ほろ酔い
「女性の湯浴みは長いんだな」
「ごめんね! 昔から好きなんだ!」
「清潔に保つのはいいことだ」
浴場から上がってきたシャーロットは、シンプルなネグリジェに身を包んでいた。半袖のワンピースは真っ白で、裾には控えめにフリルがあしらわれている。
露出は少ないが、突き出た大きな胸がワンピースの生地を押し返している。シャーロットが腕を組むと、体のラインがくっきりと浮き出るため、細いくびれとのギャップでより胸が強調される。
ウトは、そんなシャーロットから目を外した。
「部屋にお酒持ってきてもらうように白仮面に伝えてるから」
「なんのお酒?」
「なんの? お酒はお酒だろ?」
「……さては、お酒飲んだことないな!? 僕がおすすめのお酒を紹介してあげるよ!」
「お、おう。ありがとう」
環境より大人になることを強制されたウトだったが、実際の年齢は十五歳目前といったところだ。父親の教育のおかげもあり、酒、女、煙草に触れる機会がなかったウトは、お酒に対し抽象的なイメージしか持ち合わせていない。
嬉しそうに張り切って肩を弾ませるシャーロットは、ウトを扇動するように歩き出し、酒場へと入っていく。
入り口でいくつかのアルコール類を注文すると、従業員がすぐに用意を済ませ、白仮面が二人を案内する形でそれを部屋まで運んだ。
「それでは、僕たちの出会いを祝して乾杯!」
ウトの部屋にやってきたシャーロットは、白仮面からお酒の入った箱を受け取り、自分の手で用意した。そして、二人でグラスを傾け酌を共にする。陽気な乾杯の音頭に、ウトは少し戸惑いながらも、シャーロットの真似をし「乾杯」と小さく返した。
「地図のこと、オグマに任せてばかりでごめんね。その代わり、お酒のことはなんでも聞いてよ!」
気遣ってくれるシャーロットにお礼を言いながら、ウトは酒を口に運んだ。
「あぁ──っ!?」
口に含んだ瞬間に襲いくる苦味に危うく吹き出しそうになるが、なんとか堪えて飲み込んだ。
「うぁ、かぁぁぁあ!」
喉を通した瞬間、焼けるような感覚がウトに追撃する。
「はははははっ! 辛いよねぇ!」
「シャル、テメェ……」
度数の高い酒にもんどり打つウトを見て、シャーロットはお腹を抱えて笑う。
「お前も飲め!」
「もちろん!」
ウトに睨まれたシャーロットは自信たっぷりの顔で返事をし、百ミリほど入ったウイスキーを一口で煽った。
「あぁぁ、沁みるぅ……」
「俺ももう一口」
シャーロットの飲みっぷりを見て、ウイスキーの味を確かめるべく、ウトは自身のコップに一口分だけ注ぐ。それをゆっくりと口に含み舌で転がすように味わう。ごくりと、ウイスキーが胃に流される音がウトの耳に響いた。
喉を通ったアルコールがお腹に収まり、それが逆流するように頭へと突き抜け、一気に覚醒する。体が火照り目から涙が溢れた。チカチカと明滅する視界に不思議な感覚を覚え、ウトは無言で二口目に手をつけようとする。
「ちょっと待った! 他にも美味しいお酒いっぱいあるから!」
「……そうか」
少し残念そうに呟くウトのため、シャーロットは新しいお酒をグラスに注ぐ。
「これはビール」
「ほう……」
注がれる黄金色の液体に興味津々のウト。小さく細かい気泡が底から上がってくる様子をまじまじと観察してから、ゆっくりと口をつけた。
「苦っ!?」
「ビールは苦手?」
一口飲んだウトはそれ以上ビールには手を伸ばさず、拒否反応を見せた。
「じゃあ、これ! これは果実酒。ワインだよ!」
シャーロットはコップを変えワイングラスを二つ取り出し、新品のボトルからコルクを外す。綺麗な赤色のワインがグラスに注がれ、ゆっくりと小さな器の中で波打つ。
「良い香り……」
「シャルはこれが好きなのか?」
「うん! お酒の中で一番好き」
ウトはグラスに鼻を近づけワインの香りを味わう。
「俺も好きかも」
爽やか香りに目を見開いたウトは、そのままワインを口に流す。あまりの美味しさに思わず一気に飲み干してしまった。
「もう一杯くれ」
「そんなペースで飲んだらすぐに無くなっちゃうよ」
シャーロットはそう言いながらも二杯目をグラスに注ぐ。
「オグマに会えて良かったよ。こうやってお酒を飲み交わす友達ができて嬉しい」
「俺も、いい友人ができて嬉しいよ」
シャーロットはコップにレモネードハイを作りそれに小さな唇をつける。
「僕が探している子は、家族なんだ」
「……」
お酒が体に回り始め、シャーロットは徐に身の上を語り始めた。
ウトは空気を壊さないように耳を傾けつつ、神妙になりすぎないよう適度にお酒に手を伸ばした。氷がグラスと触れ合う音とシャーロットの声が部屋に響く。
「生まれた時から一緒にいて、奴隷という身分ではあったけど、僕にとっては家族みたいな存在だったし、お父さんたちとも仲良くやってたんだ。
それで、奴隷の身分から解放して、正規の従業員として雇うことになったんだ。でも、奴隷契約から解放されて数日後に、彼女は突如いなくなった。僕が五歳の頃。
お父さんたちは逃げたんだろうって言っていたけど、どうしても僕は納得できなかった。だから探したんだ。魔法を学んで、聞き込みをして、探して探して辿り着いたのが、ここだった。
ここ以外に有力な候補はもう全て探し尽くした。ここが最後の希望なんだよね」




