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乗っ取り

「俺は地下に用がある。普段通りにしていろ」

「地下?」

「知らないのか?」


 ウトの発言に、使用人一同は頭に疑問符を浮かべる。ウトはそれぞれの表情をよく観察するが、誰一人として嘘をついているようには見えない。


「そこの執事。俺についてこい」

「は、はい」


 ウトは初老の執事を一人選出し、アリエと三人で地下牢へ向かう。メイソンの書斎に隠し扉があり、そこから地下へと続く階段が伸びている。


「こんな場所があったとは……」

「メイソンの悪事について、何も知らないようだな」


 暗い階段を降り地下牢を目にした執事は、拷問器具の多さや惨状に言葉を失った。

 ウトはそんな様子の執事を一瞥して、メイソンの元へ向かう。


「だ、旦那様!?」


 執事の男は衰弱したメイソンを見つけて、はっと息を飲み込んだ。拷問部屋の片隅では、虚な瞳をしたメイソンが「助けてくれ……」と闇を見つめながら呟いていた。


「こいつは奴隷に対し非人道的な行為をしてきた。その報いを受けさせている」

「……」

「その証拠を見せてやる。ついてこい」


 ウトは狼狽える執事を強引に拷問部屋から連れ出し、隣の牢へと足を運ぶ。二人分の格子牢が、メイソンがいる部屋の対面にある。片方は鍵がかかっておらず、もう一方にはエルフの少女が囚われていた。


「これは……」

「逃げられないように足の腱を切られ、鞭に打たれ性的な虐待を受けたんだろう」


 そう告げエルフを見下ろすウトは、魔法で牢の錠を破った。エルフの周りには血の跡があり、食事用と思われる皿には乾いた吐瀉物が入っている。


「ひっ……」

「大丈夫だ」


 ウトが牢の中へ一歩足を入れると、エルフの少女は小さい悲鳴を上げ怯えた目でウトを見上げた。細い体がガタガタと震え鳥肌が目に見えるほど立っている。


「ウト。この子のこと助けたい」

「そうだな」


 ひどく怯える少女の姿を見ていられなくなったアリエは、ウトの袖を掴み懇願する。ウトはその頼みを飲み、エルフの少女を連れ出そうとするが、


「いやぁ!」


 両手を鎖に繋がれた少女は必死に抵抗する。足は使い物にならないが、そんな体でも少女は必死に抗う。ただでさえボロボロな体が、暴れたことによりさらに傷つき、手首が鎖に擦れ赤くなっている。

 無理やりに連れ出そうとするのは少女の体に良くないと判断したウトは、闇で少女の視界を覆い気絶させた。


「執事、空いてる部屋はあるか?」

「は、はい。一階に一部屋。客人用の寝室がございます」


 ウトはエルフの少女を抱え執事の男に案内させる。寝室に少女を運び、使用人を働かせエルフの少女を介抱していく。

 少女の治療はアリエが率先して行った。傷口を消毒し、包帯を巻き、折れた足は添木で固め、後は安静にする。


「傷を治すような魔法は使えないから、治るまでは絶対安静だな」

「ありがとう。ウト」


 一仕事終えたウトとアリエは、今後の話し合いのために食堂へと戻った。



 その後、ウトは使用人たちに絶対の服従を誓わせながらも、今まで通りの待遇を保証した。使用人たちもメイソンの横暴な態度に辟易していた部分もあり、また、ウトの力に対する恐怖から従順な姿勢を示した。


 初めはいつ殺されるかわからない恐怖に、使用人たちから緊張と不安の表情が拭えなかったが、アリエの活躍もあり、二人が使用人たちに受け入れられるのにさほど時間はかからなかった。ウトは他人に対してすごく冷たい態度をとるが、それをアリエが裏でフォローし、またアリエの人柄もあり信頼関係が僅かな時間で築かれた。


 そして、ウトとアリエはメイソンの養子となり貴族としての地位を手に入れた。同時に、貴族となり領地などの仕事と責任が発生した。

 二人は、執事の男ニコラスに勉強を見てもらい貴族としての作法などを覚えつつ、仕事はしばらくの間メイソンの補佐官をしていた男に丸投げした。


 アリエはメイソンの養子として公に姿を見せるため、ウトよりも多く社交の勉強に励み、ウトは時が来るまで身を隠すことにした。


 エルフの少女メリーアもすぐに回復し、アリエ専属従者として働きながらアリエに簡易の魔法を教えるようになった。

 そうして穏やかな生活の中、八ヶ月の時が流れた。

 貴族としての生活が板についてきた頃、アリエの王立学園への入学が決定した。


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