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12.まずはお友達から!

 思わずそんな場合でもないだろうに「綺麗だね」と言ってしまう。 


花火大会とかで見るより全然小さいやつだったから、近くでキャンプやってる人達が上げたんだろうと思うけど。


パッとあっという間に散ってしまった花火の二発目が上がって視線を笹原君に流すと、相変わらずの凛々しい顔が少し照らされていた。


ああもう本当に、言葉の引き出しってやつがないから困る。


「笹原君」


「何だよ……」


「花火も綺麗だけど君の方がもっとキレ」


「言わせねえぞ!?」


 ――キレられた。


「そういえば、さっき、何言いかけたの?」


「え、あ……いや、……」


 笹原君が口篭るとかやっぱ珍しい、……やっぱり熱が?


あれ、でもさっきより随分顔の赤みも引いてるしなあ、何だったんだろ、悪い病気じゃなきゃいいんだけど。


もう一度額に手を伸ばそうとトライしかけて、片手がまだ掴まれたままだったと気付いた。


「あ、笹原君、手……」


「……悪い」


 放された。


ああああああああああああああああはあああなああさああれええええたあああああああああああああああああ!!!


言わなきゃよかったああああああああああああああああああ!!


放された手が重力に従ってだらんと垂れる、笹原君のぬくもりが消えて行く……。


こ、これが敗北か……っ!


「何やってんだお前、ノックアウトされたボクサーの真似か」


「だから何言いかけたのって聞いてんだってばよ!」


「どっかで聞いたようなキレ方すんな!」


 そりゃこっちのセリフだってばよ!


あああああもううううう、自分からフラグをバッキバキに折った気がしてならない。


何のフラグかよくわかんないけど、それを捨てるなんてとんでもない!って物を捨てた気がする。


あー……ロードデータかリセットどこ?もしくは七つの玉どこ?ギャルのパンティは欲しくないけど。


きょろきょろ探していると笹原君がゲホンと咳払いしながら私を見下ろした。


どこかでバッチンバッチン爆発みたいな音がする…………今度は爆竹ですか、何祭り開催中だよ。


「あー……と、お前さ、米神辺りにちっちゃい傷あるな、と思って」


 そんなもんあったけかと考えて思い出した、まあそんなくらいにちっちゃくてもう薄い傷だ。


さっき顔近付けたのってその傷見てたのか……なんか物凄いがっかり感を覚える。


「ああ、これ、昔ちょっとやんちゃしてた時にね」


「昔?ちょっと?」


「何が言いたいんですか」


 思わず拗ねながらも、傷の辺りに手をやりながら苦笑する。


これってあれだ、初恋芽生えて瞬時に散った時に付けた傷。


私が飛び掛って行った子が腕時計しててすったもんだやってる最中にそれで傷が付いたんだよね。


そういえば家に帰ってから気付いたんだけど結構だらっと出血したんだっけ。


いじめっ子に鬼の如く飛び掛って行っただけでなく顔面から血ぃ垂れ流した女じゃそりゃ華々しく初恋も散る訳だよなあ。


ついでにあの頃唯一持ってたお気に入りだった可愛い髪飾りもなくしちゃったし……あれ超可愛かったんだよ、水色のガラスとトンボ玉で出来てて。


はあ、つくづくあの思い出には苦いものしかない。


「今のお前からするに、体中そんな傷ありそうだ」


「何なら確かめてみ――」


「ない」


「最近私達更に息が合って来たね!シンクロ率の上昇で使徒が倒せるよ!」


「何の世界に迷い込んでるんだお前は……」


「恋の樹海に!」


「戻って来れない訳だな」


 リアルではそんな事もないらしいけどね、恋の樹海となるとそりゃあもう。


……。


「ていうかさっきから爆竹うるさくね!?」


 折角の二人っきりの時間が台無しなんですけどどこのはしゃいだ若者だバッチンバッチン爆竹祭り絶賛開催中過ぎ!


「なんでよりによってキャンプ地で爆竹を選択するんだかな」


「家族連れに迷惑だよねえ。まあまだ十時くらいだけど、お子様は寝てるだろうし」


 そういえば魚持って行ってドン引きしてたご家族はもう寝たかな。


こういう時ってちょっと夜更かしも許されたりするもんだけど、こっちも笹原君となら夜更かしも夜明かしもバッチコイだけど、……爆竹超うるせー!


でも笹原君と一緒ならそれも心ときめくBGMに聴こえて来るから不思議だ、なんか先の方に恋の願いを叶えてくれそうな泉の幻影さえ見える……そしてこう言う訳ですね、ラブラブフラ――


「お前って好きになった奴いないのか?」


 ッシュ、……はい?


「初対面のヒトの話聞いてたんすかお望みならここで百万回繰り返してやんよ好き好き大好き愛」


「キレんなっつーの!大体そんな事言ってねえだろお前!そうじゃなくて、……俺以外でいなかったのか?」


「それは私の過去も何でも知りたいという男ごこ」


「今はその特定の過去に対してでいい」


「視野は広く持とうよ」


「お前がな!」


 えー、いや、狭くもないつもりなんだけどな、どうだろ。


口に出そうとして変な風に唇が歪んだのを感じた、心ときめく初恋話じゃないだけに話し難い。


「いた、よ」


 事実だけを言ってみる、一瞬で恋して一瞬で散ったけど、でも確かにあれは私の初恋だった。


そうでなければ流石にここまで引き摺らなかった、思い返せば道場とかであの子のような目で見て来た人は沢山いたから。


子供のくせに、女の子のくせに、――あの子は「バケモノ」。


でもそんなのは気にしなかった、気にしたのは……あの子だけだった。


「なんかもうある意味光の速さでフラレちゃってさあ。ショックで逃げ出して、それで二度と顔も見なくなっちゃって、だからすっごい後悔した。決定的にフラレるんだとしても、きっちり自分でやれる事やってからあの子自身の言葉でフラレたかったって心底思った」


 今でも思ってる、初めて魂抜かされたよう感覚は多分一生忘れないから。


それと同じ感覚を持つ人に出会えるとは思わなかったけど、でも出会ったんだから今度は絶対に後悔だけはしない。


そう、決めた。


「もう心底好き好き好きーって笹原君が思うカノジョが出来るまで、私後悔のないようにぶつかりたいの。あの時こうしてれば仲良くなって好きになって貰える可能性があったかもとか、ぐずぐず考えたくない」


 大きく吐き出した息を、また大きく吸う。


笹原君は真っ直ぐ私を見てくれている、それが嬉しかった。


「私、笹原君が好きだよ。こうして話せて、遊んだり出来て、今まで知らなかった顔とか性格とか知れて、多分もっと好きになった。だから結果がどうあっても、これから笹原君の事を思い出す時は、笹原君と一緒にこうして遊んで楽しかったなって思い出したい。折角仲良くなれたから、そこに後悔を挟みたくない」


 初恋だってそうしたかった、思い出す度に苦い顔なんて本当はしたくない。


でも私はあの時何もしなかった、出された結果にただ怯えて足を止めて――当然それだけで終わった。


何度も何度も繰り返し思い出す、悔しくて情けなくてでもどうしようもない。


どんなに痛い言葉でもちゃんとあの子の言葉を聞いて終わらせるべきだった私の初恋は、後悔と言う意味ではまだ終わってないのかもしれない。


 今強く思う、笹原君と一緒にいてこんなに楽しい時間をそういう風に思い出したくない。


笹原君の笑った顔も怒った顔も、声も会話も、手のぬくもりも強さも、全部宝物として大事にしたい。


私の惨めったらしい後悔で傷を付けたくない。


「今更だけど、でも笹原君に迷惑をかけたい訳じゃないんだ。あー、迷惑はかかってると思うんだけど。そうじゃなくて、もう相手するのも話すのもしんどいなら、そこはちゃんと距離を置く。努力する。でももし、そうでもないなら――改めて、まずは友達としてよろしくお願いします!」


 九十度の礼で勢いよく頭を下げる。


笹原君と仲良くなって以来、ちゃんと言わなきゃと思っていた事だった。


笹原君の優しさを感じる度に私が甘え過ぎているともわかっていたから。


ちょっと勢いに乗じた感もあるし、ぶっちゃけ距離置くっつってもどう努力したもんか途方に暮れるけど。


 笹原君は私が思ってたよりずっとずっと素敵な人だった、優しい人だった。


だから、私が本当に嫌ならそう言って欲しい、そう言ってくれたならきっと私はどうにかして努力出来る。


友達でいいかどうか知って判断して貰えるくらいには努力して来たつもりだ、こんなんでもいつそう言われるか覚悟もしてた。


なーんて言いながらももう涙も鼻水も下に垂れそうですけどね!


「……激しく今更だな」


 そこはマジスンマセン。


「ホント、だから今更だろそれ。俺がトモダチでもない奴とこんなとこまで来るかって」


 恐る恐る顔を上げると、笹原君は眉を上げて笑ってた。


「そ、それじゃ……恋人前提にお友達として付き合っ」


「前提云々はさっき言ってなかったな」


 クソ!時よ戻れ!タイムマシンを!今すぐ!私に!


「相庭の事はちゃんとダチだと思ってるよ。正直俺女に偏見持ってたけど、無理な奴は無理だから」


「へんけん?」


「そう。剣道やってるとこ見てたとか、なんか勝手にイメージ作られて、それだけで告って来て挙句勝手に幻滅する生き物」


 う、ううん……確かに笹原君の剣道姿は強烈だからなあ、あのストイックな感じのイメージが全体像になるのもわからなくもない。


普段は近寄り難いから想像だけで笹原君像を補う人もいそうだし。


まあ笹原君が有刺鉄線張るならそれをチェーンソーでぶっ千切ればいいじゃない。


「最初は面倒だなと思ったけど、見た目とかイメージで好きだとか言ってる訳じゃないとはわかったから。お前みたいな変わってる奴だから、よかったのかもなとは思う」


「……な、なんか結構アレな目に遭った?」


「最近漸くなくなったけどな。中学ん時が一番酷かった。真面目で誠実みたいなイメージ作られて、フったら手の平返してサイテー男呼ばわりか公衆の面前で大泣きされてこっちがただの悪者。マジでそんな女ばっかで。だからなんつーか、段々とこっちの言い方もきつくなって」


 う、ううう……た、確かに平均的女子にとってあの断り文句はハードル高いんじゃ……。


あの時テンションMAXで行った私でも内心フラグどころか心折れかけたもんな。


まあ笹原君が難攻要塞を築くならならそれをガトリング砲でぶっ飛ばせばいいじゃない。


「お前何かさっきから物騒な事考えてないか?」


「遂に私の心が読めるようになったのね笹原君!これで私の愛は疑いようもな」


「読めるかっ、ってやっぱ物騒な事考えてんじゃねえか!」


「そんな事……ない、です、よ?」


「言葉の逃げ道を探すな」


「笹原君は傷つけないわ、だって私が守るもの!未来は僕らの手の中!」


「お前自分でも支離滅裂だってわかってて言ってんだろ」


 まあそうとも言う。


やれやれ、自分で思った以上に緊張してたみたいだ、口がなんかもうゆるんゆるんだよ。


「とにかく、そういう事だ」


「へえ、ボス。……笹原君はさあ、今の好きな人が初恋の人なの?」


 おっと、ゆるんゆるんの口がぺろっとつるっと滑った!


「だろうな」


「んな他人事な」


「正直俺もお前と似たようなもんだよ。……しかも現在進行形だ、我ながらヒデエ」


 地べたに胡坐をかいて座り直した笹原君の斜め前に私も座り込む。


結構蒸し暑いのに土はひんやりしてて気持ちがいい。


緊張やら何やらで火照った肌を冷やすように両手も当ててみた。


笹原君もそれを見て私と同じように両手を地面に当てている。


やっと静かになった辺りは時々風が木を揺らすだけで他の音はしない、だからか笹原君の声がいつもよりよく聞こえた。


「自分自身に対しても……あいつに対しても、もっと胸張れるようになってからとか言い訳してる間に話も出来なくなった」


「充分胸張れると思うけどな。前も言ったけど、話しかけてみればいいのに」


 そう言ったら笹原君が何か複雑そうな顔で苦笑する。


何か話しかけられない事情でもあるのかな、その人に好きな人とか恋人がいるとか?


でも……話しかけるくらいもダメなのかなあ、そりゃ相手に恋人がいたら告白でもすると却って負担になっちゃうだけだろうけど。


でもでも口に出して初めて区切り付けられる事もあるし伝えるくらいは許容して貰えたらいいんだけど……うーん、んんんんんーうぬぬぬぬぬー。


「なんでお前がそんな悩むんだよ」


「だって他でもない大好きな笹原君の事なんだよ、そりゃ悩むさ」


「お前な……その思ってる事すぐ口に出すの止めろ」


 むむむと唸りながらその辺の小枝でぐるぐる円を描いていた私が顔を上げると、低く呟いた笹原君が片手で顔を覆ってた。


指の隙間から口元がむず痒いみたいに不思議な動きをしている。


「照れた?」


「ウルサイ」


「てか、それこそ今更なんですけど」


「ウルサイ」


「アナタがートゥキだからー」


「モノマネのモノマネすんな」


「じゃあどうしろと!」


「どうもすんな!」


 んもう、今から亭主関白な宣言とか……いつも綺麗でいます!黙って貴方について行きます!ただ浮気をした場合覚悟するのはそっちの方だがな!


「悪かった」


「はあ?」


「何キレてんだよっ」


「キレてなーい」


 おっと、思わず修羅場の妄想を引き摺ってしまった。


改めて、何が?と尋ねると、笹原君は一瞬躊躇ってから私に向かって軽く頭を下げる。


悪いって…………ままままままっままっままっまっまっままさかの前言撤回……だと……!?


「真面目に謝る。ごめん」


 ざわ……ざわ……とざわめく脳内。


「俺の方こそ、お前の事勝手にいつものと同じだと思って見てた」


「え?」


「お前も俺に勝手なイメージ作ってんだろうなって」


「そりゃ妄想でカバーしなきゃなんない部分もあるよ。親しくなっても全部なんてわかんないし」


「少なくとも、わかんない部分を知ろうとしてくれたよ相庭は。キッパリと引き下がらない宣言してくれた訳だしな」


「そう言って貰えると……」


 な、なんかよっぽど本気で嫌だったんだろうなあ、笹原君てば。


ていうかどれだけ勝手な印象作られて崇拝された事やら……根は深そうだ。


確か中学の時って大会では行列が出来る人気ぶりだったとか聞いたしなあ、最早アイドル状態だったのかも。


「初恋の子はさあ、そういうのも全然出来なかったんだ。あの子の事を他にもちゃんと知れてたら、もっと好きになったかは疑問なんだけどね」


 それを知る術すらもうない、こうやってもしもを考えて仮定を話す事が出来るだけ。


「そういうもんかも、な。向こうの名前くらいしか知らないで実際付き合ってなんて行けないし」


 もっと好きになったかもしれない、一目惚れ以上にはならなかったかもしれない、真相は闇の中。


だからかな、なんか今が凄くラッキーに思える。


ぶつかって行くしか脳のない私でも笹原君は知ろうとしてくれた、その上で友達だって受け止めてくれた。


こういう優しい人だから本能的に好きになったのか、それはわかんないけど。


でもちょっとは一目惚れも捨てたもんじゃないと思う、笹原君の行動を観察……いや見詰め続けた日々も。


少なくとも友達だって認めて貰えたのは、粘り勝ちだ。


「私もごめん。ホント最初は穏便に友達から始める予定だったんだけど、つるっと口が滑って」


「お前は滑り過ぎだろ」


「溢れんばかりのこの愛が口からうっかり飛び出たって言うか」


「お前はうっかりし過ぎだろ」


「じゃあどうしろと!」


「どうもすんな!……あー、いや、もうお前はそのままでいい。……っ流石に慣れて来た、から」


「……うん」


 思わず人形みたいにこくんと頷いたら、何か身構えていた様子だった笹原君は眉を上げてまた口元をむず痒そうに動かした。


そしたらなんでか今度は私にもそれが伝染したみたいに口がむずむずして来る。


ああもう口どころじゃない、頬とか体中がむず痒い。


「私も、笹原君はそのままでいい、と思う。笹原君が好きになった人だもん、大丈夫だよ、きっと」


 根拠がないかもしれないけど、好きになった私の願望かもしれないけど、でもやっぱりそう思う。


だって笹原君が見たまま全部を好きになったとか言っちゃったくらいの人だから多分誠実に答えてくれる。


私みたいなのですらいちいち相手しちゃえるんだ、笹原君だってそれなりに粘れば何とか……。


…………ん?


「だからなんでお前は俺の恋愛相談みたいなのになってる訳だよ」


「いやー……なんででしょうねえ、今自分でツッコむとこだった。ああほら、私がこんなだから。笹原君にも後悔して欲しくないんだ。何せアナタがートゥ」


「それはもういい」


 二度同じボケは許さない、と。


「そう言っても……どうしたもんかな」


 笹原君のぼんやりした呟きに合わせて、どうしたもんかねえと呟いてみる。


全くホントに、どうしたもんかねえ、だ。


でも私みたいに相手がどこいるかもわかんないとかじゃないなら、尚更話しかけてチャンスを作るべきだよね。


あれ、そういえば近くに住んでる人なんだっけ?


 聞いてみようかどうしようか悩んだ直後、私はすっくと立ち上がる。


同時に笹原君も立ち上がって、お互いに視線を交わして頷いた。





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