第一章
「約束通り」
「よくやった」
「報酬は?」
「次の標的も合わせて支払う」
「次はだれを?」
「数日前に老いた爺さんの家に入った強盗だ」
「奴の特徴を詳しく教えてくれ」
「20にも満たない悪女だ」
「若いんだな」
「ああ、そうだ」
これで50回目の刺殺となる。これでボーナスをもらえる。
私はお金がなかった。少しでも儲けたくてこのアルバイトを見つけて応募した。人殺しとは聞いていなかったが、儲けられるならば人殺しでも構わなかった。
「奴の行動はまだわかっていないことだらけだ」
「私に一から調べると?」
「そうだ」
「わかった」
奴に探りを入れることから始める。
その日のうちに奴の家の屋根裏に入って盗聴器をつけた。
声が聞こえてくる。
「ジュリアちゃん、ごめんね」
「お姉ちゃん失格だね」
「もうちょっとだけ待っててね」
「明日の朝には食べ物を持って来るから」
20にも満たない少女は一人で妹を育てている。そしてその子は「ジュリア」という。そしてこの少女は「マリア」である。マリアもジュリアもハーフらしい。さらに、妹に食べさせるものがないほど貧しく、それが故に盗みをしていること。これを知ったことが今回の収穫だ。
この少女は毎日のように泣いていた。そして妹に謝っていた。
本来なら、もう撃っている。殺している。でも、気が引けて引き金が引けなかった。こんな気持ちは初めてだった。恋ではない。ただ、可哀想で仕方がなかった。
に女らはたれにも守られていない。だれとも関わりを持っていない。その世界観の中で、外界から票実上隔絶された空間の中にいる。まさに、現代社会の個た。たとえ彼女らが開死しょうと、だれも見向きもしない。ただネットニュースになって赤の他人にご表になって、人事を言われるだけ。最近の世の中は、こうも冷たい。
きっと、あの少女も同じことを思っている。
殺しの期日まではあと3日だった。そのところ、少女は再び民家に入ってものを盗んだ。
民家から出てきた瞬間に射殺。
とはできなかった。
あの少女によって、気づいてはいけないことに気づかされたからだ。
悪いのはこの社会全体と自分たちの組織であった。
苦しむ人を見て見ぬふりをする社会。
社会に見捨てられた社会的弱者を殺す自分たち。
そう考えると今までに殺してきた49人に対して申し訳ないのは当然のこと、自分というたったひとつの存在が生きていくために49人を殺したということに対する罪悪感が生まれた。
ならば、いない方がいいと思って銃口を自分の頭に向けた。
「さようなら」
その瞬間、後ろから抱きしめられて顔に布をあてられた。
気を失った。