第一章 家が崩れても生きてる私って意外と強い?
初めましての方も、そうでない方もこんにちは。
年金3万円で田舎に引っ越した50代独女が、猫と村人に人生をかき回されていく、
のんびりでちょっと騒がしい日常ものです。
クスッと笑えて、じんわり温かくなる物語を目指しています。
よかったら、肩の力を抜いて読んでみてくださいね。
この物語は、都会に疲れた50代独女が、猫と村人に人生をかき回されながら、ゆるゆる再スタートするお話です。
第一話は、家の中で出会った“最初の住人”との出会いから──
春。
さわやかな風にのって、どこからか牛の匂いがする。
「……ああ、これが田舎かあ」
私は縁側に座って、湯気の立たないインスタント味噌汁をすすった。
ガスコンロが壊れていて、仕方なく水で溶かしただけだ。
けれど、人間、空腹には勝てない。
家は、ひどい。
屋根の一部は抜けていて、天井の梁がまる見え。その梁の上では、たった今、ネズミが3匹、ダンスしていた。
私は見なかったことにして、さらに味噌汁をすすった。
「ま、屋根があるだけでも……贅沢か」
心の中でそうつぶやくと、急にズボンの裾がひっぱられた。
見下ろすと、そこには一匹の猫。
茶トラのふわふわ毛並みに、何かとても高貴な雰囲気がある。
「……誰?」
もちろん答えは返ってこない。
それでも猫は、当然のように私の膝に乗り、丸くなった。
この空き家の真の主は、この猫なのかもしれない。
私の名前は、村尾まさこ。
63歳、独身。
貯金は18万円。年金は……月3万ちょっと。
東京の団地で管理人をしていたが、団地が取り壊しになると聞いて即退職。
引っ越し先が見つからず、気がつけば「空き家バンク」に登録していた。
「築90年、風見町の古民家、無償譲渡。
修繕は自己負担」
その一文を読んだとき、なぜか胸がドキドキした。
恋でもするような気分だった。
まさか、そのドキドキが、“この家には床がない” という事実に対する予感だったとは、その時は知らなかったけれど。
玄関の戸は、開けるときに「ギィィ」ではなく「ギャギギャギャガァッ」と叫ぶ。
床板は場所によって沈み込み、歩くたびに「ピギィ!」と鳴く。
トイレはぼっとん。風呂は……薪式。
初日は、風呂に入る気力もなく、毛布にくるまって眠った。
天井が崩れ落ちてくる夢を見たけれど、幸い、起きたときにはまだ生きていた。
翌朝。
「やっほーっ!」
突然、窓の外から元気すぎる声が響く。
「新しい人?
来たって聞いたのよ!
あんただね?」
見ると、小柄でやたらと筋肉質なおばあさんが、庭に立っていた。
白髪をくるっと結んで、赤いジャージに長靴。
何やら巨大な白菜を2玉、背負っている。
「えっと……はい」
「私は山下くにえ、80歳!
この辺じゃ最年少なのよ!」
「……え?」
「年下なのよ!
うふふ!」
笑顔は眩しいが、目が怖い。
何かを言う前に、くにえさんは白菜を私の玄関にズドンと置いた。
「これ、今日の分!
あしたも持ってくるわね!」
「いえ、あの、1人暮らしなんですが……」
「じゃあ2日分ね!」
いや、ちが──
言いかけたけれど、彼女はすでに去っていた。
ジャージの背中に「青春」と書かれていた。
なんなんだ!?
猫(たぶん名前はまだない)が私の足元に座り、「ニャ」と短く鳴いた。
「あなたが一番まともに見えるよ」
そう言ったら、鼻で笑うように「フン」と鳴いて、また縁側に戻っていった。
午後、修繕道具を持って、天井の穴をどうにかしようと脚立に登った。
そのとき──
『バキッ』
──と、嫌な音がした。
私は一瞬宙に浮いたあと、派手に床に落ちた。
ホコリが舞う。
猫が「ニャァアッ!」と叫んで逃げる。
痛かった。
正直、泣きたかった。
でも、私は声に出して笑った。
「……ま、死んでないだけマシよね」
夜。
ふかしたジャガイモと、お茶漬け。猫にはかつおぶし。
テレビはないけれど、空はひろい。
ネズミもいない。
たぶん今日はどこかに出かけている。
私はちゃぶ台にもたれて、ゆっくりと息を吐いた。
「なんか……生きてるって感じ」
そうつぶやいた私の横で、猫がゴロリと喉を鳴らした。
明日も、ちゃんと起きて、なんか食べて、誰かに笑われて、
それでも私は、きっとこの町で、ちゃんと生きていくのだ。
猫、先に住んでました。
家賃ゼロ円のはずが、思った以上に“高くつく”予感がしてきました。
次回、新たな人物登場。
何か始まるかも…?




