第四章 お金が足りない。でも支援がだいたいズレてる
人間、生きていかなければ!
で、ある。
月末が、来た。
うっすら胃が痛い。
「年金……3万2000円……。
家賃0円……
水道代1000円……
食費と電気とガスと……
スマホ代で……
え?」
手元のメモ帳に書いた数字を、もう一度見直す。
「残高……642円……」
大声で言いたくなる金額だった。
いや、むしろ大声で言いたくない。
「まさこさん、大根いります?」
「要る!
めちゃくちゃ要る!」
たまたま通りかかった近所のよしえさんが、大根を5本もくれた。
「そんなに!?
ありがたいけど……お金は……」
「いいのいいの。
昨日、畑でごっそり採れたから、あたし1人じゃ食べきれないのよ〜」
ありがたい。
が、現金にはならない。
翌日。
佐藤くんが集会所にやってきて、なぜかビジネススーツだった。
「まさこさん、実は提案が……!」
「なに、婚活?」
「いや、地元の観光協会のSNSが死んでるんで、何か書いてもらえませんか?」
「死んでる?」
「3年前で更新が止まってるんです。
せめて“田舎の日常”みたいなのを月1回でも……」
「私、写真撮る腕ないわよ?」
「大丈夫です!
文が面白ければ、猫の写真だけでいけます!」
……それ、どっちがメインなの?
とはいえ。
時給800円でも、月に1本でも、何かになる。
『0よりマシ』が、現実を支える魔法の言葉だ。
私は試しに、「猫とじゃがいも畑の写真」をスマホで撮って、文章をつけて送ってみた。
タイトル:
「うちの猫が畑を案内してくれた話(でも特に何も起こらない)」
数日後。
佐藤くんがメールをくれた。
『今月のPV、過去最高更新しました!』
……猫、強すぎる。
そんなある日。
家の玄関前に、段ボールが置かれていた。
「……ん?」
宛名は「まさこ様」。
手書きで「応援してます!」のメッセージ。
中身は──
大量のインスタント味噌汁と、お茶漬けの素、そして謎の手編みの靴下。
差出人は、町内の婦人会らしい。
「私、いつの間にか“町の人たちに見守られてる高齢者”になってない?」
猫のコウメが箱に入りながら、ゴソゴソと味噌汁の袋を踏みつける。
「それ、食べ物なのよ……」
夜。
例の味噌汁を飲みながら、私は真剣に考えていた。
あといくらあれば、余裕のある暮らしになるのか。
バイトは週に1回あるとして、プラス数千円。
あとは、野菜を交換するだけでは生きていけない。
「……物々交換は、税金がかからないからね」
我ながら発想がサバイバル寄りすぎて怖い。
翌日。
畑でじゃがいもを見に行くと、そこに誰かがいた。
「えっ……え?
コウメ!?」
猫じゃない。
明らかに、小学生くらいの女の子が畑にしゃがみこんでいた。
「こんにちは……」
「こ、こんにちは。
君、誰?」
「コウメちゃん、さわらせてくれたの。
ここ、毎日来てる」
「えっ、知り合い!?」
「うん、前から。
おばちゃん、コウメちゃんの家の人でしょ?」
コウメが、ドヤ顔であくびをしている。
「……あんた、近所の子どもに“私の飼い主”認定させてたの?」
猫は、答えない。
だがその日から、私の畑には近所の子どもがちょくちょくやってくるようになった。
理由は、「猫がいるから」。
そしてある日。
佐藤くんがぽつりと言った。
「まさこさん……
ここの畑、“猫と触れ合える場所”ってことで、町おこしの補助金が出るかもです」
「待って、それ、猫が主役じゃない?」
「……いえ、まさこさんと猫です。
“猫のついで”感は否めませんが!」
「否めないって言っちゃった!」
でも、いい。
もう笑うしかないし、笑えるうちは、きっとなんとかなる。
畑にはまだ芽も出ていないけれど、
私の人生には――なんか、芽が出そうな気がした。
ちょっとずつ、
私にも“居場所”ができてきた気がします。
次回、思いがけない来客がやってきます。
猫じゃありません。




