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シャーロット

 一人になったウトは、先ほど見つけた落ち着きのない人物の元へ向かう。

 その人物は、金色の綺麗で長い髪を後ろで一つに結んでおり、横顔だけでも美人だとわかる。小根の汚れた奴隷市には似合わない善人オーラに、ウトは興味を惹かれた。


 ウトはその人物の隣に行き無言で腰を下ろす。どかっと荒っぽく座ったウトに気づき、隣の人物がウトの方を振り向いた。


「あの、」


 柔らかく新緑を思わせるような涼やかな声が、雑音がなく透き通るように耳を抜けていく。

 振り返った顔は、蝶を模した派手な仮面で目元が隠されている。仮面の奥からは、髪と同じ金色の瞳と、晴天を写したかのような天色の瞳が覗いている。


「そう警戒するな。落ち着きがなさすぎて目立ってるぞ」


 ウトは綺麗なオッドアイを見つめ返しそう忠告した。


「俺はオグマだ。本名ではないが、そう呼んでくれ」


 偽名を名乗りながらウトは手を差し出した。女性は丁寧に挨拶されたことに面くらった様子で慌ててウトの手を握り返した。


「僕は、シャーロット。シャルと呼んでもらって、大丈夫です」

「シャーロット。よろしく」


 人の良さそうな雰囲気のシャーロットだが、ウトの見立てに間違いはなく、素直な人物のようだ。


「ここに来るのは初めてか?」

「ええ。知人の同伴で来たのですが、規模の大きさに戸惑っていたところです」

「俺も初めて来たんだ。俺以上に挙動不審な人物がいて、思わず声をかけてしまったよ」

「そうだったんですね! 僕だけじゃなくて良かったです。ちょっと安心しました」


 ウトが声をかけた理由を知り、シャーロットはほっとした様子で相好を崩した。


「いつ来たんだ?」

「昨日の夜からです! 一泊して朝からここに」

「そうか。俺はついさっき来たばかりなんだ。良かったら、一緒に回らないか? 話し相手がいた方が面白いと思うんだが」

「一緒に、ですか……」


 ウトの提案を、シャーロットは少し気まずそうに思案する。


「何か、特別な理由があってここに来たのか?」

「いえ。ただ、どうしても買いたい子がいて」

「分かった」


 ウトはシャーロットの言葉を遮り、事情を理解したと頷く。


「目的の人を探したいから、観光には付き合えないってことだな?」

「そうなんです。せっかくお誘いいただいたのに、ごめんなさい」

「いやいや、気にするな」


 素直なシャーロットに好感を抱いたウトは、もう一押しと提案を重ねる。


「俺は暇が嫌いでここに来たんだ。ただ、目的もなく見ても面白くないだろ? 良かったら、その子を探すの手伝わせてくれないか?」


 申し訳なさそうにしていたシャーロットはその提案を聞き、喜びと申し訳なさの混じった半々の表情でウトを見返す。


「手伝っていただけるんですか?」

「もちろん。初めて同士で親近感が湧いてな。俺でよければいくらでも手伝うよ」


 逡巡の後、シャーロットはその申し出を受け入れた。


「ありがとうございます。では、お言葉に甘えて」

「よろしく、シャル」

「よろしくお願いします、オグマさん」

「敬語はやめてくれ。お互いの身分もわからないし、今は友人として接してくれ」

「分かった!」


 一人で心細かったのかシャルは嬉しそうに相好を崩した。



 それから、シャーロットは自身で描いた奴隷の似顔絵をウトに見せた。それはあまりに不憫で下手くそな絵で、その情報では全く手掛かりにならないとウトが苦言を呈した。

 シャーロットは涙目になりながらその人物の特徴を説明し、ウトが代わりに似顔絵を描く事になった。


「壊滅的にセンスがないな」

「うぅ、ごめん。絵は昔から苦手なんだ」


 ウトが自身の似顔絵と比較して苦笑いをこぼす。シャーロットの絵は不気味でとてもバランスが悪い。対してウトの絵は特徴を捉えており「そっくりだよ」とシャーロットはとても喜んでいた。


「で、この猫耳の女性を探しているんだな?」

「そうなんだ。年齢は三十を少し越えたくらいで、紫黒色の艶やかな髪だった」

「よし、行くぞ」


 ウトは似顔絵をポケットにしまい腰を上げる。シャーロットもそれに続き、二人で観客席から去る。


「白仮面、ちょっといいか?」

「はい。何なりとお申し付けください」


 ウトは観客席の外側に常駐していた従業員に声をかけた。


「こういうのを探しているんだが、取り扱っているか?」


 そう言いながらウトが似顔絵を差し出す。白仮面はそれを受け取ると、逡巡のうち「すぐにご用意させていただきます」と回答した。

 それから二人は、プライベート用の一室に通され、数分ほど待っていると、鎖に繋がれた奴隷が十数人ほど部屋に運ばれてきた。


「仕事が速いな」


 感心したウトに対し「お褒めに預かり光栄です」と白仮面が返す。


「いかがですか。お気に召す奴隷はおりますでしょうか?」


 白仮面の問いにウトは沈黙を返す。悩むのはシャーロットの仕事である。

 シャーロットは連れて来られた奴隷をまじまじと観察し、がっかりしたように首を横に振った。


「さっき見せた特徴の奴隷はこれで全部か?」

「そうですね。先ほどお見せいただいた絵に近い奴隷はこれで全てになります」

「そんな……」


 白仮面に突きつけられた事実にシャーロットは肩を落とす。


「過去に売られた奴隷の情報は見られないか?」

「そ、それは致しかねます」


 ウトの無茶振りに対し、白仮面が動揺した様子で反応する。


「買った方の情報は要らない。奴隷の情報だけでも見せてくれないか?」


 諦め悪く詰め寄るウトに、白仮面は申し訳なさそうにノーと返す。その答えを聞いたウトは、冷たく「そうか」とだけ呟いた。


「無理言って悪かった。もし似たような奴隷が入った時は教えてもらえると助かる」

「かしこまりました。ご希望に添えず誠に申し訳ございません」

「行こう、シャル」

「うん……」


 ウトは意気消沈のシャーロットを連れ部屋を後にする。二人の姿が見えなくなるまで、白仮面は頭を下げていた。


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