界統一編
2/43

トキョウへ

今日もいつもと同じ霧の中にいる。

『アイ』という名の少女は、今日もいつもと同じ時間に起き、そしていつもと同じ場所で神に祈りを捧げていた。

肌には突き刺さるような寒さが痛い。

太陽が森の方から顔を出す時間までには、まだ少し時かある。

アイにとってそれは、いつも自分が見る景色。

そして感じる寒さ。


四季のほとんどないこの地は『トキョウ』と呼ばれ、人類発祥の地として伝えられている。

この地は、人が住む事のできる北の限界地であり、これ以上北は寒さで人が普通には暮らせない。

今この地球に住む人々は、そのほとんどが赤道と呼ばれる帯状の場所に集中する。

それより南北に離れると、寒さで生活は苦しくなる。

その理由は、黒い霧。

それは赤道を離れた地で、太陽からの光と熱を遮断する。

それは赤道から離れれば離れるほど濃くなり、最果ての地では太陽を見る事もできない。

トキョウは、赤道の帯よりもやや北に離れた場所にあり、人が住むには辛い所であった。

ただ人類発祥の地という事で、僅か数千人の人々が此処に留まり生活をしていた。


祈りを終えたアイは、しゃがんだまま閉じていた目を開けた。

そろそろ太陽が森の方から顔を出す時間。

しかしアイはこの日、何故だかいつもと違う違和感を覚えた。

(なんだろう?何かがいつもと違う感じ‥‥)

可愛らしい顔についた大きな目をパチパチと瞬かせて辺りを窺う。

(なんだか少しいつもよりも暗いような‥‥あっ‥‥)

辺りを見回していたアイはある事に気が付いた。


この世界では、時に黒い霧が赤道上にも多く出る事がある。

それは多くの人々の命が失われた時に出る。

何故このような事になるのかは分からない。

そもそも黒い霧の存在理由すらも分からない。

ただ言い伝えでは、神が戦いを拒絶してそのような現象を起こしているという話だ。

とにかく多くの命が、黒い霧をほぼ全国に発生させていた。


「また、多くの命が失われたんだね‥‥」

アイは大きな黒い瞳に涙を浮かべ、その目を閉じてもう一度祈りを捧げた。

黒い霧は少しずつ晴れてきた。

それと同時に森の方から、今日もいつもと変わらない太陽が姿を現す。

その光はアイの顔や黒髪を照らした。

先ほど流した涙が頬でキラキラと輝いた。

アイの顔は笑顔に変わった。

「よし!今日も一日頑張ろう!」

そう言ってアイは、祈りを捧げていた神木の前で立ち上がった。


その神木は、人類がこの地より生まれた時、最初の人々が植えたとされている。

つまり数千年そこにあるとされている大きな木だ。

その高さは天辺が見えないくらいに高い。


祈り終えたアイは神木を見上げ、そしてゆっくりと神木に背を向けた。

その時、アイは今日2度目の違和感を覚えた。

(あれ?なんだろう。また何かが違うような‥‥)

次の瞬間、直ぐにその違和感の原因に気が付いた。

左側、森の方から昇る太陽の光が、何時にもまして明るい。

アイが顔を向けた先、太陽のかなり上の方にもう一つ太陽が輝いていた。

いや、正確には大きな光の塊が、ドンドン大きくなってこちらに近づいてくる。

それは一瞬の出来事。

驚きと眩しさで、愛は目を閉じ右手を顔の前にかざした。

大きな爆発音が辺りに響いた。

「きゃっ!」

足元が揺れ、愛はその場に倒れた。

音と揺れはすぐに収まった。

(何が?‥‥)

アイは閉じていた目をゆっくりと開け、爆発音がした森の方を見た。

砂埃が太陽の光を遮っていてよく見えない。

しかしそれはゆっくりと拡散してゆき、太陽の光がその輝きを徐々に取り戻してゆく。

やがて砂埃は消え、辺りはいつもと変わらないものになった。

(何かが落ちてきた?)

そう考えたアイは起き上がり、森の方へと走り出した。

恐怖ももちろんあったが、アイは好奇心が大きく勝っていたようだった。

(なんだろう。隕石かな?その中から格好いい宇宙人が出てきたりして)

少し変であり得ない思いを胸に抱きながら、アイは全力で走り続けた。

ほどなくして、アイは森に少し入った所、その現場にたどり着いた。

辺りの木々は、その一点を中心に外側に倒れていた。

「なんじゃこりゃー!」

アイは普段使わないような言葉を発して驚いた。

目の前には大きなクレーター。

半径は10mくらいありそうだった。

その中心には何かがあるようだった。

(人だ!)

アイはすぐにそれが人である事に気が付いた。

(もしかして本当に宇宙人だったりして)

本気でそう思っていたかは謎だが、アイは躊躇なくその宇宙人と思われる人に駆け寄った。

(酷い傷!)

アイの目に映るその宇宙人は人間の少年のようで、頭から血を流し、着ている服は似つかわしくない大きさで、それはボロボロに破れ裂けていた。

アイは迷いなくその少年の額に手を当てる。

そして目を閉じ精神を集中させた。

体の中で魔力と呼ばれる生命エネルギーが、アイの手のひらに集まっている。

そしてオーラと呼ばれる白い光が輝いた。

オーラはゆっくりと少年を包む。

(くっ‥‥かなり酷い傷‥‥)

アイは更に集中して魔力を高める。

(これ以上は私もヤバいかも‥‥)

それでもアイは魔力を高め続けた。

アイはそのまま意識を失った。


アイは目を覚ました。

いつも見る自分の部屋の天井が見える。

「あれ‥‥ここは私の部屋‥‥」

「アイ!良かった!目が覚めたみたいね」

普段よく聞く親友『ミサ』の大きな声だった。

アイが寝ているベッドの横から、ミサはアイの顔を覗き込んだ。

「ミサ?あれ?私‥‥確か‥‥あれれ?」

アイは混乱した様子で、ベッドに横になったままミサを見ていた。

「あんた大丈夫?なんかボロボロの少年に治癒魔法を限界まで使って倒れてたらしいじゃない」

毎日見る親友は笑顔で、気さくな性格がそのまま出ているそれはアイを安心させた。

しかしすぐに少年の事を思いだし、勢いよくミサに訊ねた。

「そうだ!あの子大丈夫?なんか空から降ってきて、ボロボロで血がドクドクで」

「アイ!落ち着きなさいよ。大丈夫。あの子、あんたが頑張ったおかげでなんとか命は助かったみたいよ」

ミサは笑顔のまま、やさしい声でこたえた。

「そう、良かった‥‥」

安心したアイは、流石にまだ回復していないようで、再び目を閉じ眠りについた。

(目を覚ました事、おじさんに言ってくるか)

ミサは再び眠るアイを確認してから、アイの部屋から出ていった。

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