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 馬の蹄の音と、木製の車輪が石畳を叩く音が屋敷の目の前で止まった。


「ウト様。出立の用意が整いました」

「わかった。アリエとメリーアは?」

「広間で待っております」


 書斎で本を読んでいたウトは、迎えにやってきた執事、ニコラスに返事をしながら本を閉じた。これからアリエは王都中心部にある学校へと入学する。既に入寮の準備は済んでおり、今日から屋敷を離れることになる。


「ウト! 遅いよ!」

「悪い悪い」


 二階にある書斎から降りてきたウトにアリエは待ちきれないといった様子で文句を言う。その表情は実に朗らかで、今日を楽しみにしていたことが、誰が見てもよく伝わってくる。


「ニコラス。俺たちがいない間、屋敷のことは頼んだ」

「畏まりました。アリエ様、いつでもお帰りをお待ちしております」

「うん! 行ってきます!」

「よし、アリエ、メリーア。出発だ」


 使用人一同に見送られ、三人は学校へと向かう。アリエの世話役としてメリーアが同行し、御者もメリーアが務める。ウトはアリエの護衛という名目で二人についていく。


「それではお嬢様、ウト様。何かあればなんなりとお申し付けください」


 決して大きくはない馬車にウトとアリエは乗り込む。装飾もほとんどなく簡素、よく言えばシンプルな馬車だ。

 小窓から木組みと石造りのローテンブルクのような街並みが流れていき、アリエはそれを興味津々に眺めている。この八ヶ月で街の中をたくさん見てきたが、やはりアリエは、貧民街と比べ全く別の街と言えるほどの綺麗さに目を輝かせている。


「ウト。学校楽しみ!」

「ああ。そうだな」

「この制服も可愛いし!」


 アリエは下ろしたての制服を自慢するように手を広げ、うっとりとした表情で見下ろした。ネイビーのスカートに白いシャツを合わせ、その上からスカートと同じ色のジャケットを羽織っている。

 貧民街で男の子として過ごした影響もあり、アリエは人一倍女の子らしい装いに憧れていた。年相応の喜び方をするアリエを見て、ウトは頬が緩む。


「楽しんでくれていいが、目的も忘れるなよ」

「もちろん!」


 入学しないウトの代わりに学校での情報を収集するのがアリエの役割だ。

 赤いチェック柄のネクタイの締め具合を確認し、アリエは「よし」と気合いたっぷりに呟いた。

 メイソンの屋敷から学校までは、およそ一時間ほど。馬車に揺られ楽しい時間を過ごした二人は、貴族が通う学校に着いて度肝を抜かれることとなった。



「でか……」

「広いね……」


 ゼルベート王立学院。貴族級の人間が通う、武と魔法と教養を学ぶ場所。貴族の仲間入りを果たさなければ一生縁のないこの場所は、二人の想像をはるかに超える大きさだ。

 広く綺麗な校舎。玄関口である校門は精緻な鋳物で作られている。高い塀に囲まれ、門兵の隙のなさといい、さながら要塞だ。


「歩いて見回るのも大変だろうな」


 気後れする二人だったが、メリーアが操る馬車が正門前に停まり、おっかなびっくり馬車から降りる。


「それじゃ、行ってくるね!」

「行ってらっしゃい。メリーア、アリエのことは任せたぞ」

「お任せ下さい!」


 別れを告げ、二人が校舎に向かう姿を見届けたウトは、御者台に乗り込み再び馬車を走らせた。


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