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番外編8 二年目の怪

※勝利視点




 いつものように家まで迎えに行くと、手を振りながら出て来た悠のそれを見て、俺は密かに溜息を噛み殺した。


この三日で特にまた増えている手の絆創膏。


包丁で怪我したとは考え難い、桂剥きを出来る奴が今更手先に無数の傷を付けるとは思えない。


何事かと聞けば、新しい挑戦中だのとなんだのとはぐらかされた。


相変わらず意味不明だが、真意を俺に話すつもりはないらしい事だけはわかった。


「おまったせーい!」


 そしていつもの如く満面の笑顔で抱き付いて来る――はずが。


「どうした?」


「あー、ちょいと滑って転んでこの有様ですわ」


 手を伸ばせば包帯が巻かれていない方の足でぴょんと跳ねて悠が手を取る。


「歩けない訳じゃないから。軽く捻って筋痛いだけ」


 そう言ってゆっくりと歩き始めるが、どう見ても足を庇って歩いている事は明白だ。


こいつが走れもしないって事は一般人にとって相当痛い事に値する。


握っていた手を放して腰を抱えるようにすると、俺を見上げた顔がへにゃへにゃと崩れた。


「今絶賛ときめきマックスボルケーノ中!」


「実況はいいから。病院行ったのか?」


「大丈夫。こむら返りみたいなもんよ」


 やっぱ結構痛いんだろそれ、と内心また溜息をつく。


日々増える手やら腕の傷に加えてこれだ、俺はまた追求の手を伸ばそうとしたが見上げてくる有無言わせずの笑顔に阻まれる。


放っておけば一人で二十四時間は喋っているだろうこいつでも、一度口を閉ざした事は頑として割らない事もすでに俺は学習していた。


でもって、割らせるには俺にも相当の体力と気力を要する事も。


こいつが話さないと決めたなら、そう下手な事ではないともわかっていても、やっぱり何か複雑な気もする。


「あ、私職員室寄ってく。授業休むって行ってこないと。先行ってて」


「大丈夫か?」


「ノープロブレムよ、ハニー」


 ちゅっと音を立てて頬にキスを残し、鼻歌交じりで廊下を歩いて行く悠を見送った。


怪我さえ除けば中身は普通だから、余計にわからん。


「おーおー、もう冬間近だってのに暑い暑い」


「あれ、相庭、足怪我してないか?」


 オッサンめいた台詞の鈴木はスルーで、俺は目を細めた明石を振り返る。


ややゆっくりなだけで歩き方が変わっている訳じゃない、だから靴下から少し見えた包帯が目に入ったんだろう。


相変わらず目敏い奴だな、人の女の足までチェックすんな。


「え、相庭でも怪我すんのか」


「ああ、このところお前が微妙な顔してるのってやっぱ相庭の怪我が原因か」


 ……本当に明石は何者なんだよ。


「怪我が増えてる。けど原因を話そうとしないんだ」


 教室までの道すがら俺が認めて話すと、明石はドラマの探偵よろしく顎を一撫でした。


「もしかして、今頃再発してんじゃないか?伝説の10・12事件が」


 不本意だが、悠と付き合い始めて少し経ってからの事、あいつが先輩達に呼び出された事がある。


明石曰く「隠れ笹原勝利ファン(過激派)」の連中の犯行だったが、その時は俺が直接出て行って、それ以降はすっかりなりを潜めたはずだ。


しかしあの時もちょこちょこと嫌がらせのような事は受けていたらしく、そしてやっぱり悠はその事を俺に話そうともしなかった。


あの時はどうだっただろう、と思い返してみる。


確かに今ほどじゃないが、幾つかの傷は作っていた。


けどそれは嫌がらせに引っ掛かったんじゃなく、近くにいたクラスメイトを庇った時にやってしまったらしい。


そう、そこがまた今回の引っ掛かるところだ。


反射神経はレベル鬼並みのあいつが、例えばまた嫌がらせでもされているとして、あんな風に無数の傷を作る訳がない。


大体あの時も普段人の目に触れるような場所に傷は作らなかった、俺だから見つけられたようなもんで。


ただあの時でさえ凹むどころか、意気揚々と過激派相手にファイトする気満々だったしなあ。


「あ」


「ひいっ」


 階段を上がるところで、例の先輩の一人と目が合う。


一瞬で顔を真っ青にさせて階段を駆け上がって行く様を見て、明石や鈴木同様「なさそうだ」と無言で悟った。


何でも、ああいう事は止めろと引導を叩き付けた俺の顔がとてつもなく恐ろしかったらしく、あれに関わっていた奴らは大体今でもあんな反応だ。


むしろ大抵の奴はあれが普通で、悠がイレギュラーな訳だが。


「んじゃ、一年とか?」


「ないだろ。一年の間のこいつの通り名、鬼人だし。大体それを言うなら相庭を慕ってる奴が笹原を闇討ちする方が可能性高いな」


 また人に勝手な渾名作りやがって。


しかし後半は割りとシャレになってない、何だか知らんが一部の一年女子の間で悠の事を「お姉様」呼ばわりする連中がいる。


むしろ過激派なんて呼ばれる連中は人の目につきやすいから有り難いくらいだ、ひっそりと隠れているような奴らの方が何をしでかすかわかったもんじゃない。


「やっぱ相庭本人から聞くしかないんじゃないか?」


「それしかねえか」


 どうしたもんかな、と考えている間にあっという間に放課後で、家でやる事があるからと一人で帰ってしまった悠の後姿を見送る羽目になった。


「なんじゃ、もうフラレおったんか!なっさけない、それでも我が孫か!」


「うるせえジジイ!気配絶って近付いてんじゃねえよっ」


 とはいえ、断固として否定も出来ない。


別に悠を疑っている訳じゃないが、こういう時心底自分が情けなくなる。


俺は自分が頭で認識しているよりずっと、悠の事が好きなんだと思う。


今日はバイトのない俺と一緒に過ごせなくて残念だと、今生の別れよろしく後ろ髪引かれながら帰って行くあいつを見ても、一人置いて行かれた気がしてならない。


今まで数少ない友人と呼べる相手にでさえ、会える時に会えればそれでよかったはずなのに。


もう、会える時会うだけじゃ、全然足りない。


「しっかりせんか。悠ちゃんを逃したらお前、後も先もないぞ」


「うるせえっつってんだよ」


 そんな事わかってる。


「玄関先で何やってんだよ、二人して。ご近所に迷わ……もうご近所も慣れてるわな」


 呆れた顔で立っていた剣矢に、俺は悪態をつきながら家に入った。


居間の畳に腰を下ろし、鞄から取り出した携帯をじっと眺める。


もしあいつが本当に窮地にでも立っているような状況なら俺に一言もないはずがない。


自分の事は俺にも関わる事だと悠もわかっているはずだ。


だとすれば、何か問題が起きているにしても、あいつ自身が自分で解決出来ると確信しているからか、それとも俺には話せない理由が存在しているかのどちらかだ。


考えてはみたものの、例の件もあるし可能性としては後者だろう。


俺には話せない事……それを思うとまた何か置いて行かれたような気分になる。


「何憂いってんだよ、似合わねえなあ兄貴。その顔でウツってるとマジで犯罪者顔だぞ」


「うるせえよ」


 どいつもこいつもうちの連中は。


「バイトねえのに一人とか珍しいじゃん。あれあれぇ?倦怠期ですかあ?」


「今すぐ口閉じねえとシメんぞ」


 アイスを口一杯に頬張り両手を上げた剣矢にまた溜息が出て来た。


どうしたって、自分でも似合わないのは痛感してる。


けどあいつに関わる事は、「今までの俺」なんてあってないようなもんだ。


誰しもどんなに親しい相手にだって言えないような事はあって当たり前のはずなのに、俺はそれをわかったつもりになってるだけで受け入れようとしてない。


とんだエゴイストだ、あいつの何もかもを知りたいなんて。


「受験勉強でもしてろ、受験生」


「悠さんに教えて貰いたいなー手取り足取りイロイロ」


「俺が、勉強を、教えてやる」


「やだよ。十問中九問は頭ひっ叩くとかどこのスパルタ塾だよ」


「十問中九問は間違える奴が何ぬかす」


 大体悠が教えるとなると本意気で完全に付きっ切りだ、そんな事させられるか。


「あんま独占欲が強いと逃げられちゃうぜー?俺のクラスの女子も彼氏が友達と遊びに行くのも許してくれなくてうざーいとか言ってたし」


「……俺は、別に」


「でもさあ、悠さんはそういうのわかってくれてんじゃん?つか見てるこっちが引くくらい勝利兄ちゃんの事好きだろ」


 持っていた鞄から教科書だのを取り出してテーブルに広げながら、剣矢は肩を竦めた。


「実際弟の俺でも兄貴は難しいと思うよ、まず何考えてんだかわかんねえし割と自分の中に閉じ篭りがちだしこうと決めると周りの事は一切目に入んねえし」


 ぐうの音も出ないって言うのはこういう時に使うのか。


見た目からそんな風には見えないらしいが、流石にこんな弟でも家族には隠し切れない。


ノートに書き出した数式を早速間違えながら、剣矢は呆れたように溜息を吐いた。


「けど悠さんはそういうとこも好きだって言ってくれてるわけだろ。俺にはわかんねえけど。兄貴が何考えてるかわかろうとしてくれて閉じ篭っても引き摺り出してくれたんだろ。俺にはわかんねえけど」


 だからさ、と剣矢はがしがしと頭を掻いて言う。


「そんだけ全力でぶつかってくれる人に全力で返さなかったらそれこそ失礼ってもんだろうが」


 悠が話したがっていないのは明白だ、それを俺が無理矢理暴いていい事なのか。


もしかしたら悠は折れて話してくれるかもしれない、俺はただそれで満足なのか。


けど俺は伝え切れていなかったかもしれない。


心配しているのはわかってもらってると高を括って、だから言い出して来ないあいつに何かしらの責任転嫁をしていないとは言い切れなかった。


話せないならそれでもいい、けど傷が増えていくのをただ見守るしか出来ないのは限界だ。


「サンキュ、剣矢」


「いやいや。悠さんち行くならイロイロ勉強教えてっつっといて」


「断る」


「それはそれかい!」


 当然だ。







 家を飛び出し相庭家へと全力疾走している途中、角から出て来た自転車に慌てて足でブレーキをかける。


「あっぶねえな!……って、お前か」


「親父さん」


 何故かひらがなで「べんつ」と書かれたプレートぶら下げてあるママチャリに乗ってるのはこの際丸々スルーだ。


「それじゃ」


「うわ、待て!……もしかしなくてもお前、ウチ来る?イクイクゥ!てな状態?」


「……まあ」


 悠の親父さんは何を思ったのか、チャリに乗ったままぶんぶんと両手を振った。


「あー、いや、うちの悠たんは留守だぞ?」


「家で用事あるって言ってましたけど」


「あーあーえー、あれだ、客が来てるんだ、うん、だからお前の相手してらんねえんだ、うん」


 一人で深く頷いているその様子に確信する。


「あいつの最近の怪我の原因、知ってるんですね?」


「イヤシラナイヨー。ちょっと何言ってるかわかんないです」


 嘘つけ。


しかし親父さんが知ってるとなると、十中八九、怪我の原因は家にあるな。


親父さんとはよく格闘してるが、どっちも非凡な技の持ち主だし、悠はともかく親父さんが悠にあんな怪我させるとは思えない。


「親父さん、ベンツのタイヤパンクしそうですよ」


「え、マジで?――ってお前、ちょ、待てよ!」


 振り切って走り出した俺に親父さんが猛烈な勢いで追いかけて来る。


チャリの速度じゃねえだろ!


けど回り込もうとするそれを跳び箱の要領でかわし、鍵の掛かっていない相庭家のドアに二人揃って雪崩れ込む。


リビングにいた悠が肩で息をする俺達に仰天した。


「なんだあ!?勝利はともかく、お前はどっから沸いて出た!」


「チャリで来た!」


 ベンツじゃねえのかよ!


「悠たん逃げろ!こいつぁ全てを暴きに来やがった!」


「……あー、わかったわかった。チャリで町内もう二三百周して来い」


 親父さんの首根っこを掴んで外へ放り出すと、悠は俺に動じもせず「お茶でも飲む?」と聞いた。


ここに来るのが丸わかりだったかと思うと少し気恥ずかしくなる。


俺が首を振れば、悠は俺を促してソファに座った。


その隣に腰を下ろすと、ごめんねと頭が下げられる。


悠の頬に手を添えて顔を持ち上げ、俺はもう一度首を振った。


「お前が言いたくなければ言わなくていい。ただ心配だから、邪魔にならなければここにいさせてくれ」


 悠は暫く俺を見上げていたかと思うと突然俺の首に飛び付いて来て、満面の笑顔のまま俺に深く口付けた。


……意味が全くわからない。


けど全力でぶつかられたからには全力で返す――そういうもんだよな。


「んむっ」


 悠の腰を引き寄せて一層深く唇を重ねる。


そういえばこういうキスも三日ぶりな気がした。


このところは何かと気が散っていると言うか、特に放課後になるとそわそわし出して一目散に家に帰ってたからな。


久しぶりだと体さえも感じたのか、悠の感触と匂いに急速に満足感を覚えていく。


何やってんだ俺、真面目に飢え過ぎ。


三日ぶりの感触を散々堪能してから唇を離せば、悠は俺を見上げたまま眉尻を下げた。


「ごめんね、心配かけて。どぉーしても一人でやりたくて」


「謝んなくていいんだって。お前がやりたい事なら、俺も止めさせたりしない。でも頼むから、一人で置いておかないでくれ」


「うん。わかってくれてありがとう」


 神妙な顔で頷いた悠は、でもねと言って笑う。


「終わるには終わったんだ、一応。正直納得はしてないんだけどさ」


 何がと聞く前に、テーブルの下から取り出した紙袋を突き出される。


促されるままそれを受け取り中を覗くと、グレーの何かが入っていた。


訝しげに思いながらもそれを取り出して思わず絶句する、俺の記憶が正しければこれはあり得ない代物のはずだ。


裁縫の類は一切苦手だと言っていた悠に目を向ければ恥しそうに頭を掻いた。


「やー、あんまり上手くは出来なかったんだけどさ。でも去年の完全なる失敗作よりはマシになったし、まだちょっと失敗もあるけどそのくらいなら目立たないかなーなんて」


 俺が絶句したままでいると、悠は益々顔を赤くする。


「明日香さんにスパルタ教育されたんだけど今はこれが精一杯的な!いやホントはもっと時間かけて作りたかったんだけどそうしてる内にいっそ季節外れになりそうだし私も勝利と一緒にいられなくて超限界って言うかね!で、この三日でラストスパートかけた」


「ありがとう」


「あ、うん」


「嬉しい」


「喜んでくれてよかった」


 強く抱き締めると、ほっとしたように息を吐いて悠も体を預けてくる。


言葉が出て来なくて酷くもどかしい。


頭ではもっと違う言葉を考えてる、心でももっと違う事を感じているはずなのに、どうしても新しい言葉が生み出せない。


今口にした言葉でさえ、誰かが口にした最初は酷く不恰好に聞こえただろう。


それでもいいから、もっと違う言葉が欲しいのに。


「あー考えない考えない。わかるよ」


「ついに読心術まで会得かよ」


「勝利は案外わかりやすいもん。それにこうすれば、ちゃんと通じるもんだって」


 お互いの胸を重ねるようにして抱き締められる。


まだそんなに厚着をする季節じゃなくてよかったと、何か場違いな事を思った。


微かに俺の胸を叩く、柔らかい胸の向こうから感じる鼓動が、確かに何かを伝えてくる。


いつも俺に考え付かない事をやらかすこいつが、たまに悔しい。


「よっしゃー、サプライズ成功だー」


「去年失敗したって?」


「そこ突っ込むか。いや、冬に向けて手編みのマフラーの一つや二つや三つや四つと考えてたんだけど、まーどうにもこうにもならんかったんです。針使わないでも誰でも簡単に出来ますとかなんつー出来る出来る詐欺。神崎事務所に法律相談してこよっかな」


 思い返してみれば、去年の秋辺りは何かいつにも増して挙動不審だった事を思い出す。


それからバレンタインだったかの時にも、もう一つプレゼントがあったのに出来なかったとか何とか言っていたような。


これでもかという渾身のケーキを貰ったから俺としては気にもしていなかったが。


「それでその怪我か?編み物で怪我とか聞いた事ないぞ」


「結局針使ったの。あまりにも心も力も込めた所為か、こう、ぶさっと、ぐっさぁっと。昨日は端踏んづけて滑って転ぶしさ」


「ありがとう……」


「なんのなんの」


 もう駄目だ、本当に言葉が見つからない、あらゆる意味で。


そっと近付いて唇を啄ばめば、ふふと微笑む吐息が俺の唇に触れる。


「今度は長期戦で頑張るよ。ビックリ重視だったけど、一緒にいる時間が減るんじゃ本末転倒だし」


「そうしてくれ。俺の隣でやればいい」


「そうする。という訳で、これから三日分を濃密に取り戻そうぜ!」


 俺は異論もなく悠を抱き上げた。


「お返ししないとな」


「おお?意味深発言キター。ホホホ、存分に喜びを体で表現してくれて結構よ」


「上等。っと、親父さん帰って来るか?」


「来ない来ない。そういう勘だけは働いて音速で逃げるから」


 階段を上がりつつ、俺はなんとも複雑な気分になった。


ベッドに降ろされた悠が不思議そうにそんな俺を見上げる。


「や、俺もいつかそういう気分を味わうのかなって」


「ああ、どうだろうねえ。やっぱ男親は娘となると複雑なもんかな。なんか神崎さんもそんな事言ってたような」


 もう完全にあの人がこいつの親だろそれ。


溜息をつきつつ、自分の服のボタンに掛けていた悠の手を制して、俺が一つずつ外していく。


「確かに娘は複雑極まりないだろうな。うちの親父でさえたまに娘が欲しかったってこぼすんだ」


 故に俺の両親が悠と顔を合わせる時は、下にも置かない持て成しっぷりになっている。


何せ期待も出来んと三兄弟揃って諦めていた中での嫁候補、しかも憧れの格闘家の娘ときたら、あれだけ仕事仕事してた人間がそわそわと早々に家に帰って来もするかもな。


実際逃げられでもしたら、俺だけでなく両親とジジイまでセットで追いかけそうだ。


まあ、逃がさないけど。


「娘を甘やかしたくなったら私を甘やかせばいいじゃない!」


 にこにこと、胸丸出しで言うこいつはまだ本当はわかってない。


俺がその言葉をどれだけ本気にして言質を取るつもりでいるかって事。


聡いんだか鈍いんだかわからない弟にそれが知られればドン引きどころじゃ済まない事。


それくらい、俺はもう本気で走り始めてしまってる。


でも。


「かれこれ二週間ぶりくらいか?」


「そのくらいだっけねえ。やっべ、恥らうタイミング逃した」


「そんなもんはいいから」


 全力でぶつかれば、全力が返って来るんだよな?


「あれ、勝利さんたら溜まってらっしゃった?目がマジ――」


「目どころじゃない」


 それこそぶつかるようにベッドへと押し倒せば、受け止めるように抱き締められる。


俺の服のボタンも外され、肌蹴た胸にぐりぐりと顔を押し付けられた。


「あー、もう最低週一これがないとダメだ。慣れって恐ろしいねえ!」


「本当にな」


 思えば俺もこの三日間で限界も限界だったらしい、お返しにとばかりに胸元へ頬を擦り付けてやればひゃははと笑いが返ってきた。


くすぐったいのかと思って顔をずらそうとしたら同時に悠も動いた所為で柔らかい胸の先端が唇に擦れる。


自分でも驚いたんだろうが、こっちも驚くくらい甘ったるい声が上がって、つい二人で顔を見合わせた。


「こういうのって女もお互い様だったのか……初めて知った」


「女の方が欲求不満になりやすいってどこかで見たな。まあ、そうなったら言ってくれ」


 協力は勿論惜しまない。


「ん。でも勝利ってさあ、欲求薄くなるの遅そう。女は子供産むと早いって言うけどどうかな、個人差かな」


「なんか今確信した。きっと俺に娘が出来ても過保護にはならない」


「うっそくさー。今ですらその気あるもんねー」


「そりゃお前だからだ」


「うっ、今のきゅんと来ましたぞ!てな訳でいざ尋常に続きをば!」


 それも勿論異論はない。


この期に及んで溌剌とした声を発する口を食べる事から始める事にする。






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