表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
放浪王女と護衛騎士  作者: 高取和生@コミック1巻発売中


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/7

北の城って寒そうです

まあ、なんというか、ハイファン?

 人形兵の残骸がきらきらと床で光る。

 パルファはしばらく黙ってそれを見ていたが、ふとキリアンに尋ねた。


「……命を奪う者って、何?」


 キリアンは一瞬、答えに迷うような顔をした。

 だが、すぐに冗談めかして答える。


「さあね。女性のハートを奪う系?」

「ずえったい違う!」


 しかしその軽いやりとりの裏に、ふたりの心には重く刻まれたものがある。


 “命を奪う者と与える者”

 “再誕の巫女と、呪われた騎士”

 

 翌朝。

 パルファは宿の前で、髪に昨日の青い花を挿していた。

 それを見て、キリアンが口を開く。


「またつけてるのか。その花、枯れないんだな」

「うん。……不思議な。摘んでもしおれないし、水もいらない」


 キリアンが近づき、彼女の花をそっと指先でなぞる。

 触れた瞬間、花がふわりと淡く光る。


「……!」

「魔力反応だ。……お前自身が、魔力の源になってる」

 パルファの口が小さく開く。


「つまり、私が……花を咲かせているってこと? 魔力、で?」

「ああ。だが、同時に――何かが動き始める」


 パルファの喉が動く。

 キリアンの視線が遠方に移る。


「仮面の男の言っていた“北の境”。そこへ行かなければならないんだろう」


 ふたりは見つめ合い、頷いた。

 この旅は、ただの放浪ではないらしい。


「行こう、キロリン」

「キリアンだ。まあいい。“お姫様のわがまま”には慣れてるからな」


 朝霧が流れていく。道の先に微かに朝の光が差している。

 二人は歩き出した。



◇◇凍てつく地へ


 王都から北へ、馬車も通らぬ峠道を越え、パルファとキリアンは“忘れられた封印の地”へ向かっていた。

 そこは、地図に記されていない、あるはずのない“もうひとつの城”が構えている。

 それこそが、白の封印城、オビシグナ―トス。


 吹きすさぶ雪と氷に覆われた山岳地帯の頂に、白銀の塔がぽつりと佇んでいた。


「……こんな場所、ほんとに誰か住んでるのか?」

「寒そう……」


 凍てつく風の中でも、パルファの青い花は決して枯れず、淡く輝いていた。

 そしてその花が、塔の入口に近づくと……氷が砕け、静かに門が開く。


「これって、招かれてるのかな……」


 パルファの吐く息が白い。

 二人は足を踏み入れた。


 塔の中は、静かだった。それはもう、奇妙なほど。

 巨大な壁画が浮かびあがる。

 見たこともないはずの光景だ。

 

 だが、パルファの瞳は、確かに知っているようだ。

 中央に描かれていたのは、青い瞳の少女と、銀の剣を持つ騎士。

 そしてその騎士が、彼女の胸に剣を突き立てる場面。


「……これ……誰、かなあ」

「やめろ、見るな」


 キリアンが彼女を抱き寄せた。

 衝動だった。だが、それはただの護衛の反応とは言えないもの。


「その絵が真実を描いたものだとしても……俺は――」

「姫を刺す騎士、みたいな絵。青い目の姫様……」


 パルファは頬に手を当てて、静かに絵を眺めている。

 キリアンはパルファを抱いたまま、思考を巡らせる。


 キリアンの胸の奥にちらつく、かすかな痛みと不協和音。


 ――炎。

 ――剣。

 ――誰かの「くれ」という声。

 そして……。

 

 泣いていた少女。


 突然、塔全体が震えた。


「……なに?」


 氷壁が砕け始める。

 パルファの胸の花が強く光を放ち――次の瞬間、彼女の身体から、光の奔流が吹き出した。


「パルファ!」

「……熱い……なに、これ、わたしの中、なにかが――」


 足元から浮き上がる魔法陣。

 彼女の身体を中心に、塔全体が何色もの光の帯に包まれていく。

 さらに……。


 「解放コード、認証完了」

 それは無機質な音声。

 次の瞬間――

 パルファの瞳が蒼ではなく、“白”に染まった。


 「パルファ! 聞こえるか!? 戻れ、戻って来い!」


 塔の光がキリアンを弾き飛ばそうとする。

 だが、彼は剣を抜かない。手を、伸ばす。指先まで力を込めて。


 「俺は、お前を守る。何度生まれ変わっても、絶対に」


 キリアンの声に呼応するように、塔の魔法陣が軋んだ。

 パルファの身体に宿っていた“記憶”が、少しずつ彼女自身に戻り始める。


 ――炎の中、抱きしめてくれた腕。

 ――焦げた空気の中で、「くれ」と願った声。


「キ、キリラン……わ、私、思い出した」


 彼女はゆっくりと振り返る。

 白く染まった瞳の奥から、空の色が広がり始める。


「そうか、……だが俺はキリアンだ」

すみません、いつの間にかシリアスダークっぽくなっていまして。

お読みくださいまして、本当にありがとうございます。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ