15.女の友情も大事に!
一つ特大の溜息を吐き出した後、ゴンと音がするくらいのチョップを額にお見舞いされた。
「で、さあ。どういう事な訳?」
アキちゃんが親指で指した窓の向こうには、校庭を真っ直ぐ歩いて行く笹原君――と、校門に佇んでいる、あの女の子。
無駄に視力がいいのが仇になってる、くっきりはっきりばっちり見えますよ。
私の視力はとうの昔からデジタル化してますからね。
「どういう事かと聞かれても、答えられない世知辛さ」
「あのねえ、夏休みに浮かれポンチなメール送って来たと思えば、新学期になってこのザマたあどういう了見だっつってんだよ、あぁ?」
「すんません姐さん。この相庭悠にも実のところ何がなにやらさっぱりっす」
キャンプ帰りのあれ以来、笹原君への誘いの返答はすべてNO。
待ちに待ちまくった新学期、笹原君は部活がない日はあの子とああして一緒に帰ってる。
鈴木君も明石君も話は聞かせてもらってないらしくて、私を見る度になんか申し訳なさそうな顔をするのがまた申し訳ない。
「皆はカノジョじゃないかって言ってるけど。今更笹原君に直接確かめる勇者もいないみたい。ねえ悠、笹原君に聞いてみたら?」
「頼子さん、それが実はなんでか取り付く島もなく」
この数日間聞こう聞こうとは試みたものの、笹原君自身が話したがっていないのが丸わかりで正直それ以上踏み込めない。
と言うより力技で話を全力で逸らされ捻じ曲げられ抱え上げられた上の投げっ放しジャーマン。
だからもう聞けなくもなってしまった、そこまでされたら流石に黙るしかないって。
「いやでも、カノジョが出来たんならそれこそあいつが隠すかって話だけど。んな可愛げのある奴に見えないしねえ。絶対むっつりよ、あれは」
「笹原君は可愛いよ……むっつりでも可愛いよ……」
「悠、言葉に覇気がないよ。ああ~、こんなのいつもの悠じゃないっ。元気出してよ、クラスの皆だって心配してるよ」
ありがとう、頼子。
「そうよ、あんたが何かのウィルスに感染したんじゃないかって戦々恐々よ」
……アリガトウ、女王様。
「うん、でも明菜の言う事一理あるよ。悠は笹原君と凄く仲良くなってたじゃない、だからこそカノジョが出来たなら言ってくれると思うし」
あー、そのカノジョって連呼すんのヤメテ、地味に確実にダメージ受ける。
しかしカノジョじゃなければ尚更なんで話逸らそうとするのか全然わからん。
携帯新しく買ったって聞いて以来時々送るメールとかは今も律儀に返してくれるんだけど、やっぱりそこでも何か話が逸らされてる気がしてならない。
いやカノジョなら、笹原君は照れ屋だし言えずにいるのもわかる気がする。
笹原君を好きだと言ってる私を傷つけまいと言えずにいてくれてるのかもしれないとも思う。
でも、なんか、違和感。
そう、何かわからんけど、猛烈に違和感がする。
それが何かと聞かれても、やっぱり答えは出て来ない訳なんだけど。
「あいばゆううううううううううううううううううううううううっ!!!」
「ぎゃ」
教室のドアをスパーンと勢いよく開けて怒号と共に飛び込んで来た挙句私の胸倉掴んで揺すり続けているのは、笹原君のファンの一人である中川ちゃんだ。
「な、中川ちゃ……」
「説明しろ!今すぐこの状況を説明しやがれ!」
「お、ぐ、ごふぁっ」
「中川ぁ、いい加減放さないと流石のコイツも意識落ちるって」
アキちゃんの言葉と同時に胸倉を解放され、違う意味で机の上に落ちたがな。
しかも物凄い形相でその机もズバンと拳で叩かれたよ。
笹原君を見守り隊は割りと大人しい子が多い中、中川ちゃんは相変わらずバイタリティに溢れまくっている。
まあ説明を求められているのは今校舎から二人並んで出て行こうとしてるあの二人についての事だろうな。
……ふう、見ると胸が超痛いんですけど、つい見てしまうのはどうしてか。
「人が風邪ひいて休んでる間どないなっとんじゃ!なんじゃあの女ぁ!」
「落ち着いて。私もよくわからん」
「あぁん!?」
ちょ、ヤンキーみたいなキレ方になって来てるって。
「いや本気でわからんのよ。力技で話捻じ曲げられて逸らされるし」
「……意味ワカンネ」
中川ちゃんは大きく息をついてどさっと私の席の前に腰を下ろす。
「なんか、昔馴染みっぽい感じらしい。あの女の子の方にちらっと会ったんだけど、自分の事憶えてるかって笹原君に聞いてたし」
「はあ?まさか元カノとか言うんじゃないでしょうね」
それよりももっとアレだったりしてな……。
うん、暫く会ってないんだったら笹原君が言ってた事もわかるような気がするし、あの子が笹原君の好きな人だって可能性がある。
はは、力抜けて来てんの自分、情けなっ。
でも違和感なんだよなあ、いっそそれがわからん。
「あんた、黙って見てるつもり?こんな時こそアホみたいに突撃しなさいよ」
「アホて」
「実際アホみたいじゃん。こっちが笹原の顔色窺って話しかけたらマズイかなあとかやってたのに。あんたアホみたいに突進すんだもん」
「アホて」
中川ちゃんはまたはあと大きく息をついて、ついでに頬杖もついて私を眺める。
実は面と向かってあんまり話した事はない、でもファンの中でもあれこれ率先してやってた中川ちゃんの事は知っててちょっといいなと思ってた。
ファンなんて大層な感じだけど、実際部活やる側は試合中すら騒がれて迷惑って事も多いらしいし、だからその辺ちゃんと線引きしてる中川ちゃんは真面目なんだなと思う。
「私さあ、相庭の事嫌いだったんだよね」
「そらまた唐突な」
「言う機会もなかったし、わざわざ言う事でもないでしょ。なんつーか、まあぶっちゃけると妬みなんだけど」
「そらまたぶっちゃけたな。いや待て、妬まれる要素ZERO~」
こちとら現在避けられ組。
「や、アリでしょ。あの笹原とフッツーに喋ってるし」
いやいやいや、笹原君だってフツーに喋りくらいするだろ、と突っ込む前に中川ちゃんは苦笑する。
あれ、そういえば夏休み前と何か感じ変わったな。
前はもっとこうアキちゃんとはまた違う意味で姐さん!みたいな感じだったけど、今はちょっと記憶にあるよりも柔らかいような気がする。
「そうなんだよね。笹原の迷惑になってるんじゃないかと思ってあんたの事嫌ってたんだけど、実際笹原がそう思ってるかなんてぶっちゃけ考えもしなかったし、私らみたいに『あの笹原』とか考えてる事自体笹原がどう思うかも考えなかった。確かめようともしなかった」
「そりゃ言われなきゃ聞かないとわからんわな」
「はは、だよね。夏休みのちょっと前にさ、あんたの事大っ嫌いだって公言してた女がいた訳」
OH……公言までしたか、胸にそっと秘めずにはおれなかったか。
「そいつの話聞いてたらさあ、なんかこっちイライラしちゃって。傍から聞くとよくわかんのね、こういうの。自分はさ、笹原の迷惑になるのが嫌だからとか口実付けて安全な位置保ったまま、そのくせ不満ばっか撒き散らしてんのよ。あんただって話しかけるのに勇気要ったかもしれないじゃない?嫌われないかとか考えたかもしれないじゃない?」
「そりゃあ、ねえ」
告白した時も友達になりたいと申告した時も、実は膝笑ってましたよ。
いやあれは武者震いってやつだぜ、……変わらんか。
「迷惑かもしれないとか嫌われるかもしれないとか、好意ぶつけるのにだってリスク背負わなきゃなんない。ましてやあんた、フラレてすら引き下がってないし」
諦め悪くて申し訳ねえですだおでぇかん様、年貢はもう少し待ってくんろ。
「それで、そう思ったら、あんたのやってる事って、真似出来ないなと思ったのよ。ついでに、私はリスク覚悟で踏み込んで行くほど笹原の事本気じゃないんだなって事もわかった。友達とか、そういう関係すら築こうとしてなかったんだって」
「え、ちょっと待て、それは早計じゃ?別にホラ、私みたいに猛進するばっかりのが恋って訳じゃないよ!?」
中川ちゃんはわかってると心底呆れた目をしましたとさ。
とっぴんぱらりのぷう。
「や、違う……そうじゃなくて」
「中川、あんた本気を知ったわね?」
にやりとバーのマダム的微笑みで言ったアキちゃんに中川ちゃんが一瞬で真っ赤になった。
な、なんだと!?乙女を大人の女に変貌させたサマーなアヴァンチュールが中川ちゃんの身に!?
そりゃあ雰囲気も変わる訳だなチクショー!
「めでてえな、頼子、酒持って来い!」
「ないよ」
「……ジュースでいいから……」
「あーもう祝わんでいい!」
んもう恥しがっちゃって、可愛いのう中川ちゃんは、ニヤニヤ。
「ニヤニヤすんな!……ともかく!私も色々口実つけて踏み込んで行けない自分を正当化してただけなんだなと思ったのよ!悪い!?別にだからってあんたを好きになったとかじゃないんだから勘違いしないでよね!」
ワオ、リアルツンデレ、拝んでおくか。
「まあこれも勝手なんだけど。そしたら自分から話しかけもしないであんたの事ぐずぐず言ってる奴らが嫌になっちゃってさ。丁度夏休み前に大喧嘩」
「マジで?」
「マジで。でも言いたい事は言ってちょっとスッキリした。相庭が笹原と仲良くしてんのが嫌ならあんた達もぶつかってって話すればいいじゃんって。自分に言い聞かせたとこもあったんだけどってそれも言ったけど」
強ぇ、オラワクワクして……来たような来ないような。
「んでそれが効いたかどうだか、結局笹原追っかけてた奴ら解散て訳」
「えぇー」
それもどうなんだよオイ、それ知ったらまた笹原君が不信に陥るって。
いや安心するかもしれんけども、うーん。
「バッカみたいだよね。さっき言ったあんたの事嫌いだ嫌いだって言ってた奴なんか、夏休み中にカレシ出来て超浮かれて笹原のさの字も出て来ないの」
ワーオ、強過ぎる、むしろある意味勝てる気がしない。
「で、中川ちゃんもD組の大崎君とピンクな世界真っ最中な訳か」
「勝手に捏造すんな!まだあいつとはそういう関係じゃ……っ私の事はどうでもいいのよ!ていうかなんであいつの事知ってる!?」
照れておる照れておる、愛いのう。
中川ちゃんてキチッとしたイメージだったけど、やっぱ恋は女を可愛く見せるわ。
「時々一緒のとこ見かけた。して、彼の方は元々中川ちゃんに好意があると見た。んで、大崎君の恋愛成就の願をかけましてカマもかけてみました」
「……あんたが教師の弱み握ってるらしい訳がわかった気がするわ……」
別に弱みを握ってるんじゃなくて、昔からどうもそういう現場に居合わせるだけなんだよねこれが。
そこれでほら、大抵の人は言う訳ですよ、何でもする頼むから黙っててくれってね。
勿論これでも秘密は厳守してます、先生方の奥様にもなーんも喋っちゃいません。
精々そういう情報をただ集めるのが趣味な例の明石君にちょこっと教えただけで実害はなしですよ。
それもどこの誰がキャバクラ常連だとか、妙な性癖持ちの店に出入りしてるだとか、そんな程度。
まー、世の中恐妻家の多いこと多いこと……それに加えて教師は聖職者ってイメージですからね、一応。
しかしそんな現場に出くわすのが教師相手だけじゃないとなると、これはもう女子高生は見た!みたいな遭遇レベルだ。
別に見たくもないんだけど、なんだってこう……。
「そういう訳だから、なんて言うか、今はあんたの事嫌いでもないって言うか、応援してもいいかなって」
「ここで抱き締めたら怒られるかな、アキちゃんどう思う?」
「そりゃツンデレだからツンツンするわよ」
「本人の前で堂々と相談すんな!」
ぜえぜえと肩で息した中川ちゃんは頼子から受け取ったジュースを真っ赤な顔で一気飲みしている。
あー、大崎君はこういうところにも惚れたんだろうな、ニヤニヤ。
「それが何なのよ、あの女は。あんた、あんなフツーそうな女に取られて悔しくないの?」
取られるったって、笹原君は私のものじゃあないしなあ。
悔しいかと聞かれれば悔しいです!と答えざるを得ないんだけど。
違うんだよなあ、なんかその前にこう魚の骨が喉に引っ掛かって取れないみたいな違和感が。
そっちも気になっちゃってこの数日は実にごちゃごちゃしてる。
大体普通かどうかはこの際関係ない上、その言い方だと私が普通じゃないみたいじゃないか…………普通ですよ平凡な恋する女ですよっ何か問題でも!?
「そりゃ私が口挟む事もないと思うけど、でも、なんか頑張って欲しいんだよね、相庭に。あんたマジでアホみたいだけどさ」
まだアホ連呼しやがるか。
「私らまだガキだし、あんまり余計な事考えないで恋愛出来んのも今しかないのかもって思うと、私も、無謀でもいいからぶつかってみようとか思ったんだよね。やっぱさ、このまんま終わりたくないって言うか」
「アキちゃん……」
「我慢しろ、抱き付いたら照れ隠しに平手が飛ぶぞ」
「だから堂々と相談すんな!」
「いや、嬉しいよ、そういう風に言って貰えるの」
敵視っぽいのされてるのはわかってたから、尚更そう思う。
でもなあ。
「あの子もそうした結果じゃないとは言い切れないしな。こればっかは笹原君の気持ち次第だよね」
「何弱気になってんのよ、今更!」
怒鳴った中川ちゃんを見て、思わず噴き出して笑ってしまった。
また怒る中川ちゃんを今度こそ抱き締めてみる、平手は飛んで来なくてセーフ。
あーもう可愛い、大崎君の幸せ者め。
「私さ、偽善的に聞こえるかもだけど、笹原君に幸せでいて欲しいんだよね。好きな相手がカノジョになって幸せ一杯なら、それが一番いいと思う」
「あんた、あれだけやってて身とか引けんの?」
「そりゃ精神的にはなかなか無理でしょうけども。そうなんだよね、やっぱ結局そう考えちゃうんだわ。私と付き合ってくれたとして、笹原君が楽しいとか嬉しいとか思う事少しもないんじゃ、なんも意味ない」
実際笹原君にカノジョが出来ちゃったら辛く厳しい現実になるのは確かだ、なんで隣にいるのが私じゃないのかって勝手に今もそう思う。
食い下がって食い下がってやっと友達として認められたけど、笹原君の好きな子には一瞬でその時間を越えて行かれちゃうんだって考えると理不尽だと思う気もする。
でもそんなの私だって同じだ、他の誰かが幾ら好きだと言ってくれても、今笹原君が好きな私の気持ちは越えられない。
他の人がこんなに好きな状態で誰かと付き合う気にもならない、付き合えたとしてもきっと申し訳なくてその人の良さを知る度ただそう思ってるだけだ。
笹原君の大事な人になれたらと思うけど、人の心ってやっぱり自分ですらどうにもならない時がある。
なんでも、自分の思い通りに行く訳じゃない。
泣きたくもないのに涙が出そうになるのすら。
「悠」
頼子が私の頭を抱き寄せてくれる、……Aカップのその胸に……。
「相庭さ、あんた、ちょっと違うんだね」
「にゃにが」
頼子の胸に顔を押し付けたまま問う。
うん、こうしてみると胸がデカけりゃいいってもんじゃないな、これはこれで大変よろしい。
「笹原が本気で嫌がらない限りは気にしてないもんかと思ってた、だからあんなぶつかって行けんのかなって。実際あいつに告白した連中なんかもフラレて勝手に逆ギレしてるような奴ばっかりだったし。でも相庭、割りとちゃんと見てるんだね、笹原の事」
そりゃ短期間で表情分析に勤しみましたからね。
「なんかやっとわかったわ、笹原があんたの前なら顔の筋肉使ってちゃんと笑うの。多分だけど、笑うとあんたも笑うからなんじゃない?」
「ええ?」
「私だってそれなりに笹原の事は見てたから、そんな気がするわ。なんつーか、あいつ無表情だからさあ、ついいっつも怒ってんのかとか何考えてんのかとかこっちはそういう思考に行きがちなんだよね。あーあ、なるほどねえ。あんたのアホさ加減があいつの不器用に上手い具合にハマった訳だ」
なんか何かを納得されてしまったようだが。
「忘れているようだけども、私は笹原君の友達ではあるけど、好きな人じゃあないんだよ」
おう、自分で言ってなんという自殺点。
「や、でも友達の域は超えて見えたんだけどなあ。ほら笹原って付き合い長いらしい鈴木とかにも無愛想じゃん。なのにさ、相庭の前では私から見てもホント破格に表情違ったよ、笑うだけじゃなくって。だから嫉妬したかなって部分あるし」
「表情違ったかなあ」
言われて見れば遠くから見るだけの頃より今ではずっと多くの笹原君の表情を知ってる。
いつの間にか、笹原君を特に真の意味で無表情だと思う事はなくなった。
うん、笑ってくれてたよね。
笑って……笑う…………。
「それだあああああああああっ!!」
「何がそれ!?」
「そうだ、笹原君、笑ったとこ見てないんだ!」
「は?」
「だってカノジョじゃなくても所謂昔馴染みなんでしょ?再会したら笑うよ、嬉しかったら笹原君でも笑うよ」
「何気に失礼な事言ってる気がしなくもないけど、……そういえば確かに」
中川ちゃんが頷くと、アキちゃんと頼子ももう殆ど人がいない校庭に目をやってから頷く。
「そうだそうだ、それだ。なんかどうも違和感あるなあと思ってたんだよね」
「まあ、言われて見れば、そらカノジョとか好きな相手だったら幾ら大魔神のあいつでも笑うわな」
「うん、そうなんだよ。友達相手の私に出来るんなら好きな相手に笑顔にならずにはいられないじゃない」
しかも相手が目の前にいない時ですらあんなに優しい目でいた笹原君だ、笑顔にはならなくとももっとこう優しい目で彼女を見たりとかするもんだろうに。
しかしこの頃の笹原君は以前以上の無表情にピリピリした空気を醸し出してるかどこかぼんやりしてるだけ、彼女の隣にいてすらだ。
鈴木君と明石君でさえそれを感じ取ってるのか、最近は三人で会話を続けている様子を見た事もない。
「……なんで?」
「知るか!」
ですよねー。
「ええ?いや、そうじゃないとしても何か色々謎が残るな」
「ま、大人しそうな感じ出しといて、彼女が強かな神経の持ち主には変わりないね」
アキちゃんはやはりバーのマダム的佇まいでそう言う。
その手にワイングラスが握られていないのが嘘のようだよ。
「して、そのココロは?」
「他校生がわざわざ一人で出向きに来てんだよ、こっちで噂になるの必至だろうに。それわかっててやってるでしょ」
「何の為に?」
そういえばあの子の制服って隣の隣の町の高校だっけな、友達が三人あそこ通ってるわ。
……え、待て、あの距離をわざわざ迎えに来るのに移動してるって?結構かかるよ?
「愛の為か!」
「さっきの話の流れから考えろってバカ悠」
しょぼーん。
「真実はわからんけど、誰かに見せる目的があるには変わりがないねえ」
「あ、それ私も同意。別に学校前にいる事はないんだよね。余計目立つし、迎えに来るなら来るでちょっと離れたとこでもいい訳じゃない」
「ああ、なるほど……」
うっ、その全員の「お前は実にバカだなあ」みたいな視線は止めて頂きたい!今相庭悠のハートはガラスの如くであります!
「えーと、じゃあ、何の為に?」
だからその「お前は本当にバカだなあ」みたいな視線はちょっと待てって!
でもなんだろ、なーんかこれで全部違和感スッキリ!にはなってない、ような……?