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08.使える物は何でも使え

 神よ、つまりこれは、遺伝子の神秘ってやつなんですよね?


という現場を目の当たりにしております相庭悠です、スタジオにお返しします。


「うっめー!マジで美味い!悠さんすげー!」


 と叫びながらがっついているのは笹原君の弟である剣矢君、ぶっちゃけ超チャラい。


顔はどちらか言えばお母さん似かなあという感じ。 


「ああ、本当に。高校生でこれだけ作れるって凄いな。将来はそっち系に進むの?」


 と綺麗な箸捌きなのは長兄の広大さん、物っ凄動作がビシィッとして正座する背筋の角度とか超完璧。


こちらはお父さん似というより瓜二つの顔だ。


 兄弟を揃えて見ると笹原君は直刃さん似なんだなあっていうのがはっきりわかる。


……それにしてもこの両極端の兄弟の間を取りましたって感じだよね笹原君の性格……。


「本当にこれだけ急に作らせてしまって申し訳ない。勝利、後でちゃんと送って行くんだぞ」


「わかってる」


 広大さんそっくりのお顔でこちらもビシッと言ったのはお父さんの雄大さん。


 しかしなんだ、その、上から下までタイプは違うんだけど全員美形なんですよね。


なんか薔薇園の中に雑草紛れ込んで申し訳ないって感じが。


 でも料理は大好評のようでよかった、しかも恐ろしいスピードで消化されて行ってるよ。


男性陣はわかるんだけど、政子さんもよく食べるなあ。


なんかすっかりトミさんのような気持ちで自分の食べる暇もなくご飯や味噌汁をよそい分ける私。


…………これですっかり私も笹原家の一員に!?


「悠さん、おっかわりー!」


「いい加減食い過ぎだろ剣矢。相庭、お前も自分の食えって」


「だって今日は爺ちゃんめちゃめちゃしごくんだぜー?マジで疲れた」


「剣矢君も剣道やってるんだ?」


 まあ名前からして強制が入ってると見えるけど。


受け取った茶碗にこんもりとご飯を乗せながら言うと、剣矢君は大きく首を縦に振る。


「勝利兄ちゃんみたいに上手くはないけど。家じゃ全員やってるよ、母ちゃんも」


 ほー、なかなかの剣道一家なんだ。


「お前は何かやってなかったのか?あれだけ運動部から勧誘されるくらいなんだし」


「え!?あ、いや、えー、まあ、ちょこっと、一通り?」


 言葉を濁してみる。


「一通りと言うと?」


 濁してんのに突っ込まないで下さいよ(近い将来の)お義父さん!


「剣道は?」


「え、あ、はい、昔」


「ほう、柔道とかは?」


「え、あ、はい、昔」


「じゃあ空手なんかももしかして?」


「え、あ、はい、昔」


「あら、それじゃ拳法なんかも?」


「え、あ、はい、昔」


「まさか合気道とかは?」


「え、あ、はい、昔」


「……お前やってないの探した方早くないか?」


「え、あ、はい、そんな感じかも」


 笹原一家の質問責めに行きも絶え絶えの相庭悠選手、ロープ!ロープ!アンドタオル!


「凄いな、それだけ経験してるなんて」


「昔なんて言って今もやってるんでしょ?そのスタイル見たらわかっちゃうんだから」


 うおっ、流石お義母様、目敏い!


「い、いえ、今はそこそこ嗜む程度に」


 何故!私は!ここで!「いやーん、格闘技なんてやった事もありませーん。人と争うなんてコワーイ!」とか!言えない!のか!


ああああああなんでわざわざ自ら色物女認定を…………あれ、なんか一家(笹原君を除き。そして特に雄大さん)の目の輝きが違……。


「そうだ、それだけやっているならTENCHIの名を聞いた事はないか?」


 うわ、久しぶりにその名前聞いた。


「彼の著書には色々と実践に役立つ事も書いてあるし、何より志が――」


「ほー、あの若造、本なんか出しとんのか。随分偉くなったもんじゃの、昔からやんちゃばっかりしとったのに」


「え、直刃さん、知ってるんですか?」


 雄大さんの脇から直刃さんが首を振るのに思わず目を丸くしてしまった。


すると直刃さんはうむと頷く。


「昔教え子じゃったからの」


「ええええええええええ!?」


 思わず雄大さんと声がハモった。


「あのTENCHIが!?」


「あの親父様が!?」


 ――………………あ、なんか踏んだ。


笹原一家の目が一斉に私に矢の如く突き刺さってるよ、なんだ、親父様なんかしたのか、まさか笹原一家から恨みを買って私と笹原君はロミオとジュリエット的な!?


「ナンダッテー!?ちょ、相庭君!それはどういう事なんだ!?あのTENCHIが君の父親という事かね!?」


「わ、ぶ」


 ちょ、お義父様さっきまでとキャラ違……っ。


「親父、落ち着け!揺するなって!」


 雄大さんががくがくと私の両肩を揺さぶるのにマイヒーロー笹原君が助け出してくれる。


ああっ、これですよこれ!これが正しいヒーローとヒロインのあり方なんですよ!


ヒロインのピンチにはヒーローがやって来て颯爽と助け出してくれるものなのですよ。


……まあ中にはピンチにも気付かずうだうだやってるヒーローもいるかもしれないけどさ。


そんなヘタレと私の笹原君は違うのよ。


「えー?マジであのTENCHIが親父さんなの?うわー、悠さんサイン貰って来て!俺もファンなんだー」


 え、いつからあの神出鬼没の現在ニートはそんな偉くなったんですか。


「そ、そんな凄かったんですか?」


「TENCHIは凄いぞ、いや、あらゆる格闘家が今や彼の立つ頂点を目指していると言ってもいい!ただあまりメディアには出ないからその私生活などは殆どが謎に包まれた人物なんだ!」


 まあある意味謎に包まれている件に関しては異論もないですが。


家にいる時は恋愛少女漫画片手にビール飲みながら涙してると知ったら一体どんな顔する事やら。


「なーにを言うておる、わしに言わせりゃあいつなぞまだまだひよっ子じゃて。あいつは力任せに技を使い過ぎる」


「全く同意見です直刃さん」


「うむ。悠ちゃんはわかっとるようじゃな、あやつよりずっと見込みがありそうじゃ」


 おお、(近未来の)義祖父様に見込みを許された。


これは笹原君の嫁になる確定的フラグと受け取りますがよろしいですか。


「頼む、相庭君!是非TENCHIと、いや君のお父さんに会わせてくれ!!この通りだ!!」


「ああああああああああ頭上げて下さい!!」


 ちょっ、笹原君に言われる前に笹原君のお父さんにその科白言われるとか斜め上過ぎる!


ていうかどんだけ崇拝されてんだあの親父様は。


……ああそういえばあれが連れて来るお客?も親父様の事「マスター」とか呼びくさってちょっと宗教じみてるしな。


ちらりと笹原君を見ると額を手で覆ってすでに言う事はないといった感じだ。


お互い、父親には多少苦労しているみたい、共通点だわ、愛のファーストコンタクトね。


「あ、あの、わかりました。あれでよければ、今家にいますから呼びます」


「ありがとう相庭君!!このご恩は一生忘れない!よかったら是非そこの勝利を貰ってやってくれ!」


「わかりましたお義父様!ありがとうございます息子さんは私が必ず幸せにします!!」


「勝手に話を進めるなそこ!!」


 チッ、この流れならスルーされるかと思ったが流石に甘くないわマイビターチョコレートめ。


「あー、じゃあちょっと電話かけて来ますね」


 内心不満を残しつつ、廊下に出てポケットから取り出したケータイの短縮ダイヤルを押す。


しかし妙な展開になったもんだなあ、まあ笹原君が貰えるならあのニートもたまには役に立つってもんだ。


『ハイハーイ、マイドーター、どーったの?プッ、今のシャレわかった?』


 家でこれ言ったら確実に四の字固めなんだけど。


「×丁目×番地の笹原家に今すぐ出て来いや」


『…………ヤダ!』


「何故」


『だってそこ高校ん時の担任の家だもん!やだもん!怒られるからやだもん!』


 卒業して云十年経ってるだろうにまだ怒られるって一体どんな高校生活を送りやがったのかこいつは。


「今すぐ来ないと今後の飯はないと思えよ」


『イヤーン!超パワハラ!訴えてやる!』


「そういえば先日神崎法律事務所から――」


『今すぐ行くから待ってて、ネ!』


 チュッとかいうおぞましい音と共に切れた。


親父様の旧友らしい神崎さんがお中元持って来てくれたって言おうとしただけなんですがね。


まあ神崎さんと昔何があったかは追求しないでおこう。


何かあったら真っ先に相談してくれってプライベート名刺貰ってるし。


 再びリビングに戻ると何故か笹原君と直刃さん以外全員正座でワクワク顔だよ……親父様ホント一体何やってんだ?


「すぐ来ます――って、オイ」


 言ったとたんの「ピーンポーン」のチャイム音。


一体さっきどこにいたあの神出鬼没不審人物は!?


「俺が出る!」


「いや私だ!」


「私が出るわよ!」


「ダメだ俺が出る!」


 わきゃわきゃと父母兄弟の攻防戦の中、よっこらしょと立ち上がって部屋を出る直刃さんに続き、私と笹原君も立ち上がって玄関に向かう。


直刃さんの顔を見たとたん回れ右した親父様は即行直刃さんと私に首根っこを掴まれて捕獲だ。


ここまで来て逃げようってのは流石に甘いですぜ親父様。


「キャー!本当にTENCHIだわ!」


「初めまして、私、笹原雄大と申します!いつも貴方の著書を――」


「TENCHI、サインくれ!」


「ほ、本物……っ!」


 そう、格闘家のTENCHIこと、相庭天地は私の遺伝子上の父親でございます。









「それにしてもお前も人の親だったとはのう。お前だけは親になってはならん人間だと思っておったが。貰ってくれる嫁なんぞがいた事に驚きを隠せんわい」


 いや全くです直刃さん、実際娘である私の立場がないけど。


何故か高校時代のお説教を一時間に渡って受けた親父様は現在正座した足が痺れてノックダウン中。


「すでに他界したのは残念じゃったが、まさかお前の娘を目にする事になるとは……長生きはするもんじゃの」


「TENCHIと悠さん全然似てないよなあ。まあTENCHIも渋くてカッコイイけどさ、悠さんは美人で可愛いって感じだし」


「剣矢君、作ったデザート冷蔵庫に入れてあるから全部食べていいよっ」


「ヤッター!」


 超可愛いわ剣矢君、あれが未来の私の義弟になるのね……。


「TENCHIの娘ならなんか納得した。そりゃ身体能力が桁外れでも違和感ねえわ」


「いやそこで納得されましてもですね」


 でもそれは私のあるがままを受け入れたって事でよろしいんですかね笹原君。


説教やらサインやら質問責めやらで、漸く落ち着いた私達はお菓子を摘みながらお茶を啜る。


雄大さん達はまだ興奮冷めやらぬって感じだけど。


そんなご大層なもんとは思えないんだけどね、この親父様が。


面白いから足突付いてやったら「らめえええええええええええ」とか言ってるし、キモイ通り越してキメェ。


「悠たんヒドイ、パパをこんな鬼教師に売るなんて……しくしくめそめそ」


「こっちは親父様がちゃんと高校を卒業してたってのに驚きだよ」


「そんな事ないもんパパ成績悪くなかったもん全国模試で一番取った事あるもん」


 ……笹原君なんですかその「血だな」みたいな顔は。


そんな顔を以前どこかで見たような気がしますが、はて。


「しかし世間は狭いな、悠のロマンスの相手がまさか先生の孫とはなあ」


 そして笹原君からの突き刺さる熱い視線、……もっと!


「お前親父にまでそういう事言ってんのか?」


「言う訳ないでしょ。なんで知ってんだこの現ニート」


「ああああああ足ツンツンは今らめえええええええええっ!!……くすんくすん、だってパパは悠たんのパパだからパパなのだ。顔見たらわかるもんくすんくすん」


 まあ隠してる訳じゃないんだけど、これに悟られている事もちと微妙と言うか。


「悠ちゃん、こいつはちゃんと父親やってるんかのう」


「遺伝子上は辛うじて」


 そう言うと直刃さんはぎりっと親父様を睨んで、親父様はぴゃっと飛び上がって丸くなる。


崇拝しているこんな格闘家の姿を見ても笹原一家の面子は特に何を思うでもないらしい、大物だ、ある意味真の信者だ。


「……何となくその言葉の意味がわかった」


「わかってくれて嬉しいよ」


 恋人になるには相互理解とかいうやつが必要ですもんね。


「こいつが将来義理の息子になるかと思うと頭が痛いわい」


「なんでTENCHIがジジイの義理の息子になる体で言ってんだよ」


 はて、孫の嫁の父親は義理の息子になるんかな?


「大丈夫です直刃さん、私が責任持って直刃さんの義理の息子として教育しますから!」


「頼もしいのう、悠ちゃん」


「だからなんでその体で言ってんだって!」


「あら、TENCHIが親戚になるなんて素敵ぃっ」


「TENCHIさん、不肖の息子ですがどうかお嬢さんの夫として、そして私達を親戚として末永くよろしくお願い致します」


「お前らなぁ……」


 うわーい、なんか外堀埋まってるー、棚ぼた!


とはいえ笹原君の意思を無視してのスキップなど有り得ないので、ちゃんと順序は踏まねば。


手始めにはまず、デートだよね、うん。


「それで笹原君、再来週からの夏休みですけど、プールになど行ってみませんか」


「なんで俺が……………………………………わかった行く、行けばいいんだろ……」


 一瞬で全員の刺さるような視線が笹原君に集まった上での事は否めませんが、えーっと、それについては私も華麗なるスルーをさせて頂きたく。


こんなチャンス早々逃がして堪るかっての、こうなったら他力だろうが何だろうが何でも使う。


キャーと歓声を上げて私が両手を上げれば笹原家ご家族一同も笑顔で拍手、ありがとうありがとう!


相庭悠、やりました!ありがとう!


「但し、明石達も一緒だ」


「エー」


 そりゃあねえだろふーぢこちゃん。


「勝利兄ちゃん、KYにも程があんだろそれ」


「ごめんなさいねぇ、悠ちゃん。空気の読めない子で」


「勝利、私はそんな子に育てた覚えはないぞ」


「兄として俺は情けないぞ勝利」


「呆れて物も言えんわい」


「だから何なんだよ!!」


 まあいいけどね、笹原君が照れ屋なのはこっちも充分承知だし。


約束さえ取り付ければこっちのものだよ、うふふ。


これはまた対笹原君用に勝負水着を新たに買いに行くしかないな、フッ、腕が鳴るわ。


「よかったなあ悠、プールでのロマンスはポロリもあるから、気合入れて行けよ!」


「ちと引っ掛かるが、おうよ!」


 がっと拳を合わせた私達親子を笹原君は「やっぱり血だな」みたいな目で見る。


ううーん、電子レンジにかけたら遺伝子変わるかな。


 などとやってたら再度直刃さんの逆鱗に触れて親父様はお説教スパイラル。


私は笹原君に送られて一足早く帰宅と相成りました……ああん今夜は帰りたくないっ。


とか言ったらプールのお約束はなかったものとされそうなので沈黙の悠。


「あー、楽しいご家族だねえ。会えてよかった」


「お前の親父も相当賑やかだな」


「あれ一人で一万と二千人分はあるよ」


「だろうな。……で、いつにする?」


 思わず聞き返しそうになってから、勢いよく隣の笹原君を見上げてしまった。


わ、マジで!?んもう、このままスルーも出来たのにホント律儀なんだから笹原君愛してる!


「夏休み入ってからの土曜は?市民プールで!」


「あー、まあそこが無難だな。明石達にも言っとく」


 そこはスルーして欲しかったな、まあいい明石君はこちらの味方だ。


 ああもう家が見えて来ちゃったよ……名残惜しい。


「詳しい日時はまた後日って事で。今日はありがとな」


「ううん!凄く楽しかった!新しい水着買うから超期待しててね!」


「何にだよ……」


 米神を押さえた笹原君に大きく手を振ると、苦笑しながら軽く手を上げてくれる。


暗い中に消えて行く背中をずっと見送った。


それからじっと目を瞑って、笹原君が手を上げてくれた姿を思い浮かべる。


ぼんやりと全身があったかくなって、隅々までやる気が満ちた。


 よし、とりあえずは、新しい水着どんなのにしようかな?


やっぱポロリは大事?





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