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放浪王女と護衛騎士  作者: 高取和生@コミック1巻発売中


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3/7

ええ、そんな御大層な話だったっけ

いや、こんな話になる予定では……。

 三日後。


 パルファとキリアンは、古地図にだけ記された「忘れられた祭祀の遺跡」に足を踏み入れていた。

 岩壁の間にひっそりと口を開ける石の回廊。誰にも知られぬように、苔むし、草に埋もれたその場所には、奇妙な文様が刻まれていた。


「……ここ、私、夢の中で何度も見た」

「夢?」

「うん。真っ暗な中で“誰か”が呼んでるの。……ずっと、ここに来いって」


 キリアンは壁の文字を指でなぞった。

 古代ネア語――王国の前身となった古文明の言語だ。


「『命を与えし者、命を捧げよ』……か。ずいぶん血なまぐさい碑文だね」

「怖い?」

「いや、もっと怖いのは――ここに、俺の家紋が刻まれてること」

「え……!?」


 パルファが駆け寄る。

 そこに刻まれていたのは、確かにキリアンの家、ドルフェス家のものだった。

 現在、宰相家として知られるドルフェス家は、数百年前の古文書では「禁術を封印した一族」として記録されている。


「でも、そんな話は公式には存在しない。おとぎ話の一部さ」

「つまり――」

「俺たちは、禁じられた何かの中心にいる。……お姫様も、俺も」



 遺跡の奥で、パルファは一本の花を見つけた。

 透き通るような青――まるで彼女の瞳と同じ色をした花。


「これ、母様がよく飾ってた……。でも、王都にはもう咲かないって言われてる」


 ふと、キリアンがその花を摘み取った。

 そっと、彼女の髪に挿す。

「……よく似合う」

「にゃ! な、何を」

「こういうこと、言われ慣れてないでしょ?」

「う、うるさいにゃ!」


 パルファは顔を真っ赤にしてそっぽを向くが、その頬はどこか緩んでいた。

 キリアンは何も言わずに笑った。


 その時だった。

 足元の石が沈み込み、遺跡の壁がずずず……と音を立てて開き始める。

 空気が変わる。重く、湿った、魔術的な気配。


「やっぱり、花は鍵だったんだな。……中に何があるんだ?」

 開いた先は、階段だった。

 黒曜石のように磨かれた壁面には、パルファとそっくりの顔立ちの女性が描かれている。


「これ……母様……?」


 キリアンは壁を見つめる。


「いや、違う。これ、千年前の王女だ。記録に残ってる――“蒼の巫女”」


 その時、パルファの耳元に囁きが届く。

「……して、“くれ”」


 その声に、パルファは両手で耳を覆う。

「――また!」


 遺跡の奥で見つけたもの――それは“血と契約”の書かれた封印文書。

 キリアンはパラパラと文書を捲る。


「なんだって!」


 かつてネアダール王家が、禁じられた生命魔術を使い、「命を紡ぐ巫女」を代々生み出していたという秘密。

 パルファは、その“巫女の転生”である可能性が高かった。

 その命は、国家の礎。戦争の兵器。繁栄の根源。

 だが――本人だけが、そのことを知らされずに育ってきた。


「……知らない知らない、そんなこと。誰も教えてくれない」


 パルファの目に涙がにじむ。

 そんな彼女の手を、キリアンは迷わず取った。


「王家の秘密なんか知ったことか。俺は一人の騎士として、パルファ、君を守るから」


 キリアンの言葉は、パルファの胸を温かくした。

 そして王女と騎士は手を繋ぎ、遺跡を離れた。


 その夜、宿に戻った二人の前に、仮面の男が現れる。

 

「ようこそ、選ばれし者たち。契約の子と、契約を破る剣よ」

 男は語る――

 

 王国は再び、巫女の力を必要とする時代へと向かっている、と。

 そして、キリアンには“選ばれし裏切り者”としての役割があることも。


「君が命を救ったあの日から、すべての運命は巡り始めた」

「なぜ俺が?」

「君は、呪われた血の末裔。“命を奪う者”の器なのだから」


 王家の“裏の歴史”、ドルフェス家に伝わる“禁術の継承者”、

 そして「命を与える巫女」と「命を奪う剣」の再会。

 パルファとキリアンは、自分たちが単なる王女と騎士ではなく、

 “命の均衡”を保つために仕組まれた存在であること仮面は言う。


 それでも――

「運命なんかより、私は私を選ぶ。私を護ってくれる人を選ぶよ」


 パルファのその言葉に、キリアンは確かに心を撃ち抜かれた。

 護るべき存在、なんて甘いものじゃない。

 繋ぐ手を、絶対離したくない存在。


 それはもう、身分も立場も越えてしまう感情だった。



 月の光が冷たく地面を照らす。

 簡素な宿屋の部屋に、いつの間にか入り込んでいた仮面の男は、、パルファを見据える。

 しかし、敵意はない。ただ、何かを探るような気配。


「お前、何者だ?」


 キリアンが半身をずらし、パルファの前に出る。

 細剣に手をかけたその仕草に、男は小さく笑った。


「まだ剣を抜かぬか。……ならば、試すとしよう」


 仮面の男が、指を鳴らす。

 刹那――

 空気が歪み、部屋の周囲に無数の兵士らが出現した。

 漆黒の金属でできた、無表情の戦士たち。

 魔術と錬金術で造られた無機の兵。


「逃げろ、姫」

「待って、でもあれ……」


 パルファは目を凝らす。

 人形兵のその胸に、見覚えのある紋章が刻まれていた。


「これ……このマーク、見たことある!」

「何?」

「“アーセラ騎士団”の印……でも、あの騎士団は……」


 キリアンがその名に、わずかに反応する。


「アーセラ……? おい、それって確か、王家直属の禁衛隊じゃ――」


 パルファが立ち上がり、仮面の男をまっすぐ見つめた。


「……これ、あなたが作ったんじゃない。“残した”んでしょ?」

「よく気づいたな。……やはり君は、“本物”だ」


 男が手をひと振りすると、人形兵たちは一斉に崩れ、金属片へと戻った。


「今はまだ戦う時ではない。これは“問い”だった。君たちに謎を解く資格があるかの」

「……答えは?」


 キリアンが肩越しに尋ねると、仮面の男はかすかに頷いた。


「及第点。次に進むがよい。“真実”は、北の境に眠っている」

 次の瞬間、男の姿は霧のように消え去った。

もう少し続きます。

今回もお読み下さいまして、ありがとうございます!!

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[一言] この桜吹雪に見覚えがねぇとは言わせねぇぜ!
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