第三章 猫の行動に従っていたら、なぜか畑が始まった!?
まさこさん、畑にチャレンジ!
コウメがまた、じっと私の顔を見ている。
「なに?」
私は洗濯物を干しながら、猫の目を見返した。
コウメは無言でふわりと立ち上がると、こちらをチラリと見て、庭のほうへ歩き出した。
ついて来い、とでも言いたげに。
「……まさかね」
だが私は、気がつくと猫のあとを歩いていた。
洗濯ばさみを耳にぶらさげたまま。
猫は小さな石垣をひょいっと飛び越え、その先の草むらに消えていった。
その先には、使われていない小さな空き地──?
かつて畑だったような区画があった。
「ここ、空いてるのかしら」
しゃがみ込んで土を触ってみると、予想よりふわっとしていた。
乾いてはいるが、草の下にはまだ生きている土の匂いがする。
「……野菜って、どうやって育てるのかしらね」
なんの気なしに呟いた瞬間──
「ほっほー、まさこさん、畑はじめるの?」
振り向くと、くにえさんが立っていた。
手にはクワ。
背中には再び巨大な白菜。なぜ毎回持っているのか。
「いえ、猫についてきただけで……」
「よし!
それなら、まずはじゃがいもから!」
話を聞け。
翌日。
私はスコップを手に、空き地で穴を掘っていた。
なぜかというと、昨日の夕方、くにえさんが本気で種イモを持ってきたからだ。
「返却不可!」とマジックで書かれたビニール袋に入っていた。
コウメは、そんな私の足元で丸くなって眠っている。
「あなたがここに来なければ、私は今、昼寝でもしてたと思うのよ」
もちろん、猫は答えない。
それでも、ひなたでふくふくと眠る姿を見ていると、なんとなく気持ちが穏やかになる。
スコップの使い方は、意外と勘でなんとかなる。
土を耕しているうちに、じわじわ汗がにじんできた。
ああ、こういうの、人生で初めてかもしれない。
手のひらに豆ができて、腰が痛くて、息があがって。
だけど、悪くない。
「……でも、腰痛めたら終わりよね」
あまりにも現実的な自覚により、スコップを置いて深呼吸する。
「まさこさーん、差し入れ!」
また声がする。今度は佐藤くんだった。
紙コップのアイスコーヒーと、駄菓子屋で買ったようなうまい棒を持っている。
「疲れたときは、甘いものっすよ」
「これ、子どもが遠足で持ってくやつじゃないの?」
「自分も遠足気分で配ってるんです」
そう言って佐藤くんは、コウメにも何かを渡そうとする。
「ほら、猫用の……カリカリ。
ちゅ〜るは売り切れでした」
「猫に課金する時代ね」
コウメは無言でカリカリを一瞥し、そのままソッと地面をならし始めた。
それを見た佐藤くんが、感動したように言った。
「……畑仕事、猫と一緒って、なんか絵になりますね!」
「私、猫に指導されてるみたいになってるのよ?」
夕方、掘り返した土を平らにならし、種イモを数個埋めた。
「芽が出たら、それだけでうれしいかも」
無職で金もなく、体力も怪しくて、これといって未来もない。
だけど、土に種を埋めて、それを見守るという行為だけで、少しだけ心が明るくなる。
コウメが「ニャ」と鳴いた。
まるで、
「芽が出たら、味見くらいはしてあげてもいいわよ」
とでも言ってるような顔で。
「あなた、食べないでね」
猫は知らんぷりであくびをした。
夜。
久しぶりにちゃんとしたご飯──
くにえさんからもらった山菜おこわと、豆腐の味噌汁。
それを食べながら、今日掘った畑のことをぼんやり思い返していた。
あの空き地、いつから誰も使ってなかったんだろう。
なぜか猫があそこに私を誘導したけれど……たぶん、たまたま。
でも、その“たまたま”が、今日の一日を作ってくれた。
「……まあ、人生そんなもんかもね」
コウメがちゃぶ台に飛び乗って、ちょこんと私の横に座った。
なんだか、視線だけで「今日もお疲れ」と言われたような気がした。
次回は、村の支援に
まさこさんも仲間入り。




