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魔法使いシャオ  作者: 秋華(秋山 華道)
世界統一編
12/43

ゆっくりと流れる時

シャオが目を覚ましたのは次の日、自分のベッドの上だった。

体の疲れはすっかり取れていた。

窓からは太陽の光。

シャオはゆっくりと体を起こすと、昨日の事を思い出していた。

(ちょっと無理しすぎたな)

シャオは少し苦笑いを浮かべた。

(それにしても、ヒサヨシとかいう奴、かなりの使い手だった。他の2人もかなりの使い手だったろう。全く魔力は感じなかったし、存在感すら感じられない不思議な2人だった。でも何か強さを感じる。あの町を破壊し尽くしたのは、全てあの3人だけでやった事なのかもしれない)

シャオはその後もしばらくベッドの上で、ただ昨日の事を思いだし考えを整理していた。

アサリとアサミの事。

チャイルドの町の事。

そして今後の事。

かなりの時間が過ぎ、これ以上考えても仕方がないと感じたシャオは、とりあえずベッドから出る事にした。

部屋から出たシャオは、隣の部屋が気になりノックしてみた。

反応がなかったので少しドアを開けて覗いてみたが、そこにアサリとアサミの姿は無かった。

「シャオ大丈夫?アサリちゃんもアサミちゃんも大丈夫だよ。シャオが森で寝ていたのにはビックリしたよ。ああ、お腹すいてるでしょ?準備できてるから」

後から声をかけてきたのはアイだった。

(俺様はどうやら森で眠っていたらしい)

シャオは1人で食事をとった。

その後アイに呼ばれたシャオは、屋敷の中にある会議室へと向かった。

会議室に入ると、そこにはアキラとシュータ、アサリとアサミ、そしてリュウが大きなテーブルを前に座っていた。

「シャオ君、大丈夫かい?」

アキラにそう聞かれ、シャオは黙って頷いた。

「そうか。今、現状と今後の事について話していた所だ。まあ座ってくれ」

アキラに促されるまま、シャオとアイは席に着いた。

「話は2人からだいたい聞いた。2人の事もね」

アサリとアサミは元気なく俯いて座っていた。


アサリとアサミは今のインカの町、少し前まではチャイルドの町と言われた町の端で産まれた。

産まれながらにして魔力の強かった2人は、当時のチャイルド王の命令で、幼き頃より魔力教育(魔術師や剣士としての教育)を受けてきた。

2人の両親もその事により、豊かな生活が約束された。

戦争へと駆り出されるようになってからは、2人が活躍するたびに両親の生活レベルも向上した。

2人はそれが嬉しくて、なんの疑問も持たないまま、ただ言われるがままに人を殺してきた。

そんな中、インディアとの戦争で手に入れたインディアの町。

その町は元チャイルドの町よりもくらべものにならないくらい豊かで、多くが元インディアの町へと移り住む事となった。

当然アサリたちの両親も移り住み、この町をチャイルドの町の首都とするようになった。

元々住んでいた人々は、貧しい元チャイルドの町、今のインカの町へと追いやられた。

その後、アサリとアサミは再び仕事を与えられる。

2人でタイナンを攻略する事だ。

タイナンの町は国と呼べるような場所ではなかった事もあり、2人がタイナンの長と側近を殺す事でその任務は終了した。

その際町の人々も何人か殺していたが、2人にはいつもの事でその時はなんとも思わなかった。

しかし今回、自分たちの親が殺された。

凄く悲しい気持ちになった。

振り返り、逆の立場になっただけだという事を認識した2人は、とても複雑な気持ちになっていた。

自分がしてきた事が間違いだったのではないか。

とても罪深い事をしてきたのではないか。

色々な意味で辛さを感じていた。


会議はシャオが参加した事で、もう一度アサリとアサミの話、そして現在の状況整理が行われた。

「すべての話と状況を整理すると、この中央大陸の東半分は、此処トキョウ以外はすべてカンセイ帝国の傘下に入った事になる。東の大陸の半分以上はローラシア大国の傘下で、いずれ全てがローラシア大国となると予想されている。そしていずれは中央大陸へとその勢力を拡大するという話だ」

そこまで話したアキラは、一度全員を見回した。

最後にリュウを見た後頷く。

それを受けて今度はリュウが話し出した。

「既に私の仕えていたチャイルド国は存在しないわけだ。ならば私はあなた方と敵対する理由もない。今、魔法の牢に入れられている私の部下も同じだ」

魔法の牢というのは、魔力が使えないよう特殊な魔法によってつくられた牢の事で、ドレインの牢とも呼ぶ。

シャオのような上級魔法使いでもない限り、この牢からは出る事ができない。

トキョウにある牢はシャオが作ったものだ。

アイに『人を殺してはダメ』と言われた事で、ならば必要だろうという事で作っていた。

「そうだな。この会議の後に事情を説明し、全ての人を開放しよう。そしてもしもこの町で暮らしたいというのならかまわない。元々開放するつもりではあったのだがな」

「感謝します」

「では話を続ける。話によると、チャイルドの町はおそらく、ヒサヨシという者と他2人によって破壊され滅ぼされた。それはカンセイ帝国の者で、それもかなり上層部の人物であるようだ。そして今後、我々と敵対するかもしれないし、何かしら接触してくる事が予想される。しかし敵対するとなると、今の我々トキョウの戦力では相手にならないだろう」

その後もアキラは延々と話を続けた。


現在のトキョウの戦力はシャオが中心である。

しかし、シャオは世界一と言われる能力者ではあったが、現在このトキョウではそのようには認識されていない。

実力は認められてはいるが、トキョウの者たちにはそれがどの程度なのかが分からないのだ。

次にアサリとアサミであるが、東の大陸では並みのレベル。

魔力だけならかなり強大ではあるが、能力者としての経験が足りなさすぎる。

シャオよりも小さな子供であるし、戦力と考えるのも敬遠されていた。

普通に戦力のトップとして見る事ができるのはアキラやシュータであるが、東の大陸では下っ端レベルと言った所。

アイは白魔術師としては中級レベルにまで成長していたが、戦力としては使えない。

此処に留まる予定のリュウも、アキラやシュータと変わらないレベルと考えられる。

牢に入っている口の達者な3人組も、おそらくリュウと変わらないレベルだとシャオは考えていた。

その他は雄志軍のレベルだが、当然それ以下であった。

「戦力と考えていいのか分からないが、現状我がトキョウはこのような戦力だ。戦ってもカンセイ帝国には勝てないだろう。できれば話し合いで解決したいが、最悪傘下に入る事も検討が必要かもしれない」

皆の反応を見てから、アキラは更に続けた。

「いや、基本的にはそのつもりはない。最悪の場合としてだ」

アキラの言う事は間違ってはいないだろう。

何故なら、チャイルドの町を廃墟にできてしまうヒサヨシたちの力。

それがここトキョウで使われたらと考えると、傘下に入る事も仕方がないと言える。

そうすれば少なからず助かる人はいるだろう。

よりマシな方を選ぶわけで、それは皆理解していた。

それからしばらくして会議は終了した。

結局良い対応策は思いつかなかった。

相手の出方もまだ分からない。

とりあえずは様子を見る事と、自分たちの力を高める事、それだけしかないと結論を出した。


チャイルドの町が焼き尽くされた日から既に1ヶ月が経っていた。

少しシャオやアイ、アサリやアサミの身長は伸びたように感じられた。

あの後、チャイルドから来たリュウたちもトキョウに留まり、雄志軍の一員となっていた。

そしてシャオの指導の元、全ての能力者使い手たちは、日々己を高めていた。

中でもアイの成長は凄まじかった。

シャオも信じられないくらいだった。

シュータも意外な才能を開花していた。

元々黒の魔法剣士で、白の魔法も使える事は分かっていたが、それを同時に使える才能を持っていた。

両方を上手く組み合わせる事で、以前の倍以上の魔力を使える、強力な使い手と成長していた。

アサリとアサミは実戦形式の特訓を繰り返し、魔力にふさわしい使い手になっている。

リュウの力も思った以上だった。

面白い成長をしていたのがミサだった。

黒の魔法を使い始めてから、あまり主流ではない魔法も使えるようになっていた。

成長が無かったのは、アキラとあの口達者な3人組だった。

おそらくこれが限界だと思われる。

そしてシャオ自身は、また少し魔力が高まっている事を感じていた。


今日も学校と呼ばれる広場で、シャオたちは魔法の練習や剣を振るったりしていた。

実戦形式の練習で怪我をする者もいたが、それでも皆練習に励んだ。

剣を交える金属音と、魔法による爆発音が広場に響く。

アサリとアサミが実戦形式の練習をしているようだ。

魔法の方が使えると言われたアサミではあるが、剣を持てば流れるような美しい動きを見せる。

性格的に魔法ばかりでは飽きるので、剣を持つ事もしばしばだ。

そのアサミに、アサリは一辺倒の剣で襲い掛かる。

そのスピードとパワーはアサミを圧倒しているが、長く剣士をしてきたアサミは、アサリの剣を上手く受け流していた。

剣での戦いは、技術のアサミ、パワーとスピードのアサリといった感じだ。

今度は魔法で勝負する。

多彩な魔法で攻撃するアサミ。

対してアサリは強力な魔法ではじき返す。

その戦いを見るシャオは苦笑いしていた。

(性格と戦い方が逆で笑えるな)

明るく元気な性格のアサミが、何故か魔法や剣では繊細な動きを見せる。

一方おとなしくおしとやかな性格のアサリは、剣も魔法もパワー任せの一辺倒だ。

でもそれは、『最高のコンビ』のようにも見えた。

(おっといけねぇ!)

シャオはシュータを相手に実戦形式で練習をしていた。

シャオは視線をシュータ戻す。

目の前の相手は、実に珍しい灰色のオーラを纏っていた。

魔力の消費量は激しいが、そのパワーは単純に考えて倍になる。

そのスピードやパワーはアサリにも匹敵する。

更に剣技レベルは高い。

今ではトキョウに欠かせないトップレベルの使い手となっていた。


シュータは、実はこのトキョウの生まれではない。

中央大陸の西で産まれ、子供の頃は黒の剣士として鍛錬を積み重ねてきた。

そして15歳の頃、地域の紛争に巻き込まれそれに参加する事になった。

しかし戦う相手は旧友であった。

戦闘の際愚かさに気が付いたシュータは、その地から離れる事にした。

たどり着いた先が、人類発祥の地トキョウであった。

その後は、剣の技術や黒魔術師としての能力をかわれ、この地で重要な人物となっていった。

ただ当時は、白の魔力コントロールは全くできなかった。

何故かトキョウに10数年暮らしている間に使えるようになっていた。


シュータは刃の無い剣でシャオに斬りかかった。

それをシャオはナイフで受け流す。

シュータの逆の手には灰の魔力球があった。

シュータはそれをシャオへとぶつける。

しかしシャオは何事も無かったかのように、体で受け止めた。

「速いがその分威力がない!」

シャオは全くダメージを受けていなかった。

それでもシュータは再びシャオに向かう。

今度は魔力を高めてからの爆裂魔法。

シャオの足元に魔力があふれた。

「爆裂か!」


爆裂エクスプロージョンとは、爆裂系魔術の最低位魔術。

地の因子に働きかけ、地中で魔力を爆発させる。

魔法によるダメージよりも物理的ダメージが大きく、ダメージよりも戦闘を有利に行う為に用いられる事が多い。


シャオは飛ぶように跳ねて横へ移動する。

そのタイミングを見計らってシュータが間を詰めた。

(誘われたか)

シュータの一撃がシャオの腹をとらえる。

刃はついていないものの、剣の攻撃をまともにくらうとかなりのダメージだ。

シャオは後ろへ吹き飛ばされる。

木にぶつかり、ようやくその体を止めた。

「油断したよ」

そう言いながら、シャオは笑顔で立ち上がった。

ダメージはほとんど受けていなかった。

シャオくらいの魔法使いともなれば、自然とダメージを最小限にするために体が対応している。

更に、常に纏っている黒のオーラが鎧の役割をはたしていた。

シュータは再びシャオに向かった。

今度は離れた位置から剣を振るう。

剣先から放たれるカマイタチ。

「今度はそうはいかないよ」

シャオはカマイタチを避ける事なくそちらに手をかざし、魔法で打ち消した。

(同じ戦法は通じないか)

シュータは動きを止め、その場で何度も剣を振るった。

無数のカマイタチがシャオを襲う。

今度は数で勝負のようだ。

シャオはマジックシールドを展開した。

次々にカマイタチがシールドに当たり、高い音を辺りに響かせた。

シュータは再び爆裂を試みた。

(スピードも凄いが、これだけ連続する攻撃は面白いな)

シャオは足元へ向けて無効化魔法で対抗した。

いつの間にかシュータの姿はシャオの頭上にあった。

右手には剣、左手には火球の同時攻撃だ。

シャオの回避は不可能な状態だった。

(やべっ!)

シャオは全ての魔法を解除し、魔力をオーラの鎧へと集めた。

カマイタチと爆裂の魔力が、シャオを中心に爆発した。

頭上にいたシュータは、結果的には自分の魔法で吹き飛ばされる形になった。

シュータの体は周りの木々よりも高く上空に舞い上がり、そしてそのまま地面に落ちた。

「かぁー悪い!アイ!頼む!」

シャオはシュータに駆け寄りながら、アイを呼んだ。


その後、シュータはアイの魔法によって回復した。

正直死にかけていたが、アイの魔法の力は既にマスタークラスに近かった。

もう死の直後なら、蘇生も可能かもしれないレベルだった。

更に訓練は続けられ、終わったのは太陽が赤く辺りを照らす頃だった。

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