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プロローグ

連載ですが長い話ではないです。

本作は楠結衣様主催の「騎士団長ヒーロー企画」参加作品です。

 プロローグ


 熱い……。背中が熱い。

 というか痛い……。

 火炎じゃなく、熱風だけでこれかよ。


 痛みすら、もう分からん……。


 焦げる臭い。

 髪かそれとも肉か……。

 ヤベえ。

 息が出来ねえ……。

 胸が苦しい。


 でもまあ、せめて最期に助けられた、か。


 もぞりと、腹のあたりが動き、ぐいっと何かが顔を出す。

 つぶらな瞳が俺を見た。

 透き通った湖面みたいな目だ。


 薄れていく俺の意識が最後に捉えたのは「……くれ」という囁き。



 ◇◇放浪王女



 パルファは窓を開け、外へ出る。

 初夏の風は心地良い。

 別邸の庭園には季節の花が咲き、小鳥が囀っている。


 色鮮やかな一羽の鳥がパルファの肩に止る。


「うんうん。分かった。あそこだね」


 パルファは人差し指を立て、くるくる回しながら歩き出した。

 髪を縛る青いリボンも、風に乗りくるくる回った。



 ネアダール国国王は、廊下を走ってくる厳めしい靴音にため息をつく。

 想定通り、宰相が、勢いよくドアを開け、国王の執務室に入って来る。


「騒がしいぞ、相変わらず」

 手を休めずに国王は言う。

「暢気なことを。第三王女殿下が、行方不明なんですよ!」

「ああ、またか」


 顔色一つ変えない国王に宰相はイラっとする。

「もちっと驚け」

「君主たる者、感情を出してはならん。……ていうか、お前も相変わらず、言葉使いがなっとらんな。なんつうの? 一応敬意を表してだな。俺国王だし」

「尊敬できる相手には、敬語使っとるわ」


 国王と宰相は従兄弟同士で元同級生だ。

 二人きりの時は、子ども時分と同じようなレベルの会話になる。


「そんなことより、王女殿下のことだ。どうするよ」

「ま、お腹が空いたら帰って来るだろう」

「王女は猫か!」

「うん、カワイイ猫だな」


 宰相ドルフェスは「ケッ」という顔をする。

 第三王女を国王が猫可愛がりしているのは有名だ。

 第三王女殿下パルファは御年十五歳。

 亡き王妃に似た、シルバーブロンドの髪と水色の瞳を持つ愛らしい王女である。

 末の子どもなので、国王はひたすら溺愛した。

 溺愛だけした。


 しかし王族として必要な、躾も教育も放棄している。

 だいたい王女が暇だから、かどうかは知らないが、年中行方不明になるってどうよ。

 国王や兄王子や姉王女、何してるの? バカなの?


「ところで宰相。パルちゃん……パルファ王女の護衛騎士って何してるの?」

 宰相は苦い味を堪えたような顔で答える。


「いるさ、そりゃ。王国近衛騎士団が一日中護衛しとる」

「じゃあ、そいつらの不手際ってことで、処分しなくちゃならんねえ」


 宰相の顔色は赤くなったり青くなったりする。

 近衛騎士団の団長代理は宰相の息子だ。

 つまりは騎士たちの不手際の、最終責任を負う立場なのだ。


「入れ替わり立ち代わりじゃなくってさ、王女専属の護衛をつけとこうよ。うん、それがいい」

「お、お言葉ですが陛下。騎士団はいずれも過重負担の『黒い職場』と言われているんですよ。放浪癖のある王女のために、専属騎士を一人つけるなんて、後々貴族評議会で問題に……」


「いるでしょ、一人だけ。王女の専属護衛につけても何ら問題がない。よって貴族も誰も文句を言うことのない『遊び人』の騎士が」


 宰相は、うぐっと変な声を出す。

 そうきたか。

 この国王、いつもはヘラヘラしているが、こういう時に、一番痛いところをついてくる。


「君んトコの次男だっけ。負傷して病休取ってる騎士団の団長」

「はあ」

「名前は、えっと、キラリン?」

「キリアンだ!」



 国王の執務室から飛び出た宰相は、すぐさま側近に告げる。


「キリアンを呼びつけろ! 今すぐ!」





 ◇◇遊び人の護衛騎士


 キリアン・ドルフェスはドルフェス家の次男。

 だが宰相の血を引く男子は彼だけだ。

 十代後半で王国騎士団の副団長に抜擢されたキリアンは、卓越した剣技と頭脳を併せ持つ逸材と言われた。


 きっぱりと過去の話である。

 ある時討伐した魔獣に、呪いをかけられたとか何とかで、今じゃ隊長の肩書だけ持つ市井の遊び人。

 剣を持つことを忘れ、夜な夜な女性の手を取り何処かへ消えていく、とか。

 実家にも騎士の宿舎にも帰らず、娼館を根城にしている、とか。

 全身、タトゥーをいれているとか……。


 とまあ、ろくでもない噂にまみれている。

 突き抜けて整った外見と、ダダ漏れの色気が噂に拍車をかけてもいる。




「こんな朝っぱら何の用ですかぁ」


 大きなあくびをしながら登城したキリアンは、隊服を着用していない。

 しかもドルフェス家特有の濃い紫色の髪を、肩よりも長く伸ばしている。


「なんだそのだらしなさ。騎士たるもの、髪の長さは耳よりも短くが基本だろ!」

「やだなあ、パパ。自分の頭髪が寂しくなったからって、ボクの髪に嫉妬しちゃって」


 宰相の額(やや広い)に、ビキビキと血管が浮かぶ。

 このまま右フックを思いきり、ヘラヘラした横顔に叩き込みたいと、心底宰相は思った。


「キリアン近衛騎士団長に王命が下った」

「うそ――ん」


 このガキ、本当にしばくぞ。

 という目付きで宰相はキリアンを見た。


「王命って、何それコワイ」


「怖くはないけど、大切なお役だ」


 いつの間にか宰相の後ろには国王がいた。

 さすがにキリアンも臣下の礼を執る。


「でさ、陛下。ボク何すれば良いの?」


 ため口かよ、と思ったが国王の表情は変わらない。


「ネアダール国国王の命により、第三王女パルファ直属の護衛騎士となれ」

「御意」


 少しだけ。

 ほんの少しだけキリアンの目に光が宿ったのを国王は見た。


「頼んだぞ、キロリン」

「キリアンです」


 こうして放浪癖のある王女と、遊び人の護衛騎士の物語が始まるのだ。

俺たちの戦いはこれからだ、みたいなプロローグでした。

お読み下さいまして、感謝です!

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