表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/40

ルイスVS襲撃者

「王国の殲滅兵器か。お前とは一度戦ってみたいと思っていた。が、今じゃないな」


 襲撃者は屋根の上から返す。


「僕がいるからには、お前に勝ち目はない! 大人しく投降しろ!」

「ハハハハハッ! 自分が有利な状況にいると思い込んでいるとはな。力はあっても頭は少し足りないんじゃないか?」

「なんだと?」


 ルイスを馬鹿にするように笑った襲撃者は、自身の背後から一人の人間を引き摺り出した。

 闇の靄に拘束された人物は、恐怖に怯え目には涙を浮かべている。


「エスリン!?」


 先に反応を示したのはユーバンクだった。


「ユーバンクの愛人だ。こいつも同罪。ユーバンク同様、死んでも構いやしない人間だ」

「人質なんて卑怯だぞ!」

「卑怯? 笑わせるな」


 襲撃者はルイスの間抜けな発言を一蹴し、闇の刃をエスリンの首に当てがう。


「選べ。ユーバンクかこの女か」

「……そんなこと、できるわけないだろ!」

「ならこの女は殺す」

「んぐぅっ!?」


 エスリンの首を刃がするりと撫でる。


「ま、待て!」


 ルイスの制止が入ることを分かっていたかのように襲撃者は手を止める。エスリンの首には一筋の切り傷ができているが、血管までは刃が届いておらず、うっすらと血が滲む程度の傷が浮かんでいる。


「考える時間を、話す時間をくれないか?」

「ふむ、いいだろう。それと、この屋敷の中にいる人間たちも人質だということを忘れるなよ」

「どこまでも下劣なっ……」


 拳を握りしめるルイスは襲撃者を睨みつけ、悔しげに呻きを漏らす。ユーバンクを見つめ、稼いだ時間でなんとか打開策を絞り出そうと試みるが、


「あの男は倒せないのですか!?」

「できないことはない。だけど奴が人質を殺す方が速い。僕は誰も死なせたくない」

「それは不可能です。闇が奴に支配されているうちは、誰一人死なずに勝利することは……」

「じゃあどうすれば!?」


 ルイスの怒鳴り声が庭に響き襲撃者の耳まで届く。


「おうじさまぁ、ユーバンクを差し出せば犠牲は最低限で済むぞ!」

「今考えている!」


 二者択一の状況に頭を悩ませるルイスは、募る苛立ちをそのまま襲撃者にぶつけてしまう。


「おー、怖い怖い」


 人質の生き死にが襲撃者の手にあるのだが、若さか強さ故にか、人質を取られることへの経験が足りていない。

 助け舟を出したつもりの襲撃者だったが、ルイスの鬼のような剣幕に対し(おど)けるような反応を見せる。


「もう少しヒントをやろうか」


 襲撃者はそう言いながら、闇で塞いでいたエスリンの口を解放してやる。すると、エスリンは濁流の如く矢継ぎ早に言葉を発し出した。


「殿下! どうかお助けください! 助けてくだされば夜のご奉仕でもなんでも致します! そこのクズ男よりも私を!」

「なっ、何を言うんだエスリンッ!」

「早く命を差し出しなさいよユーバンク! あなたの身一つでこの屋敷の全員が助かるのよ!?」


 突如始まった二人の口論にルイスは仰天に目を見開いた。襲撃者はこの光景が予想できていたようで、滑稽な二人を嘲笑っている。


「どうだ王子よ。。これでもこの女を助けたいと思うか?」

「命の重さは他人が決めていいものじゃない!」


 迷いに迷うルイスは未だ決断を下すことができない。そんなルイスに今まで待ち続けていた襲撃者も、興味を失ったように冷めた視線を向ける。


「綺麗事だけじゃ、人は助けられないんだよ」

「でん──」


 一瞬だった。闇の刃が容赦なくエスリンの首を跳ね飛ばした。吹き出す鮮血を闇で防ぐ襲撃者は、エスリンの亡骸を屋根から放り捨てる。


「お前の決断が遅いから女は死んだ。まぁ、この女はユーバンクを差し出しても殺すつもりだったけどな」

「クズ野郎がっ!!」


 ルイスは激昂し魔法を放つ。生み出された無数の火球が襲撃者に目掛けて飛んでいく。襲撃者の視界が炎で埋め尽くされ、その明かりによって背後に影が伸びる。


「怒ってはいても、戦闘に関しては侮れないな」


 襲撃者は影から漆黒の剣を生成し、火球を飛んで回避する。


「だぁあっ!」

「ちっ……」


 魔法による目眩しから接敵、抜剣したルイスはそのまま襲撃者に斬りかかる。ルイスの烈火の如き猛攻に襲撃者は闇の魔法で手数を増やし対応する。


「殲滅兵器のくせに対人戦も強いのかよ!」


 悪態をつく襲撃者は足下の影や服の内側から闇の棘を射出する。氷柱のように細く鋭い闇魔法は飛び道具として使われ、戦術の幅が広い。しかし、ルイスを追い詰めるにはそれでも足りない。


「ユーバンクは殺さなければならない」

「伯爵は誰よりも国を想っている立派な人だ! 殺させはしない!」


 ルイスが襲撃者を押している。闇による手数の多さを、ルイスは同じように魔法で相殺していく。


「本当にユーバンクが愛国心の高い人間だとでも思っているのか?」

「ああ。思っているとも!」


 ルイスの剣が襲撃者の腕を掠める。


「お前の目論みには気付いている! この国を弱らせようとしても無駄だ! この僕がお前を止めてみせる!」

「本当に、哀れで、バカな王子だ。身内であるからと妄信していると、いつか寝首を掻かれるぞ?」

「僕はこの国を支えている伯爵を信じている!」


 襲撃者の言葉に微塵も耳を貸さないルイス。隙を作ろうと激しい攻撃を繰り返すが、襲撃者は苦しげではあるものの、決定的な隙は生み出さない。ルイスの動きをよく観察し、的確に対応してのける。


「埒が明かないな。魔力が尽きるまで俺と踊り続けるか?」

「お前が大人しく捕まってくれれば、すぐに終わるぞ?」


 ルイスの剣と襲撃者の剣が何度も交わり、散った火花が二人の顔を掠めていく。

 拮抗する力のぶつかり合いの末、ルイスの剣が先に断末魔をあげた。半ばから二つに剣が砕け銀色の破片を散らす。


「くっ……」


 襲撃者は好機を得たりと、隙のできたルイスの腹に蹴りを入れ距離を取る。生まれた一瞬の余裕に、襲撃者はユーバンクに向けて剣を投げた。


「伯爵! 避けろ!」


 叫びながら、ルイスの指先から礫ほどの雷が射出される。咄嗟の魔法は襲撃者の剣に当たるが、軌道をわずかにブレさせるだけで、その鋒は未だユーバンクを捉えている。


「──間に合え!」

「何を!?」


 魔法の超高速構築。ルイスの足元に幾何学な魔法陣が現れた。それは魔法の完成と共に眩い光を放つ。

 勝ちを確信していた襲撃者はルイスを見て戸惑う。今更何をしたって遅い。投げた剣よりも速くユーバンクの元へ行くのは不可能だ。だが、ルイスは諦めていない。


「空間転移!」


 突如ルイスの姿が消える。その行方を追った襲撃者は、ユーバンクの目の前に立つルイスを見て驚愕に目を見開いた。


「空間移動なんて高度な魔法を、あの一瞬で!?」


 ルイスは襲撃者に背を向けた形で、ユーバンクと剣を遮るように立っている。その背中目掛けて漆黒の剣が進んでいく。難しい魔法を無理やり発動させた反動でルイスは息を切らし、そこから動こうとしない。


「おいっ!?」


 黒剣がルイスの背中へと深々と突き刺さる──直前に、弾けるように姿を消した。身を挺してユーバンクを守ろうとしたルイスは、背中を襲うはずの刃の感触が一向に来ないことに疑問を抱く。


「もう生きて捕らえようなんて考えない!」


 ルイスは感じた疑問を一瞬のうちに頭の隅へと追いやり、二メートルはあろう火の鳥を魔法によって作り出す。


「待て待て、屋敷の中には人質がいるんだぞ!?」

「僕はもう迷わない。助けるべき命を選択する覚悟を決めた!」


 冗談を言っているようには見えないルイス。後ろではユーバンクが顔を青褪めさせている。


「ちっ……。今日のところは諦めてやるよ!」


 襲撃者はルイスへと黒い短剣を投げつけ、屋敷の裏側へと飛び降りていった。襲撃者が放った短剣を受け止めたルイスは、短剣をマジマジと見つめる。しばらくすると、短剣は形を崩し、空気に溶けるように消えた。


「はぁああああああああああ……疲れた」


 長いため息を吐いたルイスは魔法で作り出した火の鳥を消し去り、その場に崩れ落ちるように腰を下ろした。


「ほ、本当に屋敷を焼き払われるのかと思いました」

「いやぁ、ハッタリが効いてよかったよ。もし相手が引いてくれなかったら、やるしかなかった」


 ユーバンクもほっと息をついて、ルイスに手を差し出し立ち上がらせる。


「また来るでしょうか?」

「おそらくね。研究所を捨てるか移動させるか。どちらにしろ伯爵は姿を隠した方がいい」

「研究所を捨てるなんて……」

「命が懸かっている状況です。全ては望めません」


 ユーバンクに取捨選択を迫ったルイスは、屋敷の中へと戻り使用人たちの安否を確認した。それから数日、襲撃者が現れることはなく、ルイスは王都へと帰ることとなった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ