生還
精霊王がサンの体に入り込んでから数十秒ほど。
「……終わった」
苦しむ様子のサンが突如黙り込み微動だにしなくなったかと思うと、体がどんどん小さくなっていった。
サンの力が弱まっていくのを感じ、ルイスはほっと息をついた。
「そうだ。さっきのは」
安心したのも束の間、ルイスはどこからともなく現れた協力者の存在を思い出した。どこからともなく現れたかと思えば、異常な精度の治療を施して見せた。それだけではなくサンの光線を全く通さない防御。サンの光線が全力のコンディションではないと言えど無傷で受け切れる代物ではない。
その正体が気になりルイスは急ぎ足で声のする方へ向かった。
「すみません!」
「ん?」
ルイスが駆け寄ると、軍服のような格好したシャーロットが、ウトに状況を聞いているところだった。
「あの、あなたは?」
「僕はシャーロット・ホワイト。オグマの友達だよ」
シャーロットはにこやかに笑って、そう名乗った。
「僕はルイス・ゼルベートと言います。この国の──」
「ゼルベート!? ここゼルベート王国なんだ!」
サーロットはルイスの言葉を遮り、驚愕に目を見開いた。
「オグマが隣国の人だったなんて。意外と近くて嬉しいなあ。頻繁に遊びに来れそうでよかった!」
「あの、」
「あぁ、ごめんね! ちょっとお酒飲んでテンションがおかしくなっててさ。ほら、深夜にいきなり呼ばれて、大急ぎで着替えて飛んできたらいきなり攻撃されるし、助けに来た友達は瀕死で倒れてるし──」
「ひとまず落ち着いてください」
早口で捲し立てるシャーロットに、ルイスは無理やり割って入りなんとか会話の主導権を握る 。
「なんでここに……? それに闇男とはどこで……」
「シャルは俺の友人で色々話すいと長いんだよ」
疑問を浮かべるルイスを軽くあしらったウトはシャーロットと再会を喜ぶ。
「改めて、久しぶりオグマ! て言っても数日ぶりかな?」
「おう、さっきは助けてくれてありがとな。また死ぬかと思ったよ」
「また?」
「色々あってな」
疲労困憊のウトだが、傷は一つも残っておらずピンピンと体の具合を確かめて満足げに呟いた。
「闇男! あの怪物は?」
「ああ、この通りだ」
サンの姿を見届けていなかったルイスが問うと、ウトは自分の横を指差した。ルイスが視線を下に向けると黒い狼が俯いて座っていた 。
「グルゥ……」
ひどく疲れた様子のサンは、ボロボロの姿の二人見て申し訳なさそうに一声鳴いた。
「お前は良くやった。結果よければ全て良しだ」
「ガゥ……」
「精霊王はどうなったんだ?」
正気を取り戻したサンにルイスが問いかける。現在のサンの意識は、元々のサンのものであった。精霊王の気配は感じない。
「ガゥ」
ルイスの問いに答えるようにサンが鳴くが、動物の言語はルイスでもさっぱりわからない。
「推測だが、サンのもう一つの姿の方に精霊王の意識があるんだと思う」
サンに代わってウトが見解を述べた。それに対し、サンが肯定するような反応を見せたため、ルイスも納得することにした。
サンの正気を確認し、ようやくウトとルイスは緊張から解かれた。
森はひどい有様となったが、世界が滅ぶのに比べればこの程度なんてことはない。それに、この迷いの森には誰も近づかないため、自然の力でいずれ元に戻る。
一息ついたウトは身支度を整えると、さっさとこの場を立ち去ろうとする。
「じゃあ、俺は帰る。お前はユーバンクとあの侍女も忘れずに持って帰れよ」
「……ちょっと待て、伯爵をゲロまみれにしたのはお前だろ! 責任を取って最後まで手伝え!」
そそくさといなくなろうとするウトを引き止めようとするルイスだが、その手からするりと逃れ、ウトは距離を取った。
「王族様は上から目線で嫌だねー。それじゃ! 行くぞシャル!」
ウトはサンをポケットにしまい、シャーロットを引き連れ夜の森を全力で逃走した。ゲロにまみれたユーバンクをルイスに押し付けて。
「覚えてろよ……」
ルイスの恨み言がウトに届くことはなく、一人残されたルイスは水魔法でユーバンクを洗ってから、丁寧に縛り上げて連れ帰った。
アリエはまだ目を覚まさず、ルイスの腕の中で眠っている。




