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精霊王の依代

 太陽が現れたかと思うほどの光が木々の隙間を埋め森のはるか先、数キロ先まで照らした。

 遠くの街からは雷が爆ぜたのかのように見える光がサンの口から放たれ、ルイスの視界を覆った。

 サンの口腔から放たれた光線は眼前を抉るように爆進する。ウトは未だ倒れたまま、身動き一つ取らない。

 絶死の一撃に、ルイスは思わず目を背けた。


「僕が支配する空間は! 万物を拒絶する!」


 凛とした優しく慈悲深い女性の声が、サンの咆哮の奥からルイスの耳に届いた。

 直後、光線は何かにぶつかったように扇状に散らされた。孔雀の羽のように広がる光線が妙に幻想的で、場違いにもルイスは目を奪われた。


 この扇の向こうに誰かがいる。そう確信したルイスは剣を支えに立ち上がる。

 サンの攻撃も五秒ほどで勢いを無くし、攻撃の反動で虚な目をしている。


「ガァ……」

「まだ動くのか!?」


 サンは痺れているかのような緩慢な動きでゆっくりと立ち上がる。疲労もダメージも十分に蓄積はしているが、要のウトがいない。


「心臓が止まってる……」


 ウトの胸に耳を当てたシャーロットは心音が聞こえず慌てて蘇生措置を施す。両手を胸に置き魔法で刺激を加えた。


「戻ってきて!」


 ドクン! とウトの身体が跳ね鼓動を取り戻した。と同時に再生の魔法で外傷を治療する。折れた骨や繊維まで細かく完璧な魔法は、ルイスでも及ばない高等技術だ。


「かはっ!?」

「おぉ! 起きた!」

「サンは!?」


 がばりと身体を起こしたウトは臨戦態勢を取る。


「ん? シャル?」

「来ちゃった」


 立ち上がり傍らにいるシャーロットに気付き目を丸くする。


「なんでここに?」

「友達パワーでピンチに駆けつけたよ!」

「すごいな……。助かった」


 シャーロットの行動力に度肝を抜かれたウトは苦笑いを浮かべつつ感謝の気持ちを伝えた。その言葉を受けシャーロットは嬉しそうに頬を緩める。


「悠長に話してる場合じゃなかった。あの王子も治療してやってくれ」

「分かった!」


 二人の元までやってきたルイスも満身創痍であり、シャーロットが治療を施した。全快とまではならないものの動きに制約がなくなる程度には回復し、二人は再び剣を構えた。


 光線を放ったサンも体を起こしているところで、突如現れたシャーロットを警戒している様子だ。光線を防がれたこともあり、すぐに同じ攻撃を放ってくることはないようで、三人に対し一定の距離から攻撃を放つ。


「後は俺がやる!」


 動きが緩慢なサン目掛けて、ウトは闇の剣を構え突貫していく。精霊王のような攻撃の多様性はなく、光線を打つための隙も与えない。サンを倒すには今が絶好の機会だ。


「援護するよ!」

「お前は防御しなくていい! 奴の攻撃は僕たちが対処する!」


 シャーロットは魔法で、ルイスは並走しウトが攻撃に専念できるよう構える。

 サンはウトの接近に気付き腕を振り上げた。魔力は底をつきかけ回復するための器官も破壊されてしまった。


「魔法剣、水!」


 水を纏う剣をルイスが振り上げると、地面から間欠泉のように水が吹き上がりサンの腕を弾いた。


「大地よ!」


 それと同時、ウトの進行線上の地面が隆起しサンの胸元へ続くスロープが作られた。それだけではなく、シャーロットはサンの足元だけを沼のように変化させ足を絡め取った。


「らぁぁあああっ!!」


 アリエと精霊王の魂を切り離した時と同じ不定形の短剣。揺らめく漆黒のそれを確かに握るウトは、サンの身体を肩口から胸にかけて袈裟斬りに振り切った。霧のような短剣は切った感触がなくぬるりと身体に入っていった 。


「グゥオオオオッ!?」


 肉を斬られるのとは違う感覚に、サンの表情が苦痛に歪む。


『この森が再生するまで、依代とさせてもらう!』


 サンの体を操る理性なき獣の魂が斬られた。その瞬間、精霊王はサンの口から体内へと侵入した。


「ガァアアアア……」


 精霊王を取り込んだサンは、激毒でも口にしたかのように悶え苦しむ。体の中で精霊王の魂が激しく暴れている影響だろう。精霊王が新しいサンの理性となりその力を抑え込むことができれば、この暴走は止まる。


 人工精霊のサンが精霊王の力を取り込めば、世界が滅ぶ厄災となるだろう。それを止められるとすれば、御伽噺の英雄的存在くらいだ。


 世界の行く末を、ただ祈るばかり──


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