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観光

 それから二人は、始まりの宴会場で食事を共にし、オークションに顔を出し、闘技場で賭けに盛り上がり、この場に相応しい振る舞いをした。


 遊びつつも、ウトの地図作りは着々と進んでおり、施設内部の構造や倉庫の位置、従業員の配置に至るまでを、八割ほど把握していた。

 そして、その八割の中に二人が求める部屋があった。


 奴隷市で遊び倒して一日。奴隷を購入した他人の会話やその売買履歴がどこに運ばれるのか、ウトは闇コガネで追いかけ、奴隷の管理簿を保管する部屋を突き止めた。


「シャル、明日の夜に決行しよう」

「え、今日じゃないの?」                                       


                

 遊び疲れた二人は、再び始まりの宴会場にあるレストランで食事休憩をとっていた。時を示す天窓も、すでに太陽から月へと表示が切り替わっている。


「夜の間は奴隷の売買がないから、管理簿のある部屋が動くことはないと思う。だけど、念のため夜の間の警備も見ておきたい」

「わかった。じゃあ、もうちょっとだけ羽目を外して遊び倒そ!」


 ここが奴隷市であると言うことを忘れるほどシャーロットは満喫していた。それはひとえにウトのおかげでもあるのだが、ウトは気付いていない。


「初めて友達ができて嬉しいよ」

「友達、いないのか?」

「そうなんだ。色々事情があってね」

「詮索はしないから安心しろ」


 儚げな瞳を揺らすシャーロットに、ウトは少し焦りながらそう言葉を紡いだ。


「ううん、むしろ聞いて欲しいんだ。オグマなら、きっと僕を理解してくれる気がするから」


 口に放った肉を飲み込み、ウトは真剣な眼差しで見つめ返す。


「身の上話は、誰にも聞かれないところでな」

「そうだね! お酒でも飲みながら語り合おうよ!」

「俺まで話す流れになってるな」

「オグマの話も聞きたい!」


 シャーロットは快活に笑いながら、丁寧な所作で食事をする。ウトが初めて会った時から育ちの良さが滲み出ていたが、どこかの名家出身だろうとウトは推測する。


「それじゃあ、酒場の方に行くか?」

「うん! 行こ!」


 シャーロットが食べ終えたのを見届け、ウトは立ち上がりエスコートする。シャーロットを連れ、宿泊施設側の扉に向かう。宿泊施設に向かう廊下を右に曲がれば、レジャー設備のある場所へ繋がっており、ボードゲームや浴場など、時間を潰す施設は奴隷市だけではない。


「ねえ、一曲だけ踊ろうよ! お酒飲んじゃったら絶対踊れないから!」

「踊れるのか?」

「失礼な! 絵は下手だけど、ダンスは得意だよ!」


 シャーロットは宴会場の奥にあるホールを指差しウトの手を引く。場内には先刻からクラシック音楽が流れている。ホールの端に音楽隊がおり、ゆったりとした静かな曲を奏でている。

 ホールには既に何組かのカップルがいて、手を取りリズムに乗ってステップを踏んでいる。


「オグマこそ踊れるの?」

「……嗜む程度には」


 問われたウトは少し自信なさげに答えた。元々貴族出身ではないウトは、付け焼き刃程度の素養しかない。


「やれと言われれば、できると思うけどな」

「それじゃあ、僕と一曲踊っていただけませんか?」


 自信たっぷりの笑顔でシャーロットがウトを誘う。出された手を受け取り、シャーロットと共にホールへと踊り出た。

 新たな参加者に少し注目が集まりつつ、二人はそれを気にせず回り出す。

 曲に合わせてステップ。ウトの手がシャーロットの腰を支え息のあった舞を披露する。


「ちゃんと踊れるじゃん」

「合わせてくれてるだろ」

「それでも、基礎がちゃんとしてるから踊りやすいよ」


 シャーロットが回る度にさらりとした金髪も一緒に踊り、女性らしい華やかな香りが空間を漂う。


「楽しそうで何よりだ」

「オグマは楽しい?」

「愚問だな」


 ウトは鼻で笑い、ペースを上げる。力と運動センスでシャーロットをリードする。ダンス自体はそこまで上手ではないが、シャーロットの機微を逃さず最適な位置に体を運ぶ。戦闘により培われた勘でシャーロットをうまく転がす。


「やるじゃん!」


 それに負けじと、シャーロットも合わせつつ主導権を奪い取る。

 華麗に舞う二人に、次第に注目が集まり曲調も二人のダンスに合わせてテンポを上げる。

 入れ替わり立ち替わり、他のカップルも二人のテンションに同調するように踊る。いつの間にか会場が一体となって、観る者含めてこの一曲に集中していた。


 ──音楽が止み、息遣いだけが聞こえる。数秒ほどの沈黙の後にまばらな拍手が生まれ、それはすぐに大きくなり、大歓声となった。


「はしゃぎすぎたか?」

「でも、みんなも楽しそうだよ」


 踊っていた周りのカップルが息を切らす中、二人は全く乱さず、清々しい表情で立っていた。


「俺も楽しかった。全力で踊ったのは初めてだ」

「よかったぁ!」


 ウトを見上げるシャーロットの顔が照明に照らされ満面の笑みが輝く。綺麗な桃色の唇と白い肌に、周りの人たちは思わず見惚れている。


「もう行こう。目立ちすぎた」

「そうだね!」


 周りの歓声を背に受けながら二人はホールを後にした。


「ちょっと暑くなっちゃった」

「汗流していくか?」

「うん! ここの浴場とっても大きいんだよ!」


 ダンスの余韻ではしゃぐシャーロットと共に、ウトは浴場に足を向けた。

 烏の行水なウトは浴場の大きさに驚きつつも、十分ほどで入浴を終え、それから一時間ほど、ほかほか顔のシャーロットが出てくるまでの間、ウトは暇を持て余した。


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