第五章 都会から来た変人が、まさかの仲間すぎた件
新たな、お仲間の登場です。
今回は、少しだけ静かな回です。
その日、村の朝はざわついていた。
いや、いつも静かな分、ほんのちょっと人が集まってるだけで騒ぎになるのだ。
「都会から、また移住者が来たらしいわよ!」
「えー!?
今度は若い男かしら!」
「いや、変な帽子かぶった女だったって!」
朝から商店の前で、情報が錯綜していた。
私はと言えば、畑にじゃがいもらしき芽が出たことに感動し、コウメに報告していたところだった。
「見て、コウメ。これ、芽よ芽!
生きてるわよ私たち!」
猫は無言で土をならしていた。
農業指導猫としての風格が出てきた気がする。
そこへ、現れたのが“その人”だった。
「すみませーん、
この辺に“畑が趣味の猫”がいるって聞いたんですけど!」
「……私です」
反射的に手を挙げていた。
冷静に考えて、猫に畑の趣味はない。
その女は、髪をツインテールにした60代。
年齢は私とそう変わらないはずなのに、雰囲気は完全に“少女漫画のモブ2番手”。
「私、千里っていいます!
東京から来ました!」
「あら、都会育ち?
どうしてまたこんな田舎に」
「“二次元から出てこない推し”の現実逃避で!
あと、生活費がもう限界で!」
「あ、同類だ」
千里さんは、自称・“元漫画喫茶難民”。
リタイア後の年金が雀の涙で、東京の家賃に耐えかね、移住制度を使ってこの村にやってきた。
「でも、着いたらびっくり。コンビニまで徒歩40分、Wi-Fiは風の向きで切れる!」
「ようこそ、現実」
「でもでも!
猫が畑仕事してるって聞いたときは、“ここが桃源郷か!?”って!」
「違う。
うちの猫がたまたま賢いだけ」
千里さんは、コウメに話しかけていた。
「ねぇコウメちゃん……。
私、推しにも裏切られて、お金もないの……。
ここにいていい?」
コウメは返事をしなかったが、ぽてりと千里の足元に座った。
「……えっ、認められた?」
「ええ、入村許可が出たわね。
猫のね」
それからというもの、千里さんは私の畑に入り浸るようになった。
「やだ、じゃがいもって芽が出るの、こんなに尊いの!?」
「でしょ!?
私も初めて知ったの」
「私、推しのグッズ買うより、土いじってるほうが癒されるかも!」
「え、それ、推しに刺さる発言よ」
千里さんは、育てた野菜に推しの名前をつけ始めた。
「この芽、アラタって名前にしよう。
強くて真っ直ぐな感じ!」
「もうすぐ“アラタ、塩ゆで”されるけどね?」
やがて、村の人々も千里さんを受け入れはじめた。
「まさこさんと千里さん、いいコンビねぇ」
「“年金と猫と畑”って看板出しなさいよ」
「やだ〜!
うちら“年老いてからの青春”始まっちゃってる!?」
千里さんがバカみたいに笑うと、なんだか私までつられて笑ってしまう。
コウメはいつも真顔だけど、たまにしっぽで返事してくれる。
夕方。
畑のじゃがいもに水をやりながら、千里さんが言った。
「……ねぇまさこさん。
私たち、変かな」
「変よ。
でも、変でよかったと思ってる」
「うん……。
なんか、生きててよかったって初めて思えた」
彼女の目には、少しだけ涙がにじんでいた。
コウメが、黙って隣に座る。
「……猫って、人生のリセットボタンみたいね」
「それは言いすぎじゃない?」
「いや、私の推しより信頼できる」
「……わかるわ」
その日、私たちはじゃがいもの成長をつつきながら、
“この村で生きていく覚悟”を、無言のうちに共有した。
たとえお金がなくても
Wi-Fiが飛ばなくても
猫と、土と、ちょっとズレた仲間がいれば──
人生、悪くない。
たぶん、私はひとりじゃなくなってきてます。
次回、
猫が主役か。
まさこが主役か。
それは……




