よみがえる楽園
電動カーレースになってドライバーよりも高度な電子制御技術を持つところが勝利するというつまらない将来が有るかもしれません。今もそうなりそうですけどね。情熱や個人の技量ではどうしようも無いところまで行ってしまったら。より多くの金を掛けた者が勝つとなると、単純な展開が増え観客離れも激しいでしょう。
じゃあどうしたら観客を呼び戻してスポンサーも呼び戻せるのか。
やはりバトルです。テール・トゥー・ノーズ、サイド・バイ・サイド。
直線でスリップ・ストリームから抜け出して横に並ぶ。
これらが頻繁にあれば白熱した展開となって楽しめるのでは。
そう考えた人たちがどうやったか。
前列、フロントローを占める緑の車は運転席の後ろにファーダ・ヘイワースV型八気筒を積んでいる。八千五百回転で三百五十馬力を発生する。
その横の赤い車は同じ位置にファニーニ水平対向十二気筒を積んでいた。九千回転で三百八十馬力を発生するハイパワーエンジンだ。
その後方、第二列には
青い車のモトラV型十二気筒が八千八百回転で三百七十馬力を発生する。
白の車にはオンダV型十二気筒が九千三百回転で三百八十馬力を発生する。常にファニーニと最高出力を競っている。
その後ろの列にはタンク水平対向十二気筒の八千八百回転三百七十馬力を発生するエンジンを銀色の車体に載せた車がいる。
他の車もエンジンはほぼ同じだ。ファーダ・ヘイワースV型八気筒が一番幅をきかせている。ファニーニはファクトリーチームだけだし、オンダは供給先を絞っている。タンクのエンジンは一番高かった。モトラは気難しく十二気筒ということもあり人気はない。その代わり調子が出たときは他をちぎることもしている。人気はないが他のエンジンが入手出来ないチームが使っている。
ファーダ・ヘイワースV型八気筒は馬力に劣るが、十二気筒勢よりも安価で軽量コンパクトで供給量が多いという利点があり直線が少ないテクニカルなコースでは十二気筒勢に勝つ事も多い。
たまにミカワとかオンサとかレノーとかボンツなど他のエンジンが出てくるが未成熟なことが多く消えていく。
ローリングスタートが開始され先導車がピットに入った。コントロールタワーのシグナルが点滅し減っていく。そして青ランプが点いた。正常にスタート。
甲高い排気音と共に排気ガスの匂いがまき散らされる。
世間一般では電池の驚異的な進歩と電力事情の好転によって、一般車両は全て電動になっていて内燃機関で動く車両は特殊用途と一部のクラシックカーしか残っていない。
レースの世界も全て電動になり、ドライバーの腕よりも車両制御技術で勝ち負けが決まることも多く面白みが薄れてきた。ついでに言えば技術開発の舞台として伸び代が少なく終わっているので、企業チームは減り金持ちのプライベーターか金持ちのパトロンを得たチームが優位に立つようになっていた。
酷い事に一部では「ドライバーいらない。ラジコンでOK」とか「AIで十分」とか「俺がコントローラー持てば」などと言われることもある。
結果として全体のレベル低下に繋がり、それを感じているのかサーキットに訪れる観客数が減り続けている。配信での視聴者数も減り続けている。当然スポンサー離れも激しい。
このままではモータースポーツが衰えサーキットの維持さえも出来なくなる。深刻な悩みを各関連団体は共有した。
彼らは面白いレースは特定勢力が勝ち続けることよりもイコールコンディションに近い状態で順位争いがレース中に多くあることが望ましいとの結論に達した。
そこで特定勢力による寡占状態を避けるために高度な技術を制限することとした。同時に十年をめどに規格の見直しをすることとなった。魅せるために。
制限されたのは
AWD(全輪駆動)
電動機
電子制御ミッション
電子制御サスペンション
電子制御ブレーキ
ABS(機械式も不可)
電子制御デファレンシャルギヤ
トラクションコントロール
ステアリング制御(単純なパワーステアリングも不可)
エアコン(送風機は可)
無線機(ドライバー身体モニターと火災検知機能を除く)
残された電子制御系はドライバー保護機能と火災対応機能のみ。
あらたな規格では、内燃機関を使用するが電子制御エンジンを不可とした。燃料噴射装置は機械式でも使えない。機械式燃料噴射装置を不可にしたのは高コストと寡占が懸念されたからだった。燃料ポンプはさすがに電動を選んだ。選んだが、単純なポンプだけの機能で流量調整などの機能は無い。
要するにほとんどを昔のアナログでやろうという企画に基づいてのことだった。
エンジンの規模は排気量を三千ccまでとする。気筒数は自由。
四サイクルであること。
エンジンに過給器を付加するのは認められない。
吸気ポート径は自由。
点火装置もポイント式とした。またセミトランジスタ式点火装置は可とされた。とにかく機械式で点火信号のタイミングを取ればいいと。ポイント式であればダイレクトイグニッションも可となっている。
進角制御も当然機械式である。
変速装置は手動で5段まで。後退は1段付けること。シンクロメッシュ以外の補助機構は不可。
クラッチ操作のパワーアシストは不可。
駆動輪は後二輪。デファレンシャルギヤは完全機械式であること。
エンジンオイル・ミッションオイル・デファレンシャギヤオイルの冷却装置に電動ポンプの使用を認める。単純なポンプだけの機能で流量調整などの機能が無いものに限る。
エンジン冷却水ウォーターポンプに電動ポンプは認められない。
車体コストを低減するためにカーボンやチタンの使用をドライバー保護のみに制限した。
車体は鋼管スペースフレームとし、パイプの素材や厚み、強度まで最低限度を決めている。
スポーツカーとフォーミュラがあり、それぞれ車体規格が決められている。それぞれ使用出来るタイヤサイズ上限がある。グランド・エフェクトの利用を最低限とする車体下面と側部の形状・寸法を決められている。
ウイング形状は自由。高さや面積の制限はある。
使用燃料は石油系ガソリン。内燃機関用のガソリンとエンジンオイルを製造しているのが世界で三カ所の製油所のみでありオクタン価も九十八のみとなっている。航空ガソリンの使用は認められていない。ガソリン添加剤は自由としている。
ガソリンの使用は全体から見れば極少量であり、排気ガス未対策でも環境負荷は非常に小さいとして政府機関との調整も済んでいる。
一番の問題はエンジンだったが、過去にレース用エンジンを製作していた企業が参加を表明。細々と命脈を保っていたヘイワースも資金を得て過去の名品の再現を行うことになった。
ガソリン自動車用キャブレターも製作されていないためにエンジン同様の事態となり供給が始まる。
マニュアルミッションは建設機械メーカーやミッションメーカーで制作している会社があり、供給に合意を得られた。
クラッチも同様だった。
タイヤはドライ、レインの二種類がある。パターンはスリックから溝有りまで自由。ドライタイヤはグリップ力上限が決められて、予選用超ハイグリップタイヤは認められていない。ブリッジウッド、ミケラン、ゲット・イヤー、パレリ、ヨコウミの五社が供給に同意してくれた。
タイヤ幅は最大三百四十ミリとされた。
ホイール材質はアルミ合金かマグネシウム合金で、部分的であってもカーボンやチタンの使用は認められない。ホイール径は十三インチ。これはタイヤサプライヤーからタイヤサイドにデカデカとメーカーやブランドロゴを入れたいという意向を受けてのことだった。サプライヤーを大事に。
ホイールの取り付けはセンターロックで左右が逆ネジであること。ネジ方向は指定しない。ナットの脱落防止機能を備えること。
ブレーキ部品にカーボンとチタンの使用は認められない。
使用するボルト・ナットは全て鉄系合金であること。
これらの規格により、絶対速度は遅くなるが見ていて白熱するレース展開が期待された。また電動レーシングカーに較べかなり安価であるために規格賛同者も増えた。
そして、2年前から実施され人気の点では電動カーレースを遙かに上回る人気になっていた。サーキットへ来る観客も増え、視聴者も増えた。そうするとスポンサーも回帰してきた。
逆に電動カーレースは人気が無かったのがさらに凋落し、上級カテゴリの廃止も検討されている。中下級クラスは高価な勝てるソフトウェアの搭載を禁止するなどの対策が取られている。しかし、これも検査機器を接続すると隠れてしまうという対策が出回り不公平に拍車が掛かっている。
中下級クラスも同様な規格を立案し、公正性を発揮出来れば上級カテゴリ同様人も金も戻ってくると当然のように考えられ企画が立案されることとなる。
中級クラスの規格はアナログでやることは同じだが、エンジンの規模を四サイクル二千ccまでとし、気筒数は六気筒までとした。気筒配置は自由でV型でも水平対向でも良い。ロータリーはレシプロ換算値がまだ決まっておらず参加出来ない。
上級クラスで認められていたミッションオイル・デファレンシャギヤオイルの冷却装置に電動ポンプの使用を認めない。エンジンオイル用電動ポンプはドライサンプの使用上認める。
タイヤ幅を最大二百二十ミリとしている。ホイール径は十三インチまで。ホイール幅は自由。
このクラスに賛同を示し参入してきたエンジンサプライヤーは
ミカワ、横産、四菱、SMW、ファイアト の各社である。過去このクラスでSMWが圧倒的で他のエンジンは勝てなかったのだが、今度はどうなるのだろうか。
タイヤサプライヤーは増え、ダウロップ、センチネンタル、東西、コムホ、ハンキックと供給先が増えた。
下級クラスも同じだ。
エンジンサプライヤーはさらに増えた。増えたが、名前だけある上級クラスのサプライヤーもいるので実質はミカワと横産にこのクラスのみ参加の鈴本とファルク・ワーゲンとクジョーである。
このクラスは入門しやすさを優先してエンジンの規格は安価であることを目標としている。
排気量一千三百cc。直列四気筒のみ。一気筒当たりのバルブ数は二個。吸気ポート側に口径最大二十ミリメートルで最低でも十ミリメートル以上の長さがある部分を一気筒一カ所設けること。DOHC不可。ドライサンプの使用も不可とされた。プラグ数も気筒辺り1個とした。高価となる過度のチューニングを防ぐために色々考えられた。バルブシートの材質も高価な材料は使えないようにしている。
結果、最大でも七千回転で百馬力程度まで抑えることが出来た。
タイヤ幅も最大百六十ミリまでとされた。ホイール径は十三インチ、ホイール幅は五インチまでとされた。このクラスもグリップ限界は決められている。
このクラスはレンタルシャシー、レンタルエンジンも許可されカウルさえ自作すればオリジナルマシンが出来上がるとあって、結構人気が出る。
こうなると、別企画も考えられるようになってきた。モーターサイクル・ロードレースのエンジン化である。モーターサイクル・ロードレースも電動化が進みつまらない展開が多く人気が落ちていた。
緑 GB 赤 ITA アイボリー JP 青 FRE 銀 GER だったような。今では見られないナショナルレーシングカラー。これしか覚えていないのがまた。
センターロックのネジ方向は加速トルクか減速トルクか重視する方向で違っているようです。
スタート方法はローリングで。グリッドからスタートだとスタート直後に何台もお釈迦になってスポンサーから文句が出たんでしたっけ。
電動化が進み電動カーレースだとモーター巻き線重要ですかね。電動で車両全部電子制御機構になった場合ソフトウェアでかなりの優劣が付きそうですね。ドライバーの腕前ではどうしようも無いくらいに。