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放浪王女と護衛騎士  作者: 高取和生@コミック1巻発売中


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7/7

未来へつながる手

最終話

 王城前の広場に、王宮軍が整列していた。

 中央に立つのは、現国王。

 そして、その隣に立つレオナールは――剣を抜いていた。


「第三王女、パルファ・ネアダール。神託を拒み、王命に逆らった反逆者と認定する」


 その声に、城下町がざわついた。

 臆することなくパルファは歩み出る。


「……私は、何度もこの国のために生まれ変わった。

 でも、今の私は、“生きるために生きたい。誰かの都合じゃなく、自分の意思で」

「貴様が口を開くな!! 巫女は黙して祈れ!!」


 レオナールが剣を振り下ろす。

 だが。

 その刃は、キリアンの剣によって止められた。


「今この時、俺は国を斬る。パルファを守るために」

 彼の呪われた剣が、再び抜かれた。


 光が弾ける。

 キリアンの剣が、王家の軍勢の中心を切り裂いていく。


 そして――

 パルファの中に眠る神の声が、世界に響いた。


 「我、偽りの契約を破棄する――」


 王国の空が、亀裂を生じたように揺れる。

 偽りの神託は崩壊し、封じられていた真の歴史が解き放たれていく。


「私の未来に、あなたはいますか?」


 神託が破られたその瞬間――

 ネアダール王国の『神殿塔』が音を立てて崩れ落ちた。

 空は裂け、千年続いた偽りの祝福は瓦解する。

 右往左往する人々は混乱の中にあった。


「これは――“終末”ではない。始まりなの」


 パルファの声が、崩壊する空に響く。

 そして、彼女の背には翼のような光が生えていた。

 巫女としての覚醒が、完全に果たされた証。


「おい、パルファ。背中……!」


 キリアンの腕の刻印が、彼女へと流れ込み、消えていく。

「……これは?」

「……パルファが、俺の呪いを全部、持っていったんだよ」

 彼は力なく笑い、膝をつく。


 星が降るような静かな夜。


 王城の崩壊を逃れたふたりは、丘の上の古い聖堂跡に身を寄せていた。


「なあ、パルファ」

「うん……?」

「お前は……これから、女神になるんだろ。世界に新しい神託を下すんだろ」

「……そうだね……なる。なってみせるよ。自分で、決めたことだから」


「だったらさ。最後に、一つだけ、聞いていいか」


 彼はパルファの瞳を見つめた。

 その瞳には、神の力も、国の未来も揺れていたが、それ以上に、パルファ自身の意志が鮮やかにあった。


「――お前の未来に、俺は……いるか?」


 パルファは、すっと息を呑み、

 そっと、彼の頬に触れた。


「……バカ。最初から、ずっと一緒にいるじゃん」

「そう、か……」


 キリアンは、目を閉じた。

 その身体は、すでに限界を越えていた。

 アヴァロンを抜いた代償――命の炎は、静かに燃え尽きようとしていた。


 夜空に一筋の星が流れた。


キリアンの鼓動が、ゆっくりと凪いでいく。


「ちょっ、ちょっと待って……待ってよ、いやだ、いやだ、キリアン……」

 キリアンの口元に、薄く笑みが浮かんだ。


「こんな終わり方、嘘でしょ……!」


 その時。

 パルファの胸の奥で、光が渦を巻く。

 神の力でも、巫女の力でもない――それは、祈りだった。


「誰かの命に従って生きてきた。

 でも今は違う――私は“自分の命”を、あげたいって思ってる!」


 彼女の掌が、キリアンの胸に重ねられる。

 祈りの言葉が紡がれる。


「命を、くれ。……もう一度、あなたに会いたい」


 瞬間―。


 天から、星が降った。

 聖堂跡にまばゆい光が差し込み、

 ふたりの身体を包み込む。

 古き神々の契約を超えた、「新しい神託」が刻まれる。



 闇は、いつか消えていく。


 朝が来た。

 丘の上で目を覚ましたキリアンは、誰かの膝の上に頭を預けていた。

 見上げた先には――あの日と同じ、湖面のような青い瞳。


「おはよう、キアリン」

「……ああ。おはよう。キリアンだが」


 パルファの背から光の翼は消えていた。

 彼女は、神としての力を手放したのだろう。

 それは放浪王女の決意。

 女神や巫女ではなく、ただ一人の女性としての。



「女神さんになるより……護衛騎士さんの隣にいるほうが、私には大変そう。

 でも、きいとずっと幸せだよ」


 キリアンは照れたように笑う。


「そっか……俺、幸せな騎士だな」


 ふたりは手を取り合い、丘を下りる。

 その先に待っているのは、何の保障もない、普通の、誰のものでもない人生。


 でも、それでいい。

 繋いだ手を、もう絶対離さない!

楠結衣様主催の「騎士団長ヒーロー企画」に参加させていただきながら、完結まで1年半かかりました。

主催の楠様、お読みくださいました皆様、評価やブクマを下さいました皆様、本当にありがとうございました!!

パルファとキリアンの物語は続いていくでしょう。いつかまた、こっそりお話を投稿するかもしれません。

感謝をこめて。高取

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