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アリエを取り戻す

「うぉぉぉおおおおっ!?」


 ルイスは防ぐことを諦め、咄嗟に首を曲げ躱そうとするが間に合わない。


「くっ……っ」


 ルイスの顔面に剣が刺さる手前で、剣と顔の間に木が割って入った。勢いよく飛んできた大木に光剣が刺さり、勢いそのままに木を粉砕しわずかに軌道を変えルイスの後方へ消えていった。


「助かった!」


 ルイスはすぐに立ち上がり精霊王から距離を取る。男は気絶している。ユーバンクは戦闘において脅威にはならない。これで二対一。


「アホ王子、ユーバンクは捕まえておいたぞ」

「よくやった!」


 ウトの横には、闇魔法で縛られたユーバンクが喚きながら座っていた。


「伯爵! どうやったらアリエを、精霊王を止められ──くっ!」


 ユーバンクを問い詰める二人に、精霊王の魔法が炸裂する。落ち着いて話をする暇も与えられず、ルイスたちは苛立ちの声を漏らす。


「指輪って精霊に肉体を与える物じゃねえのか!?」

「違う! 精霊王の指輪は使用者の願いに精霊王が力を貸すという誓約がされたものだ! 精霊王は使用者の命令に逆らえない」

「なら指輪を奪えば良いんだな!?」

「そうだ!」


 精霊王の攻撃を掻い潜りながら打開策を打ち立てた二人。ウトは捕まえたユーバンクを一瞥し、ギョッと目を剥いた。


「ちょっと待て! 指輪はどうした!?」


 ウトの指摘に対し、ユーバンクが不適な笑みを漏らす。


「精霊王よ。何をしてもいい! 私を助けろ!」

「リョウカイ。降れ、氷柱槍」


 ユーバンクの声に反応し精霊王が魔法を発動する。手を天に掲げ三人の頭上に十数本の氷柱が出現した。一つ一つが二メートルを超え、食らえば致命傷は免れない。


「こいつ、指輪を飲みやがった!」

「そんな!?」


 ユーバンクの腹部が僅かに光を放っている。ウトに捕まる寸前に指輪を飲み込んでいたようだ。

 指輪が奪われれば精霊王は止められ、計画が崩壊する。だが、飲み込んでしまえば誰も精霊王を止められない。指輪を取り出すにはユーバンクを殺すか、腹から指輪を取り出す必要がある。もちろんそんな時間はなく、ルイスはユーバンクを殺せないし殺させない。


「勝った。勝ったぞおぉぉ!」

「闇男! 絶対に伯爵を放すな!」

「分かってる!」


 頭上から落ちてくる氷柱をウトはユーバンクを引き摺りながら躱す。氷柱はユーバンクを捕まえているウトに対し重点的に落とされ、さらに続けて氷柱が生成され続ける。ルイスも氷柱で牽制され、ウトへ加勢できず足踏みする。


「くそ、もう無理だ! 受け取れ!」


 ウトへの攻撃の割合が増え始め、とうとう堪えきれずにユーバンクを投げ捨てた。投げた先にはルイスが待っている。


「いきなり投げるな!」

「お、ぉおお前ぇええ! 私を物のように扱うなぁ!?」


 氷柱が舞う空中をユーバンクは放物線を描きながら飛んでいく。ルイスがそれをキャッチすると、今までウトに向いていた攻撃の幾つかがルイスへと進路を変える。


「伯爵、ごめんなさい!」

「な、何を!?」

「精霊王よ、このまま攻撃を続ければ伯爵が死ぬぞ!」


 一言詫びを入れたルイスは、思い切ってユーバンクを盾にした。ユーバンクの首に剣を当て殺気を込めて叫ぶ。

 すると、精霊王の手が止まり展開されていた氷柱が消えた。精霊王への命令を逆手に取ったルイスの作戦が見事にはまった。


「よくやった、アホ王子」


 一呼吸おき、ウトが肩を並べる。


「伯爵を守るという命令がある限り、精霊王は僕たちを攻撃できない」

「面倒な命令をされないように口塞いどくぞ」


 言いながら、ウトは闇魔法でユーバンクの口を塞いだ。


「ユーバンクの腹から指輪を取り出して命令を出し直すしかないか──」

「命令ノ優先度ヲ変更、初メノ命令ヲ実行スル」


 言いかけるウトの言葉を遮り、精霊王の声が三人の耳を打つ。次の瞬間、精霊王が水魔法を発動した。滝のように溢れる水が森の木々を薙ぎ倒しながら三人を飲み込もうと迫る。


「くっ」


 ウトとルイスはその場から飛び去り、水流に飲まれる木に着地した。轟轟と音を立てる水は、土を巻き上げ濁流となる。


「止まらないのか。精霊王をやるしかないぞ、アホ王子」

「アリエを殺すっていうのか!?」

「うまくいくか分からないが、あの肉体と精霊王の魂を切り離す」


 ウトは闇の剣を両手に構える。一つは実体を持つ物理攻撃の剣。もう一つは、剣の形を保ってはいるものの、ウトの動きに合わせてゆらめく不定形の剣。


(闇魔法の覚醒。この力には、まだ先がある)


 ウトは奴隷市場で盗み聞きした二人の言葉がずっと引っかかっていた。力の覚醒がどのようなものなのか、資料も何もない手探りの状態ではあったが、ウトはその正体を感じつつあった。

 ルイスとの戦闘、一級品のシャーロットの魔法を経て。また、肉体が成長するにつれ闇魔法への理解度が無意識のうちに深まっていた。

 根拠は全くないが、ウトは直感的にそれが可能であると理解した。


「ルイス、回復魔法は使えるか?」

「ああ、」

「俺が闇魔法で急所を刺す。それと同時に蘇生しろ」

「なんだって?」


 無茶な注文にルイスは思わず聞き返した。


「精霊王の魂を剥がしても、肉体が傷ついていたらどっちみち死ぬ」

「なるほど」


 ルイスは、ウトの説明で改めて理解を示した。


「ちゃんと精霊王を剥がせるんだろうな」

「ああ、触れさえすれば」


 最終確認を挟み、二人はすぐに攻撃へと意識を切り替えた。

 ウトは闇魔法でユーバンクを囲い、濁流の外へ放り投げた。


「ヤキツクセ、廻炎」


 動き出す二人に合わせて精霊王が魔法で炎を作りだした。人質のユーバンクがいなくなったことで攻撃に遠慮がない。

 精霊王の周囲を炎の渦が回る。


「眩しい魔法ばっかり使いやがって」


 闇魔法対策の攻撃に、ウトは文句を言いながら手にした剣で炎を斬り払う。


「土よ!」


 ルイスは土魔法で石礫を放ち、精霊王を牽制しながら距離を詰める。

 攻撃のタイミングに合わせ蘇生をする。それ自体の難易度もさることながら、その思考を維持したまま精霊王の攻撃を掻い潜り懐に侵入する必要がある。常人ではどちらも到底不可能。


 英雄と呼ばれるルイスと、最強の闇魔法が協力することで作戦が成り立っている。


「ぶっ飛べ、闇傀儡!」


 ウトは近くにある木を掴み精霊王に向かって投げつけた。


「……火球」


 だが、精霊王の火球によってそれは一瞬のうちに消し炭となる。その木の背後から漆黒の短剣が煙を掻き分け飛来する。


「──っ氷壁」


 驚いた表情を一瞬見せる精霊王は、すぐに氷の盾を目の前に出現させ短剣を受け流した。

 精霊王から進行方向を変えた短剣は真っ直ぐにルイスへと向かっていく。


「止まるな!」


 短剣に対応しようとするルイスに対しウトの喝が入る。ウトが魔法を解除すると信じ、ルイスはそのまま突っ込む。強者であると見込んでの信頼と今は喧嘩をしている場合じゃないという思考が二人の中で同調し、狙い通りに闇魔法の短剣はルイスの眼前で溶けるように消滅した。


「泥闇、からの闇傀儡! この距離まで近づけば避けられねえよなぁ!」


 ウトの足元から泥のような闇が広がり、精霊王の足を捉えた。足を取られた精霊王が僅かに姿勢を崩す。さらに、周囲から闇の触手が生え精霊王の体を押さえつける。


「闇男、やれ!」

「うぉおおおっ!」


 上半身を後ろに逸らした精霊王の心臓に、ウトは闇の剣を突き立てる。それと同時にルイスの回復魔法がアリエの体を包み込む。


「届いた!」


 ウトの剣がアリエの胸を貫通し背中側から抜けていく。同時に刺し傷が塞がっていく。闇の剣の先には、薄い虹色の何かが刺さっていた。実体を持たない光源のような何かがアリエの身体から離れると、突如弾けるような音を立て太陽もかくやという眩い光を放ち、二人の視界を覆った──。


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