お別れと決意
貧民街に仄明りが訪れる。稜線から日が顔を出し始め、闇を払う光が線のように伸び、夜の終わりを告げる。
「火、付けるぞ」
「うん」
貧民街の外れに二人がかりで掘った穴の中には、家族の亡骸が置かれている。よく燃える油の木を添え、ウトは断腸の思いで火を放った。
肉が焼ける臭い。濛々と煙が空へ昇っていく。濯がれた魂は塵や煙となって大地へと帰る。そしてまたいつか、家族の元へと帰ってくる。
手を繋ぐ二人は、家族が燃え尽きるのをしっかり見届け、穴を埋めた。
「理不尽だ。俺たちはただ平穏に暮らしてただけなのに……」
収まりきらない怒りを腹に抱えるウトは、眩しい朝日から目を背ける。
「こんな世界がいけないんだ。平等でない世界が、家族が危険になる世界が」
「ウト……」
「アリエ。俺は世界を変える。この世界を支配する。メイソンみたいな貴族のいない世界にする。この力で、誰も俺に逆らえないように、支配してやる」
ウトは哀憎の混在する強い意思を露わにする。
「協力してくれないか?」
涙の跡を拭ったウトを、アリエは泣き腫らした瞳で見つめ返す。覚悟の決まったウトの頼みにアリエは迷うことなく、
「もちろん。私たちは家族だから、どこまでも一緒に行くよ」
そう答えた。
大きな決意を抱いたウトは、知っていること、これからやろうとしていることの大まかな説明をアリエに行い、メイソンの邸宅へと向かった。
「まずは、貴族社会に紛れ込む。俺たちには金も地位もない」
「どうやって?」
「メイソンの養子になって、爵位を継ぐ。あいつに子供はいないからな。病で倒れたことにすればいい」
「なるほど!」
メイソンの屋敷には闇コガネが蔓延っている。朝早い時間、使用人たちは勤勉に働き出しているが、メイソンが地下に閉じ込められたことには誰一人気づいていない。
「問題はどうやって侵入するか、だな」
「ウトの魔法でどうにかならないの?」
「俺が操るのは闇だからな。日中は目立つんだよ」
「そうなんだ」
「まあ、やるだけやってみよう」
日中の闇魔法に見慣れたアリエは当たり前のように感じているが、闇魔法は光のない空間そのものだ。日の下で見れば異質な存在に映るだろう。頭を悩ませていたウトは暫くして一つの案を思いついた。