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04.気持ち、大事に!

「めそめそ」 


「……」


「めそめそめそめそ」


「……あーもう鬱陶しい!口に出してメソメソ言ってないでいっそ黙ってメソメソしてなさいよ!」


 イエス、女王様。


って、いやいや。


「口に出してた?」


「思いっきり」


 向かいの席でアキちゃんが深く頷く、視線を斜め前にやると頼子までうんうんと頷いている。


「それは失礼」


「フツー口に出して言うか?」


「ザワザワを口に出して言うみたいなもんだよね」


 さわ……ざわ……。


いやそんな一部の人にしかわからないネタやってる余裕なんてナッスィングなんですよ。


 はあ、溜息が出ちゃう……恋ね。


「今度は溜息とか……恋ね、とかやってんじゃないでしょうね」


 いつからアキちゃんはエスパーになった訳ですか、事務所に許可とってからにして下さいよ。


 ああ~でもそんなツッコミ口に出せるほどの気力が湧かんよバトラッチュ。


僕もう疲れたよ、なんだかとっても眠いんだー。


「一体何があったっつーの。あんたホント極端過ぎ」


「そうだよ。悠がさあ、元気ないから、私先輩とかにまでどうしたのかって聞かれたし」


 ありがとう心の友達よ、でも机から顔が上げられない……このまま気持ちよく合体したらどうしよう。


机人間としてどこかの研究機関に拉致られた挙句、学会に発表されてしまうよ。


 出るのは溜息ばかりなり。


「ついこの間まで笹原笹原ってバカの一つ覚えみたいにやってたのに。何、もう飽きた?」


 NOT秋田!


ふるふると振る首にも我ながら顔が濡れて力が出ないよ。


これが……涙……?


 ……あーダメだ、モチベ上がらん。


「なんだろうなあ……これが俗に言う、夫と若い女との浮気現場を目撃した妻の心境ってやつ?」


「いや、笹原はあんたの夫じゃないし」


 トドメ的ツッコミグッジョブアキちゃん!と言いたいところだが、今日はマジで瀕死ですよ。


ああもうこれ絶対私のステータス画面が真っ赤になって超点滅してるって。


あと紫とか黄色とか緑かもしれない、なんという多重苦。


「じゃああれだ、必死でダイエットやって停滞期にドカ食いしてあっという間にリバウンド的なエンドレスリピートみたいな」


「そっちの方が近いかも」


「さっきよりはね」


 うう、なんて手厳しい心の友。


あーあーあーあー、もう脳内BGMはすっかりこなあああああああゆきいいいいいいいいいいい。


ねえ。


 我ながらいつも以上におかしいわ、こりゃダメだ、次行ってみよー。


「え、帰んの?」


「んー。早目に退くとえっちゃんに伝えて……へへ、明日娘の誕生日プレゼント買いに行くんだ……」


「死亡フラグ!」


「悠が早退とか聞いたらえっちゃん腰抜かすかもね……」


 最近えっちゃん(担任)腰痛で悩んでるって言ってたからな、傷害罪で訴えられない事を祈る。


 脇の鞄にあれこれ詰めてすちゃっと片手を上げる、去り際は爽やかに。


「皆様、オ・ルヴォワール!」


「ハイハイ、ごきげんよう」


「また月曜にねー。あ、帰りぼーっとしてトラックを跳ね飛ばさないようにね?」


 頼子、それ「トラックを」ちゃう、「トラックに」や。


 何故か戸惑い気味のクラスメイト達にも手を振ってぶらぶら帰る事にした。


先日の屋上の一件から早五日、口から抜けた魂が戻って来ません。


 なんていうかなあ、やっぱこう、ちょっと堪えちゃったかな。


私って実はスピリチュアルアタックには打たれ弱かったのかも。


校舎から出て手はぶんぶんと鞄を振り回す勢いで足はとぼとぼ歩く。


 頭にこびりついたみたいな、あの時の笹原君の顔がもう夢まで毎日出て来てラッキーやら何やら。


お陰様でいと寝不足。


もうはっと起きた瞬間笹原君の夢を思い出すとこうきゅーっと胸が痛くなってですね……私、恋の病だわ。


アキちゃんはナントカに付ける薬はないって言うけど、恋は不治の病とも言うものね、わかるわ。


 なんとなくいつもの道から迂回して、のろのろと歩いて目についた公園の中になぞ入ってみる。


結構広い、遊具も沢山ある。


幼稚園頃の子供達がお母さん達に手を引かれて帰って行く最中、脇のベンチに腰を下ろしてリストラされたサラリーマンよろしく公園を黄昏ながら眺めてみた。


 私が前に住んでたとこは隣町でここからも結構近い、そっちの町内の同じような公園にはよく遊びに行ってたっけ。


懐かしいなあ、あのまさにお山の大将だった時代。


子分達を引き連れてよくヒーローごっこだの探検ごっこだのしてあちこち回って遊んだ。


誰かとやり合う時にはかすり傷一つ作らなかったのに、遊び回って帰った日にはよく後で傷に気付いたりして。


楽しかったなあ、今思えばホントあり得ない子供だったけど。


 そういえば初恋の子に会ったのも公園だったなあ。


あの日も皆と一緒にヒーローごっこして遊び倒してて、それで自分達より年上だった当時小学生の男の子達に場所を取られそうになって…………ついヒーローごっこのノリで悪者退治しちゃったんだった……。


そうそう、あの日のノリはある意味皆異常だった。


勿論勝利を収めた後、その子達に場所奪われてた他の子達に場所譲って、英雄気取りで皆と他の場所行って祝杯(ラムネ)あげたっけ。


 その後だよなあ、夕方くらいになって公園戻ってみたらまたあのいじめっ子達がいて、一人の男の子が虐められてた。


――そう、その虐められてた子に一目惚れしちゃったんだよね……。


笹原君とは全然違う感じだったけど、その子の泣くのを堪える目が凄く綺麗で…………私は目フェチか?


 もうそれからはちょっとあんまり憶えてない。


我も忘れていじめっ子達に飛び掛って行って、気が付いたら泣き喚いて帰って行くいじめっ子達と――恐ろしいものを見る目で私を呆然と見るあの子が残ってた。


「……うわあ……」


 思わず両手で顔を覆って自己嫌悪。


マジであり得ない、あれはなかった、私の人生の汚点且つ分岐点だった。


立場が逆ならカンペキ初恋から両思い成立フラグだったのに自らバッキバキに折りましたよ私。


 もうショックなんて話じゃなくて、我に返ったんだか何だか、私は友達も置いてその場から飛び出して家に帰って……親父様に飛び蹴りかまして多少冷静さを取り戻したんだよなあ。


でも落ち込んだなんてもんじゃない、それから町を引っ越す間恐る恐る公園に様子を見に行ってもあの子はいなくて。


自分が何をしていたか漸く理解して、泣きに泣いた。


 まあそりゃそうなんだけど。


何を好き好んで、幾ら自分を虐めてた奴から助けたとはいえ人をフルボッコにした女なんて、そりゃ怖いわ。


むしろ自分もそんな目に遭わされるんじゃないかと思うわ、そりゃーそうですよ。


 でも正義感振り回してそれが当たり前だと思ってた当時の私はそれまで全然気付かなかったんだよね。


そんな「女の子」が「男の子」からどう見えるかなんて、考えもしなかった。


それまで男女の垣根なんかなくて、そういうものなんだと思っていた。


 両手で頭を抱えて一人身悶えたりなんかしてみる……通報されないよね?


「あの子今頃どうしてるかなあ」


 なんとなくだけど、綺麗な子になってるんじゃないかなと思う、アイドルっぽい感じの。


会いたいなあと思わないでもない、もしその子があの時の事憶えていたらダッシュで逃げるけど。


でも憶えていたら逃げるのはその子かもなあ。


何せ後で友達にあの時の自分の様子聞いたら「鬼だった」って真顔で返って来たし。


 やる直せるもんならあれだけはやり直したい過去だわ。


人生のリセットボタンて一体どこにあるんだろ。


 いや例え良好な気持ちで会えたんだとしても、私にはもう笹原君という然るべき人がいる訳だからいいんだけどね。


「うぐぅ……」


 イカン、うっかり思い出して自殺点だよ。


 複雑だ、恋は複雑だ。


勿論笹原君に例えば愛してる人がいるとか言われても、私の気持ちは消せそうにないしぶっちゃけ消そうとも思わない。


私は笹原君が好きだし、人の心にいちゃもんは付けられない。


今はまだ私が恋人な訳じゃないし……。


 あの時の笹原君の表情や目を思い出すと、またなんかこう全身がぐるんぐるん回転してるような気分になる。


本当はあんまり歓迎したくないんだ、笹原君が他の誰かにそんな目を向けるなんて。


出来れば力一杯、そういうのは私に向けて欲しい、私だけに向けて欲しいんだ。


 でも優しくて切ないようなその目を、私はまた好きで堪らなくなってる。


……複雑です、乙女心はかくも複雑なのです。









 センチメンタルな思いを抱えて一人家に帰ると、前方に未確認歩行物体発見。


だが無視!それが私!


「待て待て待て待て!ちょ、待てよ!久しぶりに帰って来たっていうのに何そのガン無視!?ここは、パッパァ~ン会いたかったわ~おっかえりなすわ~いぃって抱き付いてほっぺにチュー……まだ話途中ー!!」


 何を思って玄関のど真ん中で待ち構えていたのかは考えたくない。


しかもこのタイミングで帰って来るとは……踵落としを希望していると見なすがよろしいか。


「んもう、相変わらずつれないマイドーター、イ・ケ・ズ」


「おフランスくんだりまで行って覚えて来たのがそれかと」


「そんな事ないぞマイガール、これおフランス土産の饅頭」


「ツッコむ気も失せる」


「イヤン、バカン。って、ぶわあ!!毒霧!ノー毒霧!!」


 とりあえず悪臭の元はファブる、これ常識。


それからさっさと部屋に行って着替えてから戻って、今日は気力ないんで店屋物ケッテーイ。


景気付けにお寿司だな、特上。


早速お電話、毎度お馴染み一河寿司さん。


「出前お願いします、特上一人前……」


 電話の前で尻尾をフリフリ振った犬が一匹いる。


「……と、いなり寿司一人前」


 お、尻尾が地の底に垂れた。


しかし無視して番地とと名前を告げて注文完了、後は待つだけ特上寿司。


「パパお腹空いてるんだけど」


「偶然、私もお腹空いてる」


「パパもせめて梅コース食べたかった」


「残念だったね」


 やっぱりお寿司には日本茶でしょうとキッチンで淹れてリビングに行くと、床にのの字を書きまくってチラチラこっちを窺うUMAと目が合う。


テーブルにどんがり置いたお茶をちびちび飲み出して親父様はまたチラチラ私を見た。


「こっち見んな」


「もー!まだ反抗期なのかい、マイスイート!」


 これが反抗期なら一生反抗期だと思う。


何度も言うけど帰るならせめて前日に連絡入れて。


「それで?」


 それで?


テレビのリモコンをぽちぽちやりながら首を捻ってみた。


 すると両手で頬杖をつき唇を尖らすという乙女しか許されない禁断のポーズを無駄に披露した親父様はじっと私を見た。


「何が」


「だからあ、なんか元気ないワケ。飛び蹴りも回し蹴りも踵落としもアイアンクローもDDTも一本背負いもして来ないワケ」


「別に話すような事じゃ……」


「パパは聞きたい!」


「噂になると困るし……」


「難攻不落の幼馴染みヒロイン気取りですか!」


「好感度の情報屋気取りか!」


 ぜえぜえ、はあはあ、お互いに怒鳴り合ってからお茶を啜ってみる。


しかし流石に侮れない、レアモンスターの如き頻度でしか会わないにも関わらずこの洞察力。


キラキラと目を輝かせて親父様は鬱陶しい事この上なく「ん?」「ん?」と首を捻っている。


これと結婚した我が母は一体何を考えていたのやら。


「わかったぁー!ズバリ恋だな、我が娘よ!?ファイナルアンサアアアアアアアアアアアアア!!」


 そこでチャイム。


早速お寿司が来たよ、近所といえど物の三十分もかかってないよ、流石「美味い・早い・安い」の一河寿司。


うむ、今日もいい仕事してますぜ。


 代金払ってお茶を啜りながら二人で黙々とお寿司を食べる。


合間にリモコンをまたぽちぽちとしてみるけど、特に面白いのはやってない。


そういえば頼子がハマって見てるとか言ってたドラマっていつやってるのかな。


ドラマは続けて見れないからあんまり見てないんだよなあ。


 お寿司を平らげてからは折角なので、おフランス土産とは名ばかりの空港土産の饅頭を二人で頬張る。


しかしまたこれパッケージに凱旋門とか書いてあるけど……そんなバカな。


「あー食った食った、これ結構イケてね?」


「まあフツー。そういえば今日は連れがいないの?」


「来週には来るよ多分、検閲で引っ掛かってさあ、アイツら」


 一体何しでかした、ソイツら。


「他にも土産あるからその辺漁っていいぞー。パパのお薦めはおフランス産熊の木彫り」


 そんなバカな。


と思いつつも荷物漁ったら本当に出て来た…………おフランスという名の北海道に行って来たんじゃあるまいな?


他にも似たり寄ったりの土産物がごろごろと出て来る。


その中の一つを手に取って親父様に見せた。


「なんぞ、これ」


「あ、それねー。熊から助けた奴になんか貰った」


「因みに何カラット?」


「ワカンネ!」


 …………とりあえずこのどでかいダイヤっぽいのは見なかった事にしよう。


非常袋に入れておけば後々役に立つかもしれないし……主に質屋で。


「今度は何人来るの。ナニ人。何食べるのその人達」


「えーと、一杯、色々、テキトー」


 テキトーなのはあんただ。


溜息をつきながら親父様の荷物を片付けて、沸かしたお風呂に親父様を入らせて、ビールの用意と。


リビングで宿題や何やらを済ませていると上機嫌で戻った親父様が早速ビールに飛び付く。


我が遺伝子上の父親ながら、ふ~ぢこちゅわ~んに飛び掛るルッパァ~ソも真っ青な飛び付きっぷりだ。


 グビグビやってる横でこっちはカリカリお勉強。


そういえば夏休みがもうすぐなら期末試験ももうすぐだよ……今更慌てる毎日を送ってないけど、憂鬱は憂鬱だ。


 あーそうだよ、そして夏休みといえば笹原君だよ。


……やっぱこううじうじしてんのは私らしくないな!ここはやはり間違えずにうっかり無意識で道場に遊びに行く方向で!


よし、これで夏休みの予定の九割は決まった。


夏休みも笹原君へのラブライフを満喫するぞ~ウフフ。


 だって、好きなんだもん。


だから、会いたいんだもん。


「親父様」


「んー?何、寂しいから今夜は一緒に寝ようパパ?」


「正解!ただし、一つ前の疑問について」


「一つ前てぇと……え、恋?あ、やっぱ…………って、えええええええええええええ!?マジすかあああああああああああああああああっ!?」


 そうですよ、恋しちゃってるんです私。





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