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13.恋はややこしい

 リーチの差はあれど、即座に真っ直ぐ地面と垂直に伸ばされたお互いの足は目的のブツに当たる事はなかった。


二つの足をギリギリのところで体をくの字に折ってかわした本人はそのまま後退ってNO!NO!とか言ってる。


うむ、実に惜しい、色々と。


「ボウリョクハンタイ、ダメゼッタイ!」


「上手い具合に避けたじゃねえか、覗き魔」


「その身体能力を他に活かしたらどうかね、覗き魔」


「ボクは悪いノゾキマじゃないヨ!」


 覗き魔の単語まで習得してるとは侮り難し、大体覗き魔にイイもワルイもない。


ていうか本気で日本の何を学習してるんだコイツは。


「なんか用?」


「テキトー過ぎない!?……ダッテ、ユーとサハラが二人っきり、ヨクナイ」


 笹原君は砂漠か。


「ボクもユーと話したい」


「じゃあ、いっしょ――」


「二人で。サハラはいらない」


 チッ、被せて来やがった。


ちらりと横目で笹原君を確認すると、やっぱりこう怒ってる感じでテッドを見てる。


うーん、どうすべきかなあ……。


こいつを一緒に交ぜたところで笹原君がテッドを嫌ってるのはすでに事実だしぶっちゃけ私もコレは邪魔だ、でもテッドとは一度話をつけなきゃならないと思う。


「よしわかった、話をつけよう。タイマン上等」


「おい、相庭」


「アリガト、ユー!」


 咎めるように言った笹原君に再度テッドが被せて来てしばし二人の睨み合い。


一体何を考えている事やら……女にはわからない世界ってやつだろうか。


「じゃあ、ホレ、ちょっと場所移動しよ」


「ここでいいだろ、俺がテントに戻る」


「エー、ボクはユーとサンポしたいよ」


 また睨み合い、ああもう話が進まん。


「共同の水場の方行こ、あそこなら近いし、座れるとこもあるし」


「相庭」


「大丈夫だって。何かあったら悲鳴を上げるのは私じゃなくてコイツだから。テッド君、オーケー?」


「……オー、ケー……」


 油差してないブリキみたいな表情でギチギチ笑ったテッドに笹原君が溜息をつく、いやこれは私に向かってだろうか。


笹原君て結構心配性なんだなあ、やっぱり実は面倒見がいいし女子にも優しい性格してるのかもしれない。


だからかな、逆にキツイ事言っちゃうのって。


なかなかに男心も複雑で難解だ、だからって女心も理解してるとは言い難いけどさ。


「三十分以内にしておけよ。……もう遅いし」


 まだ納得いってないような笹原君に頷いて見せてから、さっさと済ませるべく私はテッドの首根っこ引っ掴んで水場の方に歩く。


程なくして辿り着いたそこは小さいけど蛍光灯もあったし、食事出来るようなスペースもあって結構整っていた。


そこにお互いテーブルを挟んで丸太を半分に切った椅子に腰を下ろす。


小さな蛍光灯の下、それでもテッドの金髪は輝いているみたいに見えて、ちょっとだけいいなあと思った。


ちょっとだけなんだから別に好きとかじゃないし勘違いしないでよねっ!


「ほんじゃ、そろそろ腹割って話しつけようや」


「ユー、ケットーするみたいだ」


 何が嬉しいのかにこにことそう言って私を眺めるテッドに溜息が零れてしまう。


「あんた、もうその話し方止めれば?逆にしんどくない?」


 私の言葉にその微笑みはピタリと止み、今度は声を上げて笑われる。


なんだこいつは、思春期による情緒不安定か、それとも分裂症か。


雑誌の表紙でも飾っていそうなスマイルから一転、大口を開けて笑うその様に漸くこの男の本当の顔を見た気がする。


まさか硝子の仮面でも被っていたとか言うオチじゃないよなあ。


ハハ、まさか…………お、恐ろしい子……っ!


「バレてたのか、つまんないなあ。でも結構気に入ってたんだけど、カタコト。面白くなかった?」


 とたん日本人もビックリの流暢さだ、見た目すっかり外人だけどハーフとかクォーターってオチかも。


その考えを察したのか、テッドは笑いながら首を振る。


「日本語はちゃんと勉強して覚えたんだ。単語的な知識はこっちに来て天地にも色々と教わったしね」


 覗き魔な単語をいつどこでどうやって教えたのか、帰宅後はアレに詳しく聞かねばなるまい。


「なんでわかった?」


「なんとなく」


「そういうの野生の勘って言うんだよね?」


「喧嘩売ってんのかオマエ」


「NONO」


 とたん両手広げて肩とか竦めちゃってるよ、ある意味似非外人め。


「スルメ食べる?」


 ポケットに忍ばせていたスルメを取り出して噛みながら言うと、テッドの頷いて差し出されたスルメを噛み始める。


しかし我ながらなんて緊張感のない図だよ。


仮にも自分を好きだと言ってる奴から腹割って話しつけようとしてるってのに、お互いスルメくちゃくちゃやりながらって一体どうなってんだ。


いや、ちょっと小腹が空いただけなのよ、腹が減っては戦が出来ぬって言うしね。


「でさあ、本題らしきものに入るけど、あんた一体何なのさ」


「んん、くちゃ……ボクは、くちゃくちゃ、悠が、もぐもぐ……ホントに、くっちゃくっちゃ、す……」


「くちゃくちゃしながら話すな!何言ってるかわからん!食うか話すかどっちかにしなさい!」


「……くちゃくちゃ」


「食うんかい!」


 近所のおばあちゃんの実家で作ってるって言うこのスルメ美味しいけどね!?


オイ、そこ、やる気大事に!


「んー、日本のジャンクフード凄い美味しい。顎痛くなるけど」


 そらよかったな。


「で、何だっけ?」


「巴投げされたいのかね君は」


「いやいやいや。ああ、そうだ。うん、ボクが悠を好きなのはホント。だから何て言うの?ブッチャケ?笹原が邪魔?ミタイナ?ぶっちゃけ消えて欲しいみたいな?天地の話じゃ悠に好きな人がいるなんて聞いてなかったし」


 イケメソビームとか放ちそうな笑顔で何か黒い事言ってるよこの人、何これ怖い。


「まあでも笹原も別に好きな子いるんでしょ?だったら悠も、なんてのはムシが良過ぎるよね?なのにいちいち邪魔して来るからさあ、ヤミウチとか考えそうになっちゃったよハハハ。忍者映画で見たんだ、新月の晩にやるんだよね?」


 うわあああああああなんか言ってるううううううううううううう。


ヤミウチ、ダメゼッタイ!NOヤミウチNOライフ!……あ、これ意味違う!


 こっちの開いた口が塞がらない間にまあ出るわ出るわ漆黒且つ暗黒面の計画が。


ええぇ……特に期待もしてなかった藪突付いたら蛇どころかモスリャ出て来ましたみたいな、何このガッカリ感。


別にそこまでのキャラとか期待してなかったんですけど。


明石君が純白に見えて来そうだよ、今後。


「そんな驚かなくても。悠だって笹原の好きな子とかは正直邪魔でしょ」


「ですねー」


 そら好きな人に好きな人がいるとか歓迎出来る事態な訳がないわ。


「でもヤミウチはせんよ。出来れば具体的な邪魔もしないし、もしその子と笹原君が付き合い始めちゃったら諦めるよう頑張る」


「それっていい子ぶってんの?それとも最初から諦めてんの?」


 スルメを噛んでにっこり笑って言ったテッドに苦笑した。


「それが出来りゃ苦労しないっつーの」


 人を好きになるっていい子でいるばっかりじゃ何事も待つしかない。


本当にいい子になれたならそもそも告白しないし、笹原君に彼女が出来ちゃっても嫉妬もしないしおめでとうとか心から言えちゃうんだろう。


――うん、今考えて軽く鳥肌立ったよ、私そういうの向いてない。


顔で笑って心で泣くとか無理です、私女優じゃありませんから。


 しんどいなあとは思う、多分好きな方も好きになられる方も。


感情ってエネルギーは結構大きくて、それのぶつけ合いはかなり色々消耗する。


でもどこからか話す度に顔を見る度にまた向かって行きたくなるエネルギーが生まれて来てしまう。


止められない、だからせめて笹原君が迷惑だって言う前には気付いてストップしたいと思うけど。


でもどこまでも走っていけたらと願ってしまう。


笹原君が受け止めてくれたらと、そう願ってしまうんだ。


多分きっと笹原君だって好きな人に対してそう思ってる、恋をしている皆がきっとそう思ってる。


「ボクの事邪魔?」


「イエス、邪魔」


「はっきり言うなあ。ボクこれでも落ちない女なんていなかったんだけど」


「初体験おめ」


「ワーオ」


 まあそうだろうなあ、このダークサイドな性格はともかく顔はいいしスタイルもいいし愛想もいいし、そりゃモテるだろう。


いっそなんで私なのかが相庭悠の七不思議(大抵三つぐらいまでしかない)の一つに今入りました。


「でもいいよ、アンタが本気で私の事好きだって言うなら、こっちも全力で受けて立つ」


「だから、決闘するんじゃないんだけど」


「恋愛も精神的格闘技、土俵とルールは守って正々堂々戦いましょう。自信があるなら、あんたの事好きにさせてみなよ」


「……凄い挑発」


 その言葉に思わず噴き出して笑った、挑発なんて言われるとふ~ぢこちゃんを想像してしまったじゃないか。


ああ、いっそあんなハンターになりたい、ハンターになれる試験はどこでやってますか。


「律儀なんだかよくわかんないねえ、悠は。カノジョがいても奪っちゃおうとか思わないの」


「個人的に自分がされてそれは嫌だからしない。そういう事が出来る人から見れば諦めてるとか本気で好きじゃないとかって事になんのかね」


「そうかもね。ボクは悠にカレシがいても別に止めようとか思わないしなあ」


「そうかあ。一人ずつに一人相手が決まってれば楽だけどね。なかなかそうはいかないし、決まってないから悩むし楽しい事もあるよね」


 スルメを噛みながら頷いたテッドはにっと笑った。


「日本に来てよかったな。悠の事、本気で好きになった」


「自分で言うのもアレだけど、エライ趣味してるね君も」


 そんな事ないよとテッドは笑って頬杖をつく。


「ボクさっきも言ったけど、好きにならせようとしてならなかった奴っていないんだ。興味なさそうな子でも、何度か声をかけてアピール?してれば好きになって貰えてた。最初からキスしたって怒んないし、責められた事だってない、よくわかんないけど上手いのかもボク。まあ後から浮気すんなって責められた事はあるけどね」


 ワーオ。


「抱き付いただけで投げ飛ばされた事だって一度もないよ、悠の他は」


 まあ、そりゃあそうだろ……自分で言うのもアレだけど。


 テッドは大きくはあと息をついて、脇の水道の蛇口を捻るとそのままそこへ顔を突っ込んで水を飲む。


私も飲もうかな、スルメは喉が渇くわ。


「好きな奴がいるとか言ってても優しくしたりちょっと構うと皆すぐ心変わりする、相手の男が靡いてない場合は特に。それなのにボクが他の子を好きになったって言うと怒るんだよね。大体ちょっと他の子に声かけて仲良く喋ってただけで浮気だ何だって泣いたりするし。そのくせ自分達は他の男と喋っても何でもありませんみたいな顔して、こっちがただの悪者」


 そこは笑うとこなのかね、ジョークか、アメリカンジョークなのか。


おかしいな、夏だっていうのになんか寒くなって来たんですけど。


く、空調っ、空調のリモートコントローラーはどこっ。


今は寝ちゃダメだ、寝たら死ぬぞ相庭悠!


「全部つまんなかったんだ。勉強だってそこそこやればトップだし、運動もちょっとトレーニングすれば記録出せたし」


 い、いるよなあ、そういう奴……。


その上どれだけ食べても太らないとか言った挙句にはもれなく頼子に殴られるよ、超笑顔で。


不意をついて拳切り出して来るから結構痛いんだアレ。


「オヤジに言われて空手習い始めて、それもすぐそんなんで皆弱くて飽きちゃって。辞めようかなと思ってたとこに、天地と会った。相手してやるーとか言われてこっちが了承もしない内に、マジでボコボコにされた」


「あいつ手加減とか知らんから……」


 そこが欠点なんだよなあ、心技体の技がイスカンダロの彼方まで吹っ飛んで消失してるって言うか。


テッドはそこで楽しそうに声を上げて笑った。


なんとなくその気持ちはわかる、強い奴に会うとオラワクワクして来たぞって感じだ。


出来る事が当たり前になるとなんか楽しさが見出し辛くなるのって何なんだろう。


どんどん強い奴が投入される格闘漫画じゃないんだから、現実はなかなかそんな楽しい事がすぐ転がって来ない。


だから覚えたての頃の楽しさを味わえるかと思うとワクワクする。


私も、昔は楽しかった、な。


そうだ、いつの間にかつまんなくなった、だから次々新しいものに挑戦して行った。


「そしたらさ、天地が言うんだ。俺の娘はもっと強いって。俺にのされてるようじゃ全然まだまだだって」


「OH……」


「それで色々聞いた、どんな子なんだって。ケータイの写真見せて貰った時もビックリしたなあ、正直ゴリラみたいな子だと思ってたから」


「よし、その挑戦状受け取った、表出ろ」


「いやここ表だから。悠、可愛かった。中学生頃の写真だったかな。明らかに盗撮だったけど。しかも送ってって言ったら即行で断られたけど」


 また親父様の罪状が増えた訳ですね、家に帰るまで久しぶりにウォームアップでもしておくかウフフ。


いつだったかケータイ眺めてニヤニヤしてたかと思えばそれか。


肖像権の侵害を最小限に食い止めたのはグッジョブ、だが許さない。


「嘘だろと思ってたんだよね、実は。写真の悠はちっちゃかったし華奢だったし、天地の親ばか?の所為だろうって」


 あれ、もしかして立たなかったはずのフラグをわざわざ立てたのは私か!?


OH……。


「でも俺が受身も取れないで投げ飛ばされたのなんか初めてだった」


「あんた投げ飛ばせる女ならこの世にゴロゴロいるって」


「ボクこれでも相手の外見の好みも煩いんだ。今までそれなりにレベル高い子と付き合った所為かもしれないけど」


「誰かが聞いたら爆発しろとでも言われそうなセリフですね」


「強さも外見もときて、料理も出来るし、それに優しい」


「優しくした覚えはない。捏造禁止」


「優しいよ、少なくともボクはそう思ったからそれでいい。フツー幾ら生活費入れてるからって年がら年中好きに出歩いてる父親にさ、愚痴も言わず当たり前に料理作ってビール出してって、なかなか出来ないでしょ。それになんだかんだ言ってボクもちゃんと客として扱ってくれるし。居候なんだから何でも言い付けたらいいのにさ」


「物は言い様ですな」


「感じたままを正直に話してるだけ」


 そうかい、まあ好きな人のあれこれが良く見えちゃうのはわかる気がするけどね。


でも私はともかく笹原君は実際優しい人なんだよ、そこが大きな差だな。


「だからボク家でも今までじゃあり得ないくらい頑張ったのに、悠は笹原笹原って」


 そ、そんなに家で連呼してた憶えはないぞ!……多分ね!脳内以外ではね!


「んで、ムカついた。笹原の事気にしてる悠にも、笹原にも。こんなムカついたの生まれて初めてってくらい」


「初体験おめ」


「ワーオ。でもちょっとほっとした、悠に許可貰ったし、ボクあいつなんか敵じゃないと思ってるから。えーと、何だっけ?ああ、ニト追う者はイットも得ず?」


「笹原君は私を追っかけてる訳じゃないけどねえ」


 オイ、今自分で言って落ち込んだ、自虐ダメゼッタイ。


 テッドはもう一度水道に顔を突っ込んで水と飲むと、私を振り返ってまたにやりと笑う。


薄暗い中私に長い指が伸びて来る、少しずつ近付いて私の頬を通り過ぎたかと思うと後頭部が後ろからテッドの方に向かって何かに押された……いや引き寄せられた?


「――ぃってー……!」


 お前そこは「アーウチ!」とか言うところだろ、日本人の偏見としてのアメリカ人ならっ。


「そういうとこがムカつくんだよなあ。何、ジェントルマン気取りなの、笹原?」


 テッドの腹に収めた拳を引っ込めながら、その言葉に振り向くとすぐ後ろに同じように拳を引っ込めようとしてる笹原君がいた。


気配を断って近付くとは……笹原君、出来る!


ん?ああ、三十分経ったのか、迎えに来てくれるなんて超優しいなあ。


「お前に言われる筋合いねえけど」


 テッドの流暢な言葉に笹原君は僅かに片眉を動かしたけど追及はしなかった、こりゃ明石君にもバレてそうだ。


「笹原は好きな子いるんだって?浮気はダメだよ?」


 どの口が言うか。


「んな事誰に聞いた」


 あ、そういえばなんで笹原君に好きな子がいるって知ってんだ?


テッドは私達の疑問も物ともせず自分の腹を撫でてからにこりと微笑んだ。


これが天使っぽい悪魔の笑顔ってやつか、なんて恐ろしい子!


「鈴木」


 ええぇ……まさかの鈴木……、ていうか知ってたのか、なんで知ってんだ。


笹原君を見ると訝しげにしているから、笹原君が鈴木君に喋ったんじゃないんだろうけど。


「前に笹原があちこちうろうろして溜息ついてばっかりいたから、好きな子でもいるんだろうと思ってたって」


 なんだその明後日の方向に投げたら偶然的ど真ん中に当たりました感、流石過ぎるぞ鈴木君。


「後はボク自身が見てそう思った。笹原、迷っちゃってるよね?」


 茶化すようなテッドの言葉に恐ろしいほど笹原君の視線が鋭くなる。


この視線を受けて身じろぎもしないテッドもなかなか出来るけど、迷うって何の事?また女子はすっこんでろ的な世界?


どうすんべと一人オタオタしてたら突然腕が強く引かれて気付いた時には自分の足が歩き出していた。


「さ、笹原君?」


 返事がない、ただの――いやそんな事を言ってる場合じゃない。


何だかよくわからんけど、テッドの奴絶対何か挑発した。


かなり怒ってるのか、私の腕を掴む手は強いし歩き出す足は速いし……やっぱ怒ってる。


「笹原君、待った待った!」


「お前さ、あいつに――……いや、いい、何でもない。もう寝ろよ」


 私用のテントの前まで引っ張って来た笹原君は中に放り込むようにして漸く手を放す。


慌ててテントから顔を出すと、笹原君が男子用のテントに入り込むところだった。


くっ、私が入れない領域に卑怯なり!って何が卑怯なんだかもわかんないけども。


 仕方なくテントのど真ん中に座って胡坐などをかいてみる。


さっきテッドが言ってた「迷ってる」に反応したように思うんだけど、……何に?


話の前後からすると笹原君の好きな人に対して迷ってるって事?だよね?


でも笹原君はあんなに好きな人の事が好きなのに、ってややこしいな。


 あーホントややこしいなあ、そりゃ恋すると溜息ばっかり出る訳だよ。


でもまた明日も笹原君の顔を見て嬉しくなっちゃったりするんだ、そんで好きだなーとか思っちゃったりするんだ。


私の願いが叶えばいいと思う、でも笹原君の願いも叶えばいいと思う、どうせなら皆の片思いが叶っちゃえばいいと思う。


ややこしいなあ。





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