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放浪王女と護衛騎士  作者: 高取和生@コミック1巻発売中


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2/7

捕まえた、のか

ここから大幅改編しています。新作と言えるかもしれません。

 さて、城を抜け出し見事行方不明となった王女パルファだが、すたすた歩いて王宮から二里以上離れた森に辿り着いていた。

 いつものように切り株に座り、持参した革袋から水を飲む。

 足元に寄ってくるネズミやウサギにも、ちょっぴり水を与える。

 ついでにポケットに忍ばせた、木の実なども与える。


 心地良い、緑の風が渡っていく。

 木漏れ陽の方向から、この場所でいいだろうとパルファは思う。

 パルファは髪を結んでいたリボンを解き指に巻く。

 リボンを巻いた指にもう片方の手を添えて、彼女は呟く。

 

「光よ風よ。教えて……」


 パルファが言葉を発した途端、突風が木々を揺らした。


 ◇◇


 花咲き乱れる丘陵地帯――その奥にある、農村とも山村ともつかない集落。

 王城から馬で三日、徒歩で五日の距離にあるこの場所に、第三王女は“また”いた。


「パルファ王女殿下、お迎えにあがりました」


 そう声をかけたのは、金属の鎧も軍馬も持たない、見るからにやる気のなさそうな青年だった。

「ふーん?」


 木にぶら下がり、逆さのままキリアンを見下ろすパルファは、全身に草や花びらをくっつけた野生児のような姿をしていた。

 よく見ると、足元に小さな鳥が群れている。そのうちの一羽がキリアンの肩にふわりと舞い降りた。


「きみ、誰?」

「キリアン・ドルフェス。今日から殿下の専属護衛騎士っす」

「……あんた、護衛って顔じゃない」

「うん、よく言われる。褒め言葉として受け取っとくね」


 パルファは木から飛び降り、軽やかに着地すると、つかつかとキリアンの前に立った。

 水面のようなその瞳が、まっすぐに彼を見つめる。

「私、勝手にどっか行くよ? 置いていくよ?」

「勝手にどっか行くなら、勝手についてくだけっすよ」


「夜中に逃げても?」

「夜中の方が静かで歩きやすくて好き」

「変装して逃げても?」

「むしろ、変装手伝うよ」

「……」


 視線をキリアンに向け、ちょっとだけ睨むパルファ。

 睨まれても、臆することなく飄々と笑うキリアン。

 数秒の沈黙のあと、王女が小さく呟いた。


「なんか、めんどくさい、コイツ」

「それ、ボクの台詞」


 一方、王都――。


「キリアンの奴、ちゃんと王女を連れ帰ったのか?」


 執務室で書類の山に埋もれながら、宰相ドルフェスは小型の通信水晶に話しかける。

 相手は、王城に残った近衛騎士団の副官だ。


『はい、連絡がありました。王女殿下は現地で“満足したら帰る”そうです』

「何をどう満足したらなんだ!」


『王女殿下は“お腹いっぱいになったら帰る”と仰ったそうです』


「猫か!! ……いや、やっぱり猫だったわ……」

 疲労のため、宰相は机に突っ伏した。




 その夜、パルファとキリアンは小さな焚き火を囲んでいた。

 鳥たちが静かに木の上で眠る頃。

 パルファが、ふいにぽつりと尋ねた。


「ねえ。キラリン」

「キリアンです」


「前に……誰かを、助けたことある?」

 火の揺らめきの中で、その横顔がほんの一瞬だけ強張ったように見えた。


「助けたっていうか……まぁ、勝手に身体が動いただけかな。もう、昔の話だけどね」

「……その時、何か言われた?」


 水面のような瞳が、じっとキリアンを見つめる。

 キリアンの手が、焚き火の小枝を掴む手が、ぴたりと止まった。


「――くれ」

「……え?」


 パルファの瞳が見開かれる。目が開いたばかりの子猫みたいだ。

 キリアンは、パルファの視線を見ながら思う。


「ずっと……探してた。あの時の人を――あの時、私を助けてくれた“誰か”を」


 焚き火が、ぱち、と音を立てた。

 二人の影が、ゆらゆらと揺れる。

 微かな記憶を掻き立てるかのように。


 第三王女パルファと、元・天才騎士キリアンの旅は、ここから始まる。

 王国に迫る影。

 封じられた記憶と封じたものの存在。


 そして「くれ」と聞こえた、あの夜の真実とは……。


 王女と騎士の旅は、始まったばかり。

お読み下さいまして、ありがとうございます。

完結保証、と言いたい(言えよ)

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― 新着の感想 ―
[一言] ウサギは必要です( ˘ω˘ )
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