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シャルの家族

「今のうちに行こう」

「うん……」


 いつバレるかというスリルに、シャーロットは脈拍が早くなっているのを感じていた。ウトはすっかり落ち着いた様子で、シャーロットの腕から手を離し薄暗い廊下に足を踏み出していた。

 闘技場は今いる部屋からすぐ近く。丁字の廊下を左に曲がった先にある。


 二人は闇に紛れるように気配を殺しながら早足で廊下を駆け抜けた。廊下の先には闘技場の裏側へ通じる扉がある。円形闘技場の裏には、飼い慣らされた魔物や奴隷が牢に閉じ込められている。


「闘技場にいるってことは強いのか?」

「ううん。家にいた頃は全然」


 牢屋を一つ一つ覗いていく二人。シャーロットは魔法で照らしながらウトのそばにピッタリとくっついている。


「待て、誰かいる」


 牢が並んだ湾曲した一本道。廊下の先に一人の白仮面が立っており、ウトは足を止めた。シャーロットの出す光に気づいた白仮面が、二人の方をゆっくり振り向く。


「おやぁ? お客様が何故裏方に?」


 蝋燭の明かりを持っている白仮面は機械的に疑問を口にした。一切感情を見せない白仮面に、異様な不気味さを感じたウトは、咄嗟に闇魔法で白仮面の首を刎ね──


「なっ!?」


 先端が鋭利に尖った闇は寸分違わず白仮面を狙った。完全な死角からの一撃だったが、白仮面の首が飛ぶことはなく、無傷でその場に立っている。


(何が起こった!? どうやって防がれたかちゃんと見てなかった!?)


 ウトは状況が読み込めず、焦りによって思考が纏まらない。


「今のは闇魔法ですか!? いらっしゃっていたとは。驚かせてしまい申し訳ございません」

「はっ?」


 動揺するウトだったが、敵意丸出しのウトとは対照的に白仮面は喜んでいるように両手を広げた後、すぐに頭を下げ謝罪した。


「厄災の化身へようこそ。我々はあなたのような特別な存在を歓迎いたします!」

「……ぉお、よろしく」


 状況が掴めないウトだったが、何やら歓迎されている様子のため白仮面に合わせてこの場を乗り切ることにした。


「本日は顔合わせにいらしたのですか?」

「招待状を貰ったからな」

「であれば、必ず満足していただけるかと存じます。して、そちらの方は?」

「連れだ」


 ウトの斜め後ろで、シャーロットは口を一文字に閉じている。ウトが上手く躱しているうちは、下手に動かない方がいいと判断したようだ。


「ところで、今は何を?」

「とある人物を探していてな。これなんだが、分かるか?」


 ウトは懐から似顔絵が描かれた紙を取り出した。白仮面はそれを受け取り矯めつ眇めつ見る。


「この奴隷なら、奥の方にいるはずです。よければご案内しますか?」

「ああ、頼む」


 白仮面は親切に二人を案内する。本当に歓迎されているようだが、二人は警戒を緩めず白仮面の後ろをついて歩く。


「こちらです。お間違い無いですか?」


 五個ほど先の牢で止まった白仮面は蝋燭の火で中を照らす。鉄格子の向こうには、紫黒の長い髪を垂らした美人が横たわっていた。三人の気配を察知したのか、猫耳がぴくりと反応し薄目を開けた。


「っ……」


 獣人の姿を見たシャーロットがはっと息を飲み込んだ。


「間違いない。この人だよ」

「そうか」


 シャーロットは食い気味で鉄格子を掴んだ。


「お持ち帰りになられますか?」

「いくらだ?」


 値段を問われた白仮面は考えるように顎へ手を当て、


「これから仲間となるかもしれない方ですから、相場の半分でいかがでしょうか?」


 白仮面の奥から怪しい眼光がウトを捉え、ウトはそれを無視してシャーロットへ目線で訴える。

 その目線を「決めるのはお前だ」と言っているように受け取ったシャーロットは、即決で買うと答えた。

 それから白仮面が手続きを素早く済ませ、猫耳の獣人はシャーロットのものとなった。


 最後まで白仮面がウトたちを怪しむことはなく、無事に目的を達した二人は部屋に戻って安堵の息を漏らした。

 落ち着いたのも束の間、シャーロットは仮面を外し獣人の女性と正面から向き合った。


「リリー、僕だよ。わかる?」


 髪と同じ濃厚な紫色の瞳がシャーロットの美麗な顔を映す。名前を呼ばれたリリーは戸惑ったように眉を寄せるが、しばらくしてその瞳が困惑と感動に震える。


「お嬢様、ですか……?」

「そうだよ、リリー。僕だよ」

「お嬢様、どうしてここに!?」

「どうしてって、君をずっと探していたんだよ。僕の前からいなくなってしまったあの日から!」

「あぁ……!」


 瞳を潤ませながら笑うシャーロットに釣られ、リリーは堰を切ったように泣き出した。二人で抱き合いながら号泣するのを、ウトは黙って見守っていた。


「うぅ、オグマ。ありがとねぇ」

「顔拭け」


 ウトは泣き腫らしたシャーロットの顔にタオルを投げつけた。


「オグマ様。私とお嬢様を巡り合わせていただき誠にありがとうございます」


 リリーは深く頭を下げ続けた。


「気にするな」とウトは一言、照れくさそうに返した。


 リリーとの再会を果たしたシャーロットは帰りの用意をさっさと済ませ、サンレイブを立ち去ることとなった。こんな汚れた世界にいるような人間ではない。

 シャーロットは去り際、一枚の紙をウトへ渡した。


「困った時は僕を呼んで。いつでも駆けつけるから」

「……どうやって?」


 紙切れを受け取るも、ウトは怪訝に目を細める。


「友達パワーで!」


 自信たっぷりの笑顔で、全く根拠を伴わない回答を返すシャーロットだが、ウトは紙を見て納得したように頷いた。そこには、奴隷市への招待状に似た転移魔法の式が組まれていた。


「なら、俺もこれをやる」


 返す言葉と共に、ウトは闇魔法で作ったナイフを手渡した。


「俺はシャルみたいに転移とかはできないから、お守りだ」

「ありがとう! 大事にするね!」


 漆黒の光沢を放つ短剣を受け取ったシャーロットは、それを大事そうに胸に抱えた。笑顔の中に、迫る別れに一抹の寂しさが浮かぶ。


「また会おう。今度は正式に」

「うんっ! 約束ね!」


 シャーロットはその言葉をしっかり受け止めたようで、最後に握手を交わし別れを告げた。

 二人を見送ったウトも早々に帰り支度をし、三人の奴隷を買って帰宅した。


 男性二人に女性が一人。全員、戦闘に長けた者が選出された。魔法による契約で逆らえない奴隷は、ウトにとって都合がいい。戦力不足を補う機会を得られたことに満足するウトだった。


続きは明日公開します

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