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4th. 背景、ドア -hungry (spirit)-

 帰宅して、しばらく。

「あー、暇んなった……」

 自問自答問題その1、する事が見つからない。

 学校の色々な手続きぐらいはあるのだろうが、概してそういったものの期限は甘っちょろいので深く考えなくても大丈夫だろうと高をくくる。

 そんな怠惰な思考に甘んじている真面一は自分の部屋で座椅子にもたれていた。時間は午後二時を過ぎた辺り、微妙に差し込む日光がまぶしい。

 すでに昼食は取り終え、琉二に勧められたゲーム、新しい教科書(五教科)、図書館で借りた本、全て完了形だ。まあ、ゲームや借りた本は昨日までに終わっていたし、教科書も読んだだけで内容なんか頭に入っちゃいない。

「とりあえず、本返しに行くか……」

 すくっと立ち上がり、肩掛けの中に本を入れて出発。ドアを開けると、

「きゃあっ」

「…………」

 どっかで見た顔だった。

 どこだったか……いや、その前に誰だ……? と、あまり人を強く覚えようとしないせいか(これまであまりそういう必要性に駆られなかった)、真面は思い出せなかった。

 ――あー、怠けるもんじゃないな……。

「え、ていうか、ええっ!?」

 感情とか挙措に乏しい真面の前で、なんだか目の前の少女は尋常じゃなく挙動不審だった。

「……何だよ」

「え、と……あれだって、今日、隣の席にいたよね?」

 言葉が見つかるまでは身振り手振りで何とか表現しようとしていて、慌てているのがよく分かる。

「隣……あー」

 ポン、と手を打つ。

 引き出しが分かればあとは思い出せる。風景は覚えるようにしている。

 ……そうだ、確か柳瀬瀬奈とか言っていた。

「(目の前にしてみると、改めて小さいな……)」

 と真面は思ったが、

「(とか思ってるんだろうな……どうせ)」

「(とか思ってそうだからその話題は止めとこう……)」

「(とか気を遣われてるのかな……)」

 結局の所、第三者的に悲しい心の読み合いだった。

「で?」真面は切り出した。「どうしてここにそのクラスメートがいるんだ?」

「いや、だってそこに住む……し」

「……そこ、ねえ」

 指さした先は真面の部屋の、隣。

 個人経営のアパート、その部屋の内の、1つ。

 ――確かそこには地方から来た大学生が住んでいなかったか……って、あー、隣の人卒業したんだったか……。

 普通からずれた思考整理、完了。

「まあ、ご近所付き合い宜しくって所か」

「あ、うん、そうだね。特に差し入れみたいなのは用意してないけど」

 互いに普通と違い、順応が恐ろしく早かった。真面に関して言えば、それは自立心があるという話になるのだろうが。

「あー、まあ、そんなもん……なのか? 俺その辺詳しくねえから分かんないけど」

「引っ越しの時って両隣と真上真下の人に挨拶するんだよね?」

「まあ、それぐらいは分かるけどな……」

 何やら、いつの間にか相談されてしまっていた。

 4月って学生の引っ越しのシーズンだから騒がしくなるんだっけ(実際は3月がピーク。真面のは間違い)……と、そこであることを思い出す。

「あー、そう言えば一週間ぐらい前になんか廊下がどたどたしてたのはそれか」

「あれ? そんなにうるさかった?」

「いや、うるさくはないだろうけどな、コンクリって意外と響くんだよ」

「うんうん、言われてみれば、中にいても人が階段上ってくる音とか分かるよね。それで家族が来たー、って待ち構えたり」

「するのか……?」

 真面には無い考えだった。

「まあ、偶に別の部屋の人だったりするけどな」と補足しておく。「それじゃ、俺出かけるから。家族の人によろしく」

「あ……家族は一緒じゃないから」

「あー、もしかして悪いこと聞いちまったか?」

 ふるふる、と首を振り、それに続いて髪が揺れる。それがなんだか妙な時間差を帯びているように真面の目には映った。

「ううん。一人でこっちに来たってだけだから。家族は生きてるよ」

「…………、よく女子高生の一人暮らしを許可したな……その両親」

「ん、まーね」

「はーん……色々あるんだな」

 短い返事にあまり話したくなさそうな意図を汲み取り、真面は少し思いを馳せる。

 それから、1人で図書館へと向かった。


   ――――


「もう少し、こう……だらり、か? いや違うな……」

 何事かをぶつぶつつぶやきながら頭の中でイメージを繰り返しながら真面はアパートに戻ってきた。

「ドアを……ひょいっ、と……これも上手く行かないな……」

 勿論、誰も見ていないからこそぶつぶつと変人的な行動をしているわけで、よもや近くに誰かがいるとは思わなかったのだ。


 だから足首をがしっと掴まれたときは、ぎょっとした。


「――っ!?」

「…………、………………」

 生まれて初めての恐怖体験アンスピーカブル、にほとんど動けなかったが、よくよく考えて己の足を掴む手から胴体の方へと視線を移し状況を理解する。

「どうしたんだ? 柳瀬」

「…………、………………」

 静かな状況で、耳を澄ましているのに、横に向いたあごがもぞもぞ動いているのしか分からず、まるで聞き取れない。

「……、よし、質問するぞ、腹が減っているなら一回爪を立てろ。それ以外なら二回だ」

 一回は反応があったが、しばらく待ってもそれ以上は無かった。

「了解っと、あー、そうだな。飯作るから、上がっといて……つったって歩けてねえな……玄関で待って貰うか」

 真面は柳瀬の両脇を持ってずるずる引きずり、玄関に引き上げると早速調理に取りかかった。

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