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番外編4 きょうだいのこと

※本編後。「笹原長兄視点」リク。とオマケ。




「あーつまんね。あー世の中不公平。あーやってらんねー」


 休日に家にいてそんな事を繰り返していれば、確かにさぞややってられないだろうと思う。


ただ気持ちはわらないでもなく、末弟に対して少し苦笑が零れた。


すると爺さんがいないのをいい事にソファの背凭れに足を乗っけて引っ繰り返っていた弟はじっとこっちを睨む。


「笑うとかヨユーこいてんなよな。その歳にもなって休日に家で一人とか、むしろ笑われるレベルだろ」


「俺は二週間ぶりのマトモな休日なんだ。学生のお前とそれこそ一緒にするな」


「あーあもう、こんな枯れたアニキと休日とか、やってらんねー」


 じゃあ出て行けよと言い掛けて、ふといつもならとっくに外に出て行っているだろう放蕩弟を見やる。


「なんだ、今日は出掛けないのか」


 兄達にも似ず、一人顔だけは人受けするこいつだ。


外でいつ見かけても数人の女の子に囲まれているのが常の弟が、そもそも家の中で腐っている事も珍しい。


「だーってさあ、兄ちゃんは虚しく思わない訳?」


 一体何を言っているのかと思う。


最近仕事がハードで疲れてはいるが、元々あまり趣味を持たない俺は仕事をしている方が有益だ。


仕事人間と呆れられる事も多い、それでも毎日は充実していると自負している。


大体稽古もそこそこ、特定の彼女も作らず遊び歩いているこの弟に言われたくはない。


そしてふともう一人の弟の事を思い出し、なんとなく何が言いたいのかを察した。


つまりは、拗ねている訳か。


「ずりーよなあ、勝利兄ちゃんは。昔っから枯れ切ってるとか思えば突然彼女とラブラブで潤いまくりの溢れ出しまくり。背中のチャックから別人入ってんじゃねえの」


「あいつは昔から極端だからな。やるにしても、やらないにしても」


 うっかり昔の事が思い出されて、俺も少し苦い思いをする。


俺もまだガキで爺さんには何も言えなかったとはいえ、あの頃の勝利を思い出すとどうしても複雑な気持ちになった。


どんどんと目が虚ろになっていく弟に、なんと声を掛けていいかもわからなかった。


いつ頃からだったか、本当にまた人が変わったように稽古に打ち込み始めて、それでも見ていた俺はどこか不安が拭えなかった気がする。


あいつの中の何かが振り切れて、そのまま飛んで行くんじゃないかとさえ思えた。


「大体兄ちゃん達はやれば出来るからいいよ」


「お前はやれてもやらないだけだろ」


「あーあ俺もカノジョ欲しー」


「くっ付いて歩いてたのが山程いただろう」


「ああいうんじゃなくてさあ、悠さんみたいなのだよ」


 今まではそんな事も言いもしなかったくせに、勝利が彼女を連れて来て以来こうだ。


それも気持ちはわからないでもない。


見た目にも可愛いし、料理も上手い、勝利の事が好きで仕方がないという態度、そして何より彼女はTENCHIの一人娘だ。


先に出会っていれば俺だって、と思わずにいられたらむしろ嘘だろう。


「どっこで捕まえて来たんだか。むしろ悠さんはあれのどこがいいんだよ!無愛想だし爺ちゃん似で鬼だし」


「まあ彼女の前では違うようだけどな」


 思うに、あいつは無自覚にしろ最初から彼女を気に入っていたんだとは思う。


そうでなければ女の子を家に上げるなんて、天変地異でも起きる方がよっぽど確率が高い。


そういう意味で勝利と剣矢はよく似ている。


こいつもなんだかんだと言いつつ、特定の彼女を作らないでいるのは同じような理由だろう。


「マジで別人つか宇宙人だし。この間なんかさあ、減るから悠さん見るなとか言うの。どこの暴君だよ」


「お前、あいつが気に入ってた物、一度でも触った事あるか?」


 剣矢は思い出したのか、苦い顔で首を振った。


こいつが小学に上がった頃だったか、勝手にあいつの竹刀を使おうとした瞬間、物凄い勢いで張り飛ばされたんだよな。


だというのに翌週には同じ事を繰り返したこいつもこいつだ。


「そういえばそうだった。気持ち悪いくらい大事にするよな」


 あいつの為に多少反論してやりたかったが、否定する言葉も見つからず苦笑だけが零れる。


「いい彼女を見つけたよ、あいつは。あの子、そういう事で動じそうにないだろ。流石TENCHIの娘さんだよな」


 実は対面した時でもかなり半信半疑ではあった。


幾ら謎が多い人とはいえ、結婚していたどころか子供までいたとは思わなかったし、うちの爺さんの教え子だったとも寝耳に水だ。


恐らく彼女はすっかり母親の方に似たんだろう。


ただいつぞや道場の扉が壊された時の事件については、聞き及ぶ限りやはり彼女は父親似だったんだなと心底思った。


ああ、出来れば俺がその現場にいたかった。


あれから何度か勝利に頼んでも、やはりあいつは丸きり彼女を独り占めして放そうとしない。


「ああクソ、ちょっと手合わせするくらいいいだろうに!」


「……出たよ、剣道馬鹿」


「そうは言うがな、あのTENCHIを黙らせるくらいの彼女の技、見てみたいと思わないか?」


「まあ、そりゃあなー。つか、兄ちゃんもそんな事ばっか言ってっからカノジョ出来ないんだろ。トミさん、今度は兄ちゃんにカノジョが出来ないって泣くなこりゃ」


 手を伸ばして額を掴み、ぐっと押してやったら剣矢の喉がぐうぇと奇妙な音を立てた。


最近まさにトミさんの視線が気になるようになっていただけに、腹の立つ。


「兄ちゃんも勝利兄ちゃんと同じで、そういうのがいいってマニアがいない訳でもねえんだけどな。違う意味で隙がねえんだよ、兄ちゃん」


「勝利みたいに女性嫌いとでも言いたいのか」


「んにゃ。だって頭いいし、イイトコ勤めだし、モテ条件は揃ってんだよ」


 だったら何がいけないんだ。


さっきも言ったが俺は女性を毛嫌いしている訳でも、勝利のように自ら遠ざけている訳でもない。


大体俺が仕事人間になったきっかけも、元を辿れば今までの彼女達に散々フラレてきた所為だ。


「たださあ、女って自分がしなきゃって使命感に燃えるらしいんだよ。だから何でも一人で完璧にやっちゃう兄ちゃんみたいのはダメな訳」


 実弟の言葉だからか何なのか、脳天にぐっさりと突き刺さった。


事実、今まで貰った別れ際のセリフは「貴方は私がいなくてもいいのよ」だ。


一語違わず同じなものだから、密かにそうしたマニュアルでもあるのかと訝しんだくらいで。


弟にまで言われるとは、俺は相当そういう人間らしい。


「だから一人じゃ何も出来なそうなお前には群がる訳だな」


「うっせ。その点ホント勝利兄ちゃんはいい人捕まえたよ。あの人そういう事考えそうにないじゃん」


 だろうなと他人事ながら思う。


恋愛は理屈じゃないとはよく聞くが、本当にあの子は真っ直ぐ過ぎて多分そんな事を考える隙もなさそうだ。


そしてやはり、だから勝利には似合っている。


「おーい、勝手に上がったよー」


 そんな声が降って来て、剣矢と共に顔を上げれば、近所の馴染みの顔があった。


「二人して何してんの、この休日に」


「あかり姉ちゃん、この際俺女子大生でもいい。誰か紹介して」


「やだ、目ぇ開けたまま寝言言ってるわこの子」


 ころころと笑ったあかりは勝手知ったるなんとかで、台所から三人分の冷たいお茶を出してくる。


昔からこの調子で、俺にはこいつがあまり年下だという感じはしない。


「頼むよー。アニキ達なんかアテになんねえし」


「あんたねえ、悠ちゃんみたいな子とか女子大生とか言う前に、受験の準備でもしたらどう?」


「あーあーあー聞こえなーい」


「それがダメだっての」


 呆れたように首を振ったあかりは、お裾分けを冷蔵庫に入れておいたからねと言う。


「まあ剣矢はこれからまだ時間はあるとして、問題は広大でしょ。私この間トミさんに相談されちゃったよ」


「スルーしておいてくれ」


「このままじゃ勝利に先越されるんじゃない?」


「余計なお世話だ」


 幼馴染みというものは全く、時に実に厄介だ。


こっちが図星なのもすっかり手に取るようにわかられているというのは、何かむず痒い思いがする。


「そういうお前は就職先決まったのか?」


「当然。手堅くやっとかないとね、このご時世」


 全くこの要領のよさは見習いたい、真似出来るとも思わないが。


「とにかく、早い内に広大は目星つけておいた方がいいよ。近い内に勝利はここ出てくんだしさ」


「なんだそれ、初耳!どゆこと!?」


 きょとんとしたあかりは、茶を啜って言った。


「え、だって本人がそう言ってたよ。悠ちゃんは一人娘だし、そういう事なんだろうなって納得してたんだけど私」


「はああ!?て、事は、つまり?」


「もうそんな事まで視野に入れてるのかあいつは」


 我が弟ながら、少々ぞっとする。


確かにTENCHIの様子を見るからするに、そういう事に向こうも拘りはなさそうな上、うちの両親などは熨斗付けて息子を送り出すだろうが。


でもまだ十六だぞ?普通そういう事を考えて夢見るのは女の子の方じゃないのか?


いや彼女の方から言い出したって事もある、そうすれば勝利にそれを拒否出来る訳もない。


一度気に入って手に入れたら壊れても直して使う、それがあいつの性格だ。


「悠ちゃんは知らないとは思うけどね。勝利、そういう事は不言実行だし」


「うわあ、今俺マジ引いた」


 そういえばTENCHIは未だ世界のあちこちを飛び回っていると聞いたし、それを理由にあいつが考えてもおかしくはないかもしれない。


……だが流石に俺もそれはどうかと思うぞ!


「淡々と今外堀埋めようと思ってんじゃないかなあ」


 もうそれが正解としか思えなくて何も言えん。


「多分直爺ちゃんは道場を勝利に持たせたがるだろうけど、この家を継ぐのはやっぱり広大になるんだし」


「あかり姉ちゃん、その俺は選択肢にも含まれません的な華麗なスルー止めて頂けますかね?」


 うちでは特に長男がという決まり事はないが、確かに勝利の事を現実に考えればそうなるだろう。


俺の予定としては勝利がこの家も道場も継ぐはずだった。


なんだかんだで自分に似て一番才能がある勝利を爺さんが一番可愛がっているのは事実だ、方法はともかく。


勝利もそれに特に反対する事もないだろうと思われた。


どちらか言えばあいつは独身を通す可能性の方が高かったし、それに嫁さんが出来たとしてその人に付いて他の家に入るなんて事はしそうになかった――今までは。


「待て、それじゃ俺の予定が狂う」


 だから俺は家の事は心配せず、ゆっくり嫁さんを探そうと思っていたんだ。


勝利が道場だけを持つとなると、俺が独身のまま家を持つ訳には行かなくなる。


特にこの辺の爺さん方はそういう事にはまだ煩いんだ。


「わあ広大、顔が緑色」


「あかり」


「何?」


「――俺と結婚して欲しい」


 そうだ、考えてみれば身近で一番俺が好意を持っている異性と言えば彼女だ。


昔馴染みの気安さもある上、あかりも昔からうちの道場に通っているから、その辺の事もよく知っている。


歳もそう離れている訳でもない、またとない好物件じゃないか。


「だが断る」


「なんでだ!」


「なんでだ、じゃない。私から面も取れない奴と結婚したくない」


「あかり姉ちゃん、むしろそこじゃねえよ……」


 手合わせした回数こそ少ないとはいえ、ご老人方の余興の一つとして一年前に試合をした時すら負けたのは確かだ。


俺が面一本でしか決まらないハンディはあったが、勝てなかった事実は揺るぎない。


「だったら再戦願う」


「面倒臭いよ。これから就職のあれこれで忙しいし」


「俺の人生の一大事を面倒臭いで片付けるなっ」


「こっちだって就職かかってるよっ」


「大丈夫だ、お前一人くらい余裕で養える!」


「養われる為に結婚するなら養殖所にでも行った方がマシ!」


「ああもう、お前は昔からそうだ!ああ言えばこう言う!」


「それはそっちでしょ、この木偶の堅物!」


「その減らず口、きけないようにしてやる。道場へ出ろ」


「受けて立とうじゃない、その鼻っぱしまたへし折ってやる」


 いつの間にか立ち上がっていた俺達は競うように道場へと駆け出した。









「はあ、それで?」


「まあ結局また兄ちゃんの負けでさあ」


「へえ、あかりさんてそんな強いの」


「もう死んじゃってるけど、あかり姉ちゃんの爺ちゃんがうちの爺ちゃんと超ライバル関係だったんだよ。んで、あかり姉ちゃんも相当仕込まれてたらしい」


「ははあ、因縁は孫の代に受け継がれたと」


「それで兄貴達どうしたんだ?」


「や、一本取るまで諦めないっつって、兄ちゃんが姉ちゃん追い掛け回してる」


「仲良く喧嘩する猫と鼠みたいな話だねえ」


 そう言って笑った悠さんが持って来てくれた手作りケーキを頬張って、そんな生易しいもんじゃないよと思う。


あの人達昔からああなんだよなあ、似た者っつーか剣道馬鹿っつーか。


確かにその点は孫の代まで受け継がれてるわ、呪いかこりゃ。


俺にはそんな血ぃ入ってないみたいでよかったー、兄ちゃん達はいいなと思うけど実際なりたい訳じゃない。


「しかしまたなんで突然結婚なんて流れになったの。元々広大さんがこの家継ぐんじゃなかったの?」


「あー、まあ、なんとなく今頃自覚したんじゃね?」


 悠さんの隣から無言の圧力が突き刺さりまくって堪らん。


喋りません喋りません、アニキが恐ろしいほど綿密に将来計画練ってる事は将来の義姉には喋りませんとも。


だから睨むの止めろって!実兄って事実を全力でスルーしたいくらいこえーよ!


そんな中でも悠さんをフツーに後ろから抱っこしてる状況もいっそこえーよ!


「でもあかりさんが広大さんと結婚するなら気心も知れてるだろうし、色々スムーズだね」


 いやいやいやいや、むしろそこに行き着くまでが全然スムーズじゃないって。


多分知られてるだけに兄ちゃんにとっては一番やり辛い人なんだ。


手近で済まそうとすると大きな落とし穴って訳か、怖い怖い。


「悠さん、俺にも誰か紹介して」


「あ、最近カレシと別れた子がいるよ。カレシの方が海外に引っ越す事になっちゃったらしくてねえ。んで新しいの探してるって言ってたよ」


「おっ、丁度イイ感じ。彼女どんなタイプ?」


「うん、超ドS通り越してたまに鬼」


「ワー、丁度イクナイ感じ」


 思わず両手上げて降参。


「それって東山だろ」


「正解」


「じゃあ剣矢に丁度じゃないか」


「私も剣矢君には引っ張ってくれる子の方が合ってると思うんだよね」


 いやいやいやいやいやいやいやいや!引っ張ってくれるどころか引き摺り回される予感しかしねえだろそれ!


「俺は可愛いカノジョが欲しいの!」


「……」


「そんな、そんな事言ってる内はもう絶対出来そうにない予感するきっとある意味こういうのが一番モテないタイプなんだよなあみたいな目で見ないで!ちょっとは自覚してる!」


「…………」


「そんな、ちょっともしてないだろみたいな目で見ないで!多分してる!」


「剣矢君、うん、まあ、ガンバレ」


「うわああああああマジ同情カンベン!」


 うう、別に夢くらい見たっていいだろ、悪い事してる訳じゃあるまいしっ。


俺に言わせりゃ高校生ですでに結婚計画練ってるとか、手近だからって幼馴染みに突然結婚迫ってる方がどうかしてるっつーの。


俺の方が非常識みたいに言うな!むしろこの兄達の中で一番マシだろ!?


「いいよもう、俺は俺なりに女友達とかの中からカノジョ探すからっ」


 タイミングよく鳴った携帯に飛び付く。


今メール寄越した奴に惚れちゃいそうだ俺、心折れそう誰か慰めて。


「…………」


「友達?」


「ん、……」


 がつがつと押して開いたメールに並ぶ文字に、俺はぱったりとその場に倒れ込んだ。


手から転がった携帯を勝利兄ちゃんが取り上げて、それを悠さんと並んで眺める。


イチャイチャしてんじゃねえや、コンチクショー。


「うわあ……。カレシ出来たよー、これからも相談乗ってネ。ミーコ」


「……悠さん、メール読み上げるのヤメテ……」


 俺のライフポイントはもうゼロよ!やめたげて!剣矢君可哀想だから、超可哀想だから!


「剣矢君、元気出しなよー」


「ほっとけ、悠。上行くぞ」


「はーい」


 …………どいつもこいつもイチャイチャしやがってコンチクショー!!





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