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放浪王女と護衛騎士  作者: 高取和生@コミック1巻発売中


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5/7

過去は過去なんだよ、でも現在に至っている状況

 パルファの瞳に色が戻る。


「あのね……ちょっと思い出した。ちょっとだけ」

 パルファが目じりを拭う。


「あなたを殺したのね。生まれる前の世界で……」

「――それでも」

 

 キリアンは一歩、彼女へと近づいた。


「今世の俺は、お前を絶対に守る。たとえ世界を敵に回しても」


 カッコ良い。

 隣にいる騎士って、素敵だとパルファは思う。


 キリアンの言葉に、魔法陣が、止まった。

 封印の魔力は収束し、静けさが戻る。


 壁に描かれていたのは、剣に貫かれていた巫女だったはず。

 それが今は、騎士と巫女が向かい合う姿に変わっていた。


◇◇仄かな火


 夜。

 塔の上階、吹き抜けの窓から満天の星が見える。

 キリアンとパルファは、並んで腰掛けていた。


「ごめんねキリマン。私がふらふら出歩いているうちに、なんだか、とんでもない過去に出会ったみたいで」

「キリアンだ」

 キリアンは小さく咳払いをする。


「それでも、何かを探して放浪している、姫様に……俺は――惚れたようだ」

「……へ?」

「へ? じゃない」

「じゃあ、じゃあロリコン?」

「アホ!!」


 キリアンは、真面目な顔で言った。冗談ではない。

 ただひとりの女性として、彼女を見ていた。


「お前が王女でも、巫女でも、誰かの転生でも関係ない。

 ――俺にとって、お前は“パルファ”だ」


 パルファの頬が、ふわりと紅に染まる。

「……バカ」

「おやおや姫様、お顔が真っ赤」

「うるさい!!」



◇◇幕間:塔の最深部


 夜が更け、ふたりが眠る頃。

 塔の最下層の封印が、かすかに軋む。

 仮面の男がそこに立っていた。


「“再会”の段階は完了。次は“選択”だ……キリアン・ドルフェス、パルファ・ネアダール」

 仮面の奥で、男の目が細くなる。

「もしお前たちが、かつてと同じ“過ち”を選ぶなら……今度こそ、世界は終わる」

 闇が、静かに広がっていく。


◇◇旅路の果て


 白の封印城を後にして数日。

 道端の草木にも新たな息吹が舞う。


 だが、空気の軽さとは裏腹に、キリアンの表情はどこか冴えない。

 夜になると、彼の肌に黒い模様が浮かび始めていた。


「ねえ……その手。どうしたの?」

「……ちょっとした呪いの副作用」


 彼は笑って誤魔化すが、パルファには分かっていた。

 あれは“ちょっと”なんかじゃない。あの模様は、日ごとに広がっている。

「治せないの?」

「この呪いは、俺自身の選択に起因してる。“自分で断ち切る”しか方法はない」

「……選択?」

 キリアンは答えなかった。

 パルファはぶるっと体を震わせた。



◇◇過去の残響

 その夜。ふたりは古びた廃教会で野営をしていた。

 月明かりの中、キリアンは一人、教会の裏庭で剣を振っていた。

 まるで、自分の身体が自分のものでなくなることに抗うように。


 パルファはそっと近づき、彼の背に声をかける。


「……隠しごとは、嫌いだよ」

「……全部、話すべきかもな。今夜あたりは」


 キリアンは、剣を地に突き立てた。


「……三年前。俺は“王家の禁術”を討伐任務中に踏み越えた」

「禁術……?」

「命を代償に、“死者の力”を借りる術だ。仲間を救うために、俺は自分の寿命を“斬った”。その代わりに手に入れたのが、この呪いの剣」


 パルファは絶句した。

「じゃあ……あなた、あとどれくらい……?」

「多分、次にこの剣を抜いたら最後だ。俺の魂は砕ける」

「やめてよ!!」


 思わず、パルファは叫んでいた。


「死ぬなんて……死ぬなんて、嫌だよ……!」


 キリアンはゆっくりと振り返る。

 そして、初めて彼女の瞳をまっすぐに見た。

「じゃあ、教えてくれ。

 お前にとって俺は、ただの護衛か? それとも――」

 パルファは答えられなかった。

 心の奥で、確かに“名前のない感情”が芽吹いているのに。

 怖かった。

 それを口にすれば、何かが変わってしまう気がして。


◇◇王都からの使者


 その時――教会の鐘が鳴った。

 誰もいないはずの、崩れかけた塔の中から、金属の音が響く。


 パルファとキリアンが駆けつけると、そこには一人の騎士が立っていた。

 深紅のマント。金の装飾。

 そして、ネアダール王国の正規紋章。


「……兄様?」

 現れたのは、第一王子にして王国筆頭騎士、レオナール・ネアダールだった。


「パルファ。国に戻れ。今すぐだ」

 その声は冷たい。

 かつての優しげな兄の面影は、そこにはなかった。


「王宮が動き出した。お前を“祭壇”に立たせる準備をしている」


 キリアンもパルファも息を呑む。


「やっぱり……私が“巫女の器”なのかな……」

「違う!」


 キリアンが一歩前へ出る。

「彼女はただの器じゃない。“今を生きてる”人間だ。誰にも、勝手に捧げさせはしない!」


 レオナールが剣に手をかける。

「……ならば、力で止めてみせろ。呪われた剣士よ」

ええ、呪いとか流行りなもので、つい。

お読みくださいまして、本当にありがとうございます!!

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