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たぬきのつつみ

掲載日:2024/12/25

つづみは東洋の打楽器で、砂時計型の両端に皮を張ったものです。

武 頼庵(藤谷 K介)様の『24冬企画 冬の星座 (と)の物語企画』参加先品です。

既設の小説『魔法少女がピンチ! 黒衣の玉子様が助けに来た』の登場人物が出ますが、前作を知らなくてもお楽しみいただけます。


ある宮殿に一張(ひとは)りの(つづみ)が届けられました。

ふしぎな気品ある美しい鼓です。


王様は鼓をたたいてみましたが、なぜか音が鳴りませんでした。

楽師にも試させてみましたが、音がでませんでした。


楽師たちは、みかけだけの飾りの鼓ではないかと言いました。

しかし、王様はそうは思いませんでした。とても強い雰囲気を感じたからです。


王様が鼓のいわれを調べさせました。


その鼓は都から外れた山村に住む少年の持ち物で、美しい音を響かせていたそうです。

ある男が少年を殺して鼓を奪い取り、それを宮殿に売りつけたのでした。


驚いた王様は、鼓を盗んだ者を捕らえさせました。

そして少年のもとに使いを送り、それが本当に少年の持ち物か確認させることにしました。

 

少年の父親は宮殿を訪れて、鼓に触れました。

父親が鼓をたたくと、だれも聴いたことのないような美しい音色が響き渡りました。


王様は父親に鼓を返すとともに、少年を手厚く供養することを約束しました。


故郷にもどった父親は、夜空に輝く鼓の星に向かって、形見の鼓をたたきました。



 * * *


「……と、いうお話ですの。(のう)の脚本を、人形浄瑠璃(にんぎょうじょうるり)にアレンジしたものですの」


 夜道を歩きながら、巫女装束をまとった山宮サキが言った。手には台本のようなものを持っている。

となりを歩く小柄な女の子、原科ヨツバはサキの持つ台本を興味深そうにみていた。


 人形浄瑠璃は文楽(ぶんらく)とも言って、一体の人形を三人の操者が操る劇だ。

 大夫(たゆう)という語り部が三味線(しゃみせん)の響きに合わせて、セリフやナレーションを語る。


「サキちゃん、ここの紙が破れているね」


「はいですの。これは床本(ゆかほん)と言いまして、浄瑠璃のセリフが書かれたものですの。紙の封がされて売られていまして、読むときにそれを破ることを封切(ふうき)りと言いますの。このことから、公演が始まることも封切りと呼ぶようになりましたの」


「そうなんだ。映画でも最初の上映を封切りって言うよね。浄瑠璃の言葉だったんだ。ところで……」


 ヨツバは夜空をぐるっと、見まわした。


「鼓の星ってどれ?」


 その言葉に、サキはクスッと笑った。


「あれですの。オリオン座の三ツ星と、その周りの四つの星で鼓の形に見えませんか?」


 挿絵(By みてみん)


「あ、ほんとだ」


「それに、あの星々はヨツバさんの守護星とも言えますの。四つの足をもつ白虎の星座ですの。今は見えないですが、三ツ星の下に暗い星が縦に並んでいて、虎のしっぽになりますの」


「あ、オリオン座ってウチの聖獣の星座だったんだ。知らなかった」


 サキとヨツバは魔法少女である。

 半年ほど前まで、この町では異形の怪物による事件が多発していた。

 彼女たちは聖獣の力を借りて魔法少女に変身し、怪物と戦っていた。


 最近は怪物は出なくなっており、平和な日々が続いている。


「そうなんだ。じゃあ、サキちゃんの青竜の星座もあるの?」


「青竜は夏に見えるサソリ座の一部ですの、今は見えないですの」


 二人は雑木林の小道を歩いていた。


「サキちゃん、今日の仕事は鼓が入った(ほこら)の封印だって言ってたよね。さっきのお話の少年が悪霊になるのを防ぐのかな」


「少し違いますの」


 サキの説明はこれから向かう祠のことをヨツバに説明した。


 祠に収められている鼓は人形浄瑠璃の小道具で使われたもので、材料にタヌキの皮がつかわれた。

 本来は動物の皮を使うときにはお祓いをするのだが、この鼓ではそれができていなかった。


 芝居小屋の者たちがタヌキの悪霊に悩まされ、術者たちに頼んで祠に封じてもらったそうだ。


「かつて、わたくしたちが怪物と戦った頃、この辺りにも闇の力が届いていましたの。そのせいで封印が弱くなっていますの」


「ふうん。でも、再封印ってサキちゃんだけで大丈夫なの。宮司さんじゃなくて」


「おじいさまは寒さでギックリ腰が再発しましたの。でも、やり方はわかっていますの」


「せめて、イオリちゃんとノノちゃんもいてくれると心強いんだけど、ふたりとも追加の宿題で忙しいんだよね。今は駄菓子屋のお兄さんに勉強をみてもらっているらしいね」


 雑木林の奥に開けた場所があり、奥に小さな祠が見えた。

祠の修理に黒いモヤのようなものが漂っている。


「え? ……この感じって……。メグダゴンの怪人に似ている」


「ヨツバさん、気を付けて下さい。一歩おそかったみたいですの。残留していた闇の力で怪物化していますの」


 黒いモヤが塊となり、大人より大きな形になった。

真っ黒で、タヌキとヤマアラシを合わせたような姿だ。


「キシャアアアアーーーーー」


 その時、サキの左手の甲にトランプのスペード形のアザが現れた。

同時にヨツバの左手にクローバーのようなアザが浮かぶ。


 ふたりは手を合わせて合掌し、両手を前に出した。

両方の親指と人差し指の先を合わせ、三角形を作る。


「マウンテンパワー・チャージアップ!」


「サバンナパワー・チャージアップ!」


 両手の間に三角形の光が現れた。三角形がクルリと半回転し、六芒星となる。

そこからあふれ出る光の奔流が、ふたり身体を覆い隠した。


 セーラー服に似た胸装甲がふたりに装着された。


 サキの背後に高くそびえる山のイメージが浮かび、頂上付近から青く長い身体のドラゴンが舞い降りる。


 ヨツバの背後に黄金色に輝く草原のイメージが浮かび、真っ白なトラが駆けてくる。


 聖獣たちはカチューシャに変わり、彼女たちの額に装着された。

 サキの髪は青く、ヨツバの髪は金色に変わる。

 ふたりの目元をバイザーが覆った。


「そこまでです! セーラー服魔法少女キーシャポッポ、ここに参上!」


「同じく、ターンポッポ参上! この世の悪事をやめさせる。私たち……」


「「セラレンジャー!」」


 ふたりは両手を胸前でクロスしてポーズをとった。


 挿絵(By みてみん)


「キシャアアアアーーーーー」


 怪物はとがった大きなハリを全身から射出した。


 ふたりの魔法少女は左右に飛んで交わした。


「「ポッポロッド、キャイガーボール」」


 ふたりは卓球用ラケットに似た杖を取り出し、光の玉を打ち出した。


 玉は命中し、怪物が苦悶の叫びをあげた。


 ゴォオオオオオオオオ……


 怪物が大きく息を吸い込んだ。その腹が風船の様にふくらんだ。


「ガアアアアアアアアーーーーー」 


 怪物の咆哮(ほうこう)とともに、ふくらんだ腹に前足をたたきつけた。

衝撃波が発生し、魔法少女たちを襲う。

ふたりは跳ね飛ばされ、近くの大木に叩きつけられた。


「はぅっ……」


「くうぅ……」


 魔法少女たちは木の根元で片ヒザをついた。


 怪物の巨大バリが魔法少女たちに向けられる。


 その時、複数の黒い(つぶて)のようなものが上空から飛来した。

礫は怪物の足元でパパパパン!と炸裂した。


 魔法少女たちがそちらを見ると、近くの木の枝の上に人影があった。


 黒の燕尾服に黒のシルクハットを被っている。

こちらに背を向けて、黒く長細い旅ギターを鳴らしていた。

黒いマントが風になびいている。


 黒衣の者は演奏を止め、振り返った。

帽子をかぶった顔は目も鼻も口もなし、つるりとした焦げ茶色の玉子型の仮面をつけている。


「スカッと参上、スカッと回復。さすらいの回復師ハティ・ダンディ、ここに推参!」


 黒衣の玉子仮面は木から飛び降り、セラレンジャー達の横に立った。


「しっかりしろ、セラレンジャー。本日の回復アイテムはこれだっ」


 挿絵(By みてみん)


 黒衣の仮面は、包み紙にタヌキが描かれたお菓子を二人に渡した。

『チョコレートまんじゅう』だ。


「……はい。いただきます。ハティさん」


「ありがたく頂きますの。ハティ様」


 魔法少女たちはまんじゅうを口に入れる。

あんの甘さにチョコレートの香りがまざっていた。


「……うわぁ、おいしい。ウチ、パワー全開です」


「こちらもですの。ターンポッポ、わたくしが援護しますの。やっつけてください。ポッポロッド!」


「セラレンジャー! 今の幸せな気持ちを光に変えて、あの怪物を闇から解き放て!」


「……はいっ! ウチやります!」


挿絵(By みてみん)


 ターンポッポの背中からチョウの羽根に似たオーラが広がった。

その左手の上に強い輝きの黄色の光球が現れた。


 キーシャポッポがラケット型の杖で青く光る玉を飛ばし、怪物をけん制した。

ターンポッポは左手の光の球を軽く放り、ラケット型の杖を振るった。


「アババイボール・フラッフ・シュート!」


 光球はタンポポの綿毛のように小さな玉に分裂し、怪物に向かって飛んだ。

そして、多数の光る玉が連続してタヌキの怪物した。


「オオオオオオ……」


 怪物からまがまがしい気配が抜けていく。

 怪物の姿が白いもやに変わり、そしてゆっくりと消えていった。


「ハティ様もいなくなりましたの。ひさしぶりに会えたのにつれないですの」


「……たぶんまだすぐに会えると思うけど」


 ターンポッポのつぶやきはキーシャポッポには聞こえなかったようだ。


 ふたりは変身を解いた。



 * * *


 町の北側に広がるへの字山。

山のふもとにその駄菓子屋『射手舞堂(いてまうどう)』があった。


 挿絵(By みてみん)

 画・ひだまりのねこ様


 駄菓子屋のレジに立つ青年、児玉零司は店の中を見回した。

馴染みの中学生四人組は、店の中でチョコレートまんじゅうを物色しているようだ。


 レジにいる零司に向かって、イオリが声をかけた。


挿絵(By みてみん)


「ねー、零司くーん。いつものギターのBGMやってー」


「この店は演奏会場じゃないんだけどね」


 零司が答えると、ノノがイオリの肩に手を置いて言った。 


挿絵(By みてみん)


「いーじゃん、いーじゃん、零司さんのギターはあたしらもお客さんたちの大好きだぜ」


 サキのすまなさそうにペコリと頭を下げる。


挿絵(By みてみん)


「わたくしもききたいですの」


 ヨツバもピッと手をあげた。


挿絵(By みてみん)


「はーい。ウチもききたいでーす」



 零司は苦笑して、レジ横に置いてあったミニギターをとって演奏を始めた。




 イニミニ マイニモー


 こんどのオニは トラさんだ

 しっぽふりふり はしってる


 イニミニ マイニモー


 こんどのオニは カメさんだ

 つちのなかにも もぐれるよ


 イニミニ マイニモー


 こんどのオニは とりさんだ

 おおぞらたかく とんでいく 


 イニミニ マイニモー


 こんどのオニは りゅうさんだ

 およぐとはやいよ みずのなか

 イニミニ マイニモー



 歌い終えると、中学生たちはぱちぱちと拍手をした。


零司くんの歌うマザーグース"Eeny, meeny, miny, mo,"の原詩はこちらです。

元の詩ではトラしか出ません。


Eeny, meeny, miny, mo,

Catch a tigger by his toe;

If he squeals, let him go,

Eeny, meeny, miny, mo.

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回復アイテム、チョコレート饅頭は強力そうです。最近見かけなくなっちゃったけど、子供の頃大好きだったのよね。(←思い出した!)
青龍や白虎といった四神がモチーフの魔法少女ですか。 東洋要素が入ると、渋い感じがしてカッコ良いですね。
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