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05.情報収集も、大事に!

「笹原くーんっ!!」 


 相庭悠が、貴方の相庭悠が帰って参りましたぁーっ!!


「あれ、相庭。音沙汰なかったけど、風邪でもひいてたん?」


「少々やんごとなき事情がございましてですね鈴木君。ほぼ一週間ぶりだね笹原君元気だった笹原君期末試験に向けては順調笹原君!」


 落ち込んだりもするけど、私元気です!


「相庭、意気込み過ぎて疑問符が抜けてる……」


 ご忠告ありがとう明石君、肝に銘じるよ。


 じっとり……いや、ねっとり……いや、じっくり一週間ぶりの笹原君を網膜に焼き付けなくては!


と思っているのにマイダーリンたら肩を落として華麗なるターン、アイドル顔負け。


ううん、私の心のアイドルは笹原君、貴方でキ・マ・リ!


 本当なら休日中にでも笹原君家に行こうと思ってたんだけど、目をギラギラに輝かせた親父様を捻じ伏せるのになかなか手間取ってしまったという次第。


闘魂な上にロマンス好きとか、あの36歳はどこに向かってるんだろ。


まあどこでもいいんだけどアレは。


「で、何の用だよ」


 疲れ交じりのセクスィーヴォイスも素敵です笹原君。


「一緒に昼食をとろうと思って」


 突撃!笹原君の昼ごはん!


「何せ一週間ぶりだし、積もる話もあるし主に笹原君が一週間何してたか聞きたいし」


「生きてた」


「そうだと思った!生きててくれて嬉しいよ笹原君!」


 って、何故そこで明石君と鈴木君に助けを求めるような視線を投げるんですか笹原君。


ホラ二人共親指立てて笑顔で私達の未来を祝福してくれてるよ。


ありがとうありがとう、私達幸せになりますこれからも!


 足取りも軽くツーステップぎみで笹原君の隣に並べるこの幸せと来たら……。


うーん、私今生きてるー。


「相庭って弁当自分で作ってんの?」


「そだよー」


 私の抱っこ状態で抱えているお弁当箱を物珍しげに見る鈴木君。


お弁当持ってる女子に男子がこう質問するのもお約束だよねえ。


流石ベストオブフツー、これを聞いたら頼子が喜ぶよ。


これも何かのご縁なので「紹介とかする?」って女子らしく聞いた私に向かって真顔で「鈴木君は女子と付き合えないからこそいいんだよ。付き合うとか無理」と返されました……あいつ只者じゃねえ、真のイイ人ドフェチだ。


「母親仕事してるとか?」


「母がいないからね」


「あ、そうなんだ。じゃ大変だな」


「そうでもないよー」


 むしろあの親父様がいて大変だ、一人で一万と二千人分の大変さだ。


「親父さんにも作ってんの?」


「父親らしき人には作ってないよー」


 その必要もないと言うか、家にいる時はニートよろしく家でぐだぐだしてるし。


全く一体何をどうしているんだか、あれでも毎月本当にナニやってんだって金額が口座に振り込まれている。


……裏家業の娘とか嫌なんですけど、笹原君のご家族に申し訳ないし。


ああでも愛さえあれば職業なんて乗り越えてみせるわっ!


「……らしき人?え、義理とか?」


 微妙な顔になってる三人に首を振った。


いっそ義理だとでも願ってDNAまで調べた私の純情を返せと熨斗つけて返せと。


「や、精神的に」


「な、なんか複雑な事情?」


「精神的にね」


 思わず遠い目をしてしまった……。


「殆ど物心ついた時から家事やってるからその点は心配しないでね笹原君」


「何の心配もしてない」


「そう言われると照れるよ!」


「そういう意味じゃないっ」


「お前らの夫婦漫才も板について来たなー」


 明石君が笑って言ったのにもう瞬殺という眼光を突き刺す笹原君……ヤバイ、カッコ良過ぎる……。


むしろ私のハートはあの目に射抜かれちゃったのね。


イエース、フォーリンラヴ。


「あ、飲みモン買って来んの忘れた。ちょい行って来るわ」


「笹原君私もお供ー!」


「いらん!お前にも買って来てやるから大人しくしとけっ」


「逃げるなよ笹原~」


 ケラケラ笑う鈴木君に蹴りを入れてから屋上手前で階段を引き返して行く笹原君を見送って、ぽーっとしながら二人と共に適当な位置に腰を下ろす。


 ああ、ああ、聞いた?聞きました?今の、ねえ聞いた?


笹原君が私に飲み物買って来てくれるって!これが記念すべき笹原君からの初プレゼントになる訳ね!


何かって来てくれるかウキウキワクワクのサプライズ的な感じが堪りません。


ああどうしよう飲みたいけど飲めないかもしれない、どうしよ、ここは仏壇に供えて母に報告してからにすべき?


でも私ならバレンタインのチョコはやっぱり笹原君にすぐ食べて欲しいもの、女ならここはぐっと堪えて全て飲み干すか!


「相庭……感動に浸ってるとこ忍びねえんだけど」


「他ならぬ笹原君の友達の明石君の言う事だ、構わんよ」


 頷いて受け入れ体勢を整えると、明石君は後ろ手に紙切れを渡して来た。


それをちらりと確認して頷いて見せるとほっとしたように明石君が笑う。


まあちょっと面倒そうだけど、惚れた相手の友達の頼みだ。


「相庭、浮気かぁ?」


 鈴木君の言葉に思わず笑ってしまった。


いつものようにのほほんとした風でありながらも、その裏には心配そうなものが少し含んでいるのがわかる。


流石頼子が認めたフツーのイイ人、そして流石私の(近い将来)笹原君の友達。


明石君と一緒にぽんぽんと鈴木君の肩を叩く、そのままでいてね鈴木君……例え頼子の言う通り彼女が出来なくとも。


 敷いたハンカチの上で正座して待ちながらこちらも一週間ぶりに見るフェンスを眺める。


あの向こうのどこに、笹原君の好きな人がいたんだろう。


ここから見える場所だろうか、それとももっと遠くだろうか。


 ……ぶっちゃけ敵の姿も見えないってところがまた。


大体ちょっと想像もつかないんだよねえ、笹原君の好みに合いそうな女の子って。


過去の告白戦歴によれば、お姉様タイプから清純派美少女までまー見向きもしない人ですから。


笹原君があれだけ惚れ込んでるって事は相当何かが光っちゃってる人には違いないんだろうけど。


 …………私だって光り輝くものがあるよ!……えっと、……えーと、まあとにかく何かあるよきっと!


そりゃ今はその子に負けてるかもしれないけど、これからはどうだかわかんないじゃない。


そうだ、戦わずして負け戦などこの私の戦歴に汚点を残す訳にはいかないのよ。


「よし!」


「お、気合入ってんね」


「勿論。負けるのを恐れて戦に挑む私じゃないのよ」


 うむ、早速笹原君の気配がします母さん!


「お帰り笹原く――わ、とっとっ」


「茶でいいよな」


「勿論!笹原君がくれる物ならお茶でもジュースでも左手の薬指用の指輪でも婚姻届でもスポーツ飲料でも!」


「だから後半に余計なものを挟むな!」


 んもう、余計な物だなんて、一つの家庭に収まる事になったら必要になるのに。


 腰を下ろした笹原君にそそそと近付いてみる。


二人でランチ、これを五日も逃してたとかバカ過ぎるわ私、お蔭さまで会うのすら一週間ぶりとかないわ。


「……人を睨むな」


「ダメー。網膜に焼き付けておかないと!あーわー!暴力反対、イジメカッコワルイ、ダメ絶対!」


 じっとり見ていたら顔を手で押し退けられてしまった。


ううん、今日もつれない、だがそこもいいから許す。


 さっさとパンに噛り付いている笹原君に気を取り直してお弁当箱を開いて差し出してみた。


本日のメニューは野菜入りの玉子焼き、ウズラの卵入りミニハンバーグ、豚肉と野菜のカレー炒め、わかめご飯、プチトマト。


さあ、さあさあさあ!どれから行く!?


「……なんだよ」


「え、ほら、まず料理において心配点はないか確認して貰おうと思って。笹原君の好みそうなの作って詰めて来たんだけど」


「誰から聞いた」


 唸る、と言う感じで笹原君が低く言う。


そういえば笹原君の声変わりは結構早かったって直刃さんが言っていたっけ。


ボーイソプラノな笹原君の幼少期もお目にかかりたかったけど、過去を欲しがってもどうしようもないしね。


それにあれですよ、私が欲しいのは今の笹原君だし。


キャ、私のものにしたいだなんて、私ったらおハレンチ!


 や、でも正直十代の恋愛なんて勢いあってナンボでしょ、今から将来考えて守りの体勢取りたくないって。


それにやっぱり先手必勝、私はこれが性に合ってるからね。


 ……あれところで何の話だっけ?アーウチ!私とした事が笹原君の質問を忘れるなんて!


ううん、記憶の録画ビデオを巻き戻せばすぐに思い出せるから待っててね笹原君!


 ――で、思い出したんだけど(総所要時間0.2秒)何聞かれてるのかわかんないよ……。


「何が?」


「だから、俺の好みなんて誰から聞い……お前か」


 じろりと隣を睨んだ笹原君に明石君はひらひらと手を振る、次に刺し殺さんばかりの視線を鈴木君に投げるとぶんぶんと取れる勢いで首が振られる。


やがて笹原君の視線は私の元へ。


お帰りなさい、待ってたわ!きっと私のところへ帰って来てくれるって私信じてた!


「別に誰からも聞いてないよ。今まで見かけた笹原君の昼食メニューを分析して割り出しただけ」


 前はハンバーグサンド食べてたし、お弁当の時には必ず黄色い玉子焼き入ってたし、それからカレーパンも食べてたし、学食じゃわかめの味噌汁頼んでたし、そのいずれもサラダだの煮付けだのと野菜が付いている。


ので、まあ、こんなもんかなと。


あ、プチトマトは完全に彩り要員ですが。


 でもわかりやすいっちゃわかりやすいよねえ?


「相庭、お前ホント無駄に頭いいな」


「頭の使いどころ間違えてねえ?」


「やっぱスーカーだろお前」


 三者三様のお言葉を有り難く頂戴致しまして、再度恭しく笹原君にお弁当箱を掲げてみる。


ははー、どうかお納めを。


「つか、俺が食ったらお前の分なくなるだろ」


「ご心配に及ばず!パン持参して来た」


 朝食の余りの食パンだけど、BLTならぬHLC(ハムレタスチーズ)


ちゃんと親父様にも作ったんだよ、(マーガリン)サンドを。


「いや、全部は食わないし」


「一口食べたら止められない止まらない!」


「わかったわかった!とにかく、一口は食うから」


 うーん、脱力して肩を落とす笹原君もス・テ・キ。


その姿をオカズにご飯食べられそう、あー写メりたいけど将来幾らでもある機会なんだから今は我慢ー。


 目からビーム発射する勢いで笹原君が一口ハンバーグを食べる様をガン見する。


脳内録画脳内録画。


って折角録画してるのにまたしても顔を押し退けられてしまった。


暴力反対、イジメカッコワルイ、ダメ絶対!でもぶっちゃけ顔触られてニヤけるくらい嬉しい!


「どう?」


「……」


 あれ、なんですかその微妙な顔、普通に不味かったのかただ口に合わなかったのか……ジャッジしかねる。


「これ自分で作ったのか?マジで?」


「私笹原君に嘘ツカナイ」


「…………美味かった」


 ぃよっしゃああああああっ!!思わず渾身のガッツポーズ!!


作り置きしてたのが多いけど、今朝五時起きしてよかったぁー!やりました、相庭悠、見事やりました!


「いーなあ、笹原ぁ。早速愛妻弁当かよ」


 ニヤニヤしている明石君に笹原君の見事な鋭い突きが一発。


うん、今日もツッコミが冴えてるね笹原君。


 しかし私もニヤニヤデレデレドロドロキュンキュンしながら残りも食べてと再度お弁当箱を掲げる。


躊躇いの後見事献上完了。


あー今日は実にいい仕事したな自分。


これで笹原君にも私が料理に抜かりない女だとインプットされれば完璧っ。


 これで残る問題は私のエプロン姿に笹原君が萌え……いや燃えてくれるかどうかよね。


…………新妻のエプロンと言ったらやっぱりフリフリヒラヒラかなあ。


でもそれを見て笹原君がキッチンに立つ私を後ろから襲い掛かってくれないとむしろ無用の長物な訳で。


うーん、若干考慮の余地あり。


「俺達お邪魔みたいだから?席外すし?後はお若い二人で仲良くやんな」


 言うなり鈴木君の首根っこを掴んで立ち上がった明石君と素早くアイコンタクトを交わす。


うむ、お気遣い痛み入る、例の件は安心して任せられよ。


片手を上げて去って行く明石君に元気よく手を振って見送った。


「って、待って待って待って!待った!異議あり!」


「何だよ」


 一緒に立ち上がろうとする笹原君の袖を行かないでいけずつれないお方、とよろめきながら引っ張ってみる。


「えーっと、実はちょっとお聞きしたい事がございまして」


「何」


 諦めた様子の笹原君にこちらも佇まいなどを直してみる。


しかしどう切り出せばいいものか、そもそもどう切り出しても内容は変わらないんだけど。


 でも敵を知り己を知らば百戦危うからず、と言いますから。


己を知っている以上、次は敵な訳でして、ええ。


そう、つまり、所謂、その。


「笹原君の好きな人ってどんな感じ?」


 わー、口から勝手に直球キタ!どれだけ正直者なんだ自分!


超高校級ピッチャーの速球も真っ青だよ、ある意味感心した。


「それ聞いたら諦めんのか」


「いや、それはない」


 そんなもんがあったら最初から間違ってるよ私。


ノーと言い切ると笹原君ははあとどデカイ溜息をおつきになられまして、ちらりと私を見る。


キャーッ、笹原君にチラ見されちゃった記念日としてこの日を(以下略)。


 なんてやりながらも内心ドキバクなので小心者丸出しだな!


いやいや、聞く前からビビってどうする、私の戦歴に不戦敗など有り得ないっ。


昔とは意味が違うが、戦うべくして生まれた女、それが私。


「何が聞きたいんだよ」


「え、えー……そうだなあ」


 ヤバイ、特に考えてなかった、なんだこの切り替えし、惚れ直す。


「まあ出来る限り。容姿とか笹原君から見たイメージ的な性格とか、なんで好きになったのかとか、どこがよかったのかとか、只今どんな関係とか」


「すっかり言え、と」


「まあ、噛み砕いて言うとそうなりますね」


 えへへ、恋する乙女は好きな人の事なら何でも気になっちゃうのが道理でしょう。


ああー、ドキドキする、こんなに緊張したの笹原君に告った時以来だよ。


「俺の好きな奴、か……」


 またどこか遠い目をするその横顔を、やっぱり私は切ないような嬉しいような、そんな気持ちで見上げた。


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