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襲撃

 メイソンの屋敷入り口には門番が一人。革鎧を身につけ、腰に剣を佩いている。軽装の門番は寝不足なのか、暢気に欠伸をしている。


「すみませーん」

「なんだ?」


 ウトとアリエは門番へ堂々と接近する。街用に身なりを整えた二人を門番はまだ警戒していない。


「こちらはメイソン伯爵の御宅で間違いありませんか?」

「そうだが」

「私、アリエと申します。メイソン伯爵に面会させていただきたくて」

「面会? そんな話は聞いてないぞ」


 アリエの申し出に対し訝しげな目を向ける門番は、二人に対する警戒を強めた。傍にいるウトは両手を上げ、無抵抗の意思表示をする。


「確認してくる。そこで待ってい──」


 門番がそう言って屋敷へと向かい二人に背を向けた直後、門番はバランスを失い前のめりの倒れた。


「だ、大丈夫ですか!?」


 慌ててアリエが駆け寄り門番を介抱する。


「貧血だ。ウト!」

「ああ。屋敷に運ぼう」


 満面の笑みを浮かべるウトは門番を担ぎ上げ、堂々と屋敷へと足を進める。門番の首筋には何かに打たれたような赤い痕ができていた。


「日当たりいいけどバレずに魔法使えたね」

「影から服の内側を通してやったんだ。これなら、人に見られることもないだろう」


 そのまま二人は屋敷の扉を開け、中への侵入を果たした。


「家の中に入ってしまえばこっちのもんだ」


 ウトは門番を床に下ろしアリエの手を取る。そのまま魔法を発動させると、屋敷の中が闇に包まれた。


「キャーッ!」


 突然暗くなった屋敷内から女性の悲鳴が響く。アリエも中で何が起こっているかわからず、ウトとの繋がりを確かめるように、握る手に力を込めた。


「大丈夫だ。俺はここにいる」

「うん」


 返すようにウトの言葉が耳を打ち、アリエは安心してウトに身を任せる。


「うーむ、魔法が使える奴がいるな」


 闇コガネを通して屋敷を監視しているウトは、使用人の中に簡易の魔法が使える人間を見つけた。


「一箇所に人を集めてくれるなんて優しい奴だ。アリエ、俺たちも動くぞ」


 魔法で光を出した使用人が、屋敷の仲間たちを食堂に集めていた。ウトは闇の中であっても視界良好である。それもそのはず、闇そのものがウト自身であるため、たとえ目を瞑っていたとしても、ウトには屋敷の間取りが手に取るようにわかってしまう。


 少し歩けば、食堂から柔らかい乳白色の光が漏れているのが見えた。既に使用人は全員集められており、謎の現象を解き明かそうと話し合いが始められていた。


「私は旦那様を起こしに行ってくる。みんなはここに待機していてくれ」

「その必要はない」

「──!?」


 突然現れたウトの声に、使用人が一斉に食堂の入口を振り返った。


「この屋敷は俺が占拠した。そして、メイソンは殺した」

「だ、誰だお前!?」

「お前たちには選択肢をやろう」

「何を言って──」


 ウトは物分かりの悪い男の首を闇魔法で縛り上げた。苦しげな呻き声を上げながら男の口から涎が垂れる。


「勘違いするなよ。お前らは今、俺の手の中で生きているんだ。発言には気をつけろ」

「ッかは!」


 男を解放しウトは使用人を一人一人睨みつける。睨まれた者の中には、小さく悲鳴を上げ腰を抜かす人間もいる。


「一つは、この場で俺に殺される。もう一つは、俺を新たな主人としてここで働き続けるか」


 ウトの提案に使用人一同は驚愕を露わにする。


「わ、私は忠誠を誓いましょう!」

「私も従います!」


 一人の男が慌てて傅くと、近くの女給仕もつられるように跪いた。一人、また一人と、ウトの力を恐れた者たちが平伏する。


「なんだ。死を選ぶ奴はいないのか」


 すんなりと現状を受け入れた使用人たちに、ウトは拍子抜けに感じる。


「お前たちの体内に俺の闇を仕込んだ。下手なことを考えれば即座に殺す」


 使用人たちの間に緊張が走る。額に流れる汗が目尻を伝い、使用人たちは指先をピクリとも動かせない。


「……ぁっ」

「今、俺を殺そうと思っただろ?」


 使用人の一人、衛兵と見える男がバランスを崩し受け身も取れず顎から地面に崩れ落ちた。


「賊は俺が殺してやる。みんな逃げ──」


 衛兵が言いかける言葉を遮るように、男の喉、目、腹から、闇色の棘が出現し、男の体を貫いた。周りの使用人たちはその惨い死に様に口を閉ざす。


「俺に少しでも反抗的な思考を抱いた時点で、この男のように殺す」


 そう言ってウトは屋敷を飲み込んでいた闇を取り払った。窓から外の光が入り込み、アリエは緊張から解放されホッと息をついた。


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