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VS精霊獣

「はぁぁぁああっ!」


 二人を追わせないため、メリーアは攻勢を緩めない。片刃のバターナイフを大きくしたような短刀、ファルシオンを構える。約八十センチほどの刀身は、使い込まれているが手入れの行き届いた輝きを放っている。

 精霊獣の熊のような体、三メートルほどの体躯は強靭な毛に覆われている。鋭く光沢を放つ毛は、メリーアの剣に抵抗し押し返している。


「硬すぎっ!」


 刃が通らず弾かれたメリーアは思わず文句が口をつく。


「グルァァァアアアアアッ!」

「まずいっ──」


 危険を察知したメリーアだが、時既に遅し。衝撃がメリーアを襲う。精霊獣の前腕が凄まじい速度で振るわれ、その軌道上にいたメリーアは小虫のように払われた。爪による斬撃はなんとか防いだが、吹き飛ばされた勢いのまま木に叩きつけられた。


「ワンッ」


 メリーアが飛ばされるのを尻目にサンも突撃する。体を精霊獣と同じだけ大きくしながら、精霊獣の喉元に噛み付く。


「ッゴァアアアアア!!」

「──ァァ」


 二匹の獣が唸る。精霊獣はサンを引き剥がそうともがいているが、サンの歯が深く食い込み、また顎の力も強く離れない。


「グァアア!」


 離れないサンに苛立つ精霊獣が咆哮を上げた。すると、額に生えている二本のツノが帯電し始めた。


「マッドウォール! こっちです!」


 精霊獣のチャージが完了する直前。体勢を立て直していたメリーアは脅威を察し、土魔法で防御壁を作り出した。メリーアの合図を聞いたサンは、口の力を緩め精霊獣から距離を取る。一瞬で体を小さくし、土壁の裏側に身を潜めた。


「ドォォォォォオオッ!」


 精霊獣が叫ぶ。その声に合わせて二本角に蓄積されていた力が放たれた。四方に降り散らす雷が森を照らし木々を薙ぎ倒す。バチバチという轟音を鳴らしながら、地面を抉り周囲を破壊する。


「ガウッ!」

「奴の首を落とします!」


 数秒雷鳴が轟いたが、精霊獣の攻撃が止むと土の壁でやり過ごしたメリーアたちは一斉に動き出した。二本の角は赤熱し蒸気を発している。


「連発はないことに賭けます!」


 精霊獣はメリーアを無視してサンを警戒している。自身と同じ力を持つ存在に、サンも精霊獣も不思議なシンパシーを感じているようだ。だが、二匹は決して相容れない。己が脅威と見做し全力で殺しにかかる。


「ガァァァッ」


 どちらの声とも判別がつかない咆哮が空気を揺らす。耳をつんざく獣の声。牙を剥き出しに威嚇し合う。メリーアはそんな猛獣の喧嘩に飛び込むことを躊躇した。


「体が、震える」


 恐怖で身が竦んでいた。


「彼らの力にならなければ」


 メリーアは自身を鼓舞する。握る拳がメリーアの太ももを打つ。


「あの獣を倒し、アリエ様を救うんだ!」


 叫び自分を奮い立たせる。決死の覚悟。恐怖を克服するための一歩を踏み出した。


「はぁぁぁああっ!!」


 幸い精霊獣はメリーアを脅威と見ておらず、メリーアの攻撃にはぴくりとも反応しない。駆け出したメリーは、巨体の首を落とすため助走をつけ跳躍する。


「この一撃で沈めてやる!」


 メリーアの視線は精霊獣の首を捉えている。サンが噛み付いたところから精霊獣の血が垂れているのが見えた。

 メリーアの剣では精霊獣の体毛を破れなかったが、すでに傷ついた首元ならばメリーアの剣も届く。


「万象を断て、エルファイア!」


 詠唱を唱えるとファルシオンが炎を纏う。轟轟と音を立てながら空気が揺らめくほどの熱を発する。

 それに気づいた精霊獣が片目をメリーアに向ける。


「遅い!」


 メリーアが短刀を振り下ろす。


「ゴォァァァァァアアッ!?」

「くっ」


 傷口に燃える短刀が刺さり、精霊獣が苦しみの絶叫をあげた。鼓膜が割れるかと思うほどの大音声がメリーアを襲う。


「この手は、離さないっ!」


 メリーアは短刀を握る手に体重を乗せる。ゆっくりと短刀が沈んでいき、精霊獣の首を焼き切っていく。刃が進むたびに精霊獣の断末魔が大きくなっていく。


「ガウッ!」


 精霊獣の防御が崩れたその隙を逃さず、メリーアに合わせるようにサンも首を刈りにかかる。鋭い爪を精霊獣の体に立て、尖った牙を再度首に突き立てる。

 ミシミシと精霊獣の首が音を鳴らす。骨が砕け、肉が斬られ、血が灼かれる。


「ゴォアアアアアアアッ!!」

「まだ、大きくなるの!?」


 精霊獣は怒りの叫びを上げながら、その体をさらに大きく膨らませた。太い首がサンの顎に反発し、たまらずサンは口を離した。

 メリーアの短刀も厚くなる皮膚に刺さったまま飲み込まれてしまった。元の三倍ほども大きくなった精霊獣は、再度咆哮を上げた。


「しまっ──」


 攻撃が止んだ瞬間、精霊獣が反撃に出た。大木もかくやという極太の前腕でメリーアを殴り飛ばし、先ほどまでは同じ大きさだったサンを見下ろしている。次の瞬間には、大口を開けサンの頭を噛み砕かんと牙を剥き出しにする。


「ガウッ!」


 ガチンッ! という、硬いものがぶつかった鈍い音がサンの頭上で響いた。精霊獣の顎がサンの頭部スレスレで閉じられている。

 一瞬の判断で、サンは体を小さくすることで精霊獣の牙を逃れ、そして姿を小さくしたことで精霊獣がサンを見失い、その一瞬の隙に小柄な体躯で精霊獣の足元を駆け抜ける。


「ガウッ、ガウッ!」


 精霊獣から逃れたサンはメリーアのもとに駆け寄った。殴られた衝撃で気を失っており、骨も二、三本折れている。メリーアを咥え精霊獣の攻撃範囲からの逃れようとするが、サンの姿を見つけた精霊獣から息をつく間も無く追撃が来る。


 精霊獣は手近にある木々を千切って投擲する。

 サンはそれを爪の斬撃や後ろ脚で蹴り飛ばしなんとかメリーアを守る。


「ガァァッ」


 ジリ貧だ。時期にサンの体力が尽きる。精霊獣にも疲労が見て取れるが、生物としての完成度が違う。精霊獣にはサンほどの知能がない。代わりに、多くの魔物の能力と高い闘争本能を備えている。


『自分の持てる力を全て使って抗え』


 訓練時のウトの言葉がサンの頭に過ぎる。


「グルゥゥゥウ……」


 出し惜しみをしている場合ではなかった。

 サンは意を決し力を解放する。体が大きく膨れ上がり、バキバキと音を鳴らしながら体の形が変形していく。


「ガァァァァァッッ!」


 サンには二つの姿があった。サンは本能的にその力が恐ろしいものだと理解していた。その力はサンの自我を奪い、理性のない獣へと変貌させる。


 完全変態。


「ゴォォォオオン!」


 二足歩行の獣。頭部には大木もかくやという太い二本の角。鹿に似た角からは、胞子のような光が降っている。黒い様相から一転、翠色の体毛に覆われ背中には刺々しい紫の結晶が生えている。

 精霊獣と同じか、僅かに大きい体躯へと変態を遂げたサンは、前傾姿勢になり前足を地につけた。


「ガァァア……」


 異様な姿のサンに、精霊獣は後退した。

 理性を持たぬ獣となったサンは、目の前にいる精霊獣を敵として認識した。サンが口を開き、ガコン! と顎の外れる音が鳴った。そこから大きく息を吸い込んだ。


 突風が精霊獣の体を引きずる。サンが動いているわけでもないのにジリジリと距離が縮まり、精霊獣はたまらず二本の角に力を込める。

 精霊獣は、蓄積したエネルギーをサンに向けて即座に放出した。口内に雷が入れば確実に大ダメージだ。精霊獣は勝ちを確信し瞬きをした。


「グルォォオオッ!」


 次の瞬間、精霊獣の姿が消えた。

 サンは精霊獣を吸い込もうとしていたわけではなかった。サンの挙動は、絶命の一撃を放つための予備動作であった。


 力を溜め切ったサンは、腹の底から唸るような声を上げながら光線を放った。紫色の光が、サンの口から大出力で放たれた。精霊獣の体を覆い尽くすその巨大な光は、直線上の全てを巻き込み遥か彼方まで消滅させた。

 サンは口を閉じ立ち上がる。正面には匙で抉られたような地面がまっすぐ続いている。足元に広がる荒れた森を一瞥し、理性なき獣は強い力を感じる方へと向きを変え歩き出した。


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